聖白薔薇少女 

平坂 静音

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 雪葉の耳には届いていないようで、ただ苦しげに唸るばかりだ。それでいて雪葉は無意識にお腹を撫でている。

「わたしの赤ちゃん……わたしの……」

「雪葉……。ああ、どうしょう?」

 美波はどうにもじっとしていられず、ためしに階下に行ってみたが、やはり鍵がかけられていて玄関のドアは開かない。杉もいない。

「ねぇ、どうにかして、ここから出られないの?」

 夕子は考えるような顔をした。

「ひとつだけ抜け出せそうな窓があるけれど」

「え? どこ?」

「一階の厨房の窓。小さいけど、あそこならぎりぎりでいけるかも」

 二人はとにかく厨房に向かってみた。

「ここよ。ここ」

 美波が厨房へ入ったのは初めてだ。

 ごたごたといろいろな器具がなんらんでおり、料理場独特の調味料や洗剤の匂いのする場所に、やはりあれこれ詰めこまれた棚があり、それを夕子がずらすと、たしかに小窓がある。

「待ってて」

 急いで美波は隣の食堂から椅子を持ってきた。すぐ側に置いて窓のサッシを開けると、かなりきついが、細い美波ならどうにかくぐれそうなスペースができる。

「どう?」

「いけそう。本館へ行って、杉さんを呼んでくるから、雪葉の側についてて」

 美波は自分が行くことを決心していた。
 
 露見した場合、すでに脱走歴のある夕子はさらにひどい罰を受けることになる。ここはやはり自分が行くべきだろう。

「杉さんは駄目」

「え?」

 椅子に足をかけなおして、美波は夕子を見た。

「杉さんに頼んだら逆効果だって。本館についたら誰にも見つからないようにして電話をかけるのが一番よ。連中に見つかったら、それこそ雪葉の赤ちゃんは生きてられないって」

 どういうことよ、と問いただすには時間がなかったが、美波の直感はなぜか夕子のその助言を否定できないのだ。

「で、でも電話番号が……」

「シスター・グレイスの舎監室なら生徒の名簿があるかも。そこで調べられるかも」

「や、やってみる」

 美波はとにかく今は雪葉のお腹の赤ちゃんを救うために出来るかぎりのことをする決心をした。失敗してひどい目に合わされても、何もせず知らんぷりしているよりましだ。このまま雪葉とお腹の子を見殺しにしてしまえば、自分は一生後悔する。

 窓から足を出し、死にもの狂いで身体を反転させる。そうすると降りやすくなる。
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