聖白薔薇少女 

平坂 静音

文字の大きさ
172 / 210

しおりを挟む
 ここで言う神父とはチャールズ神父のことだろうか。美波は疑問に思った。厨房の女性が生徒だったころなら前任の神父ということもありえる。
 
 考えこんでいる美波を見て、夕子は数秒黙ったあとに口をひらいた。

「美波、あのこと知っている?」

「あのことって?」

「あたしらの出生のこと」

 美波は息を飲んだ。

 夕子も知っていたのだ。

「き、聞いたわけじゃないんだけれど……偶然知ってしまって。夕子はどうやって知ったの?」

 昨夜のごたごたを説明するには時間がなく、ぎゃくに美波は訊き返してみた。

「学院に連れもどされたとき、ある人が教えてくれたの。学院長からすると、あたしらは罪の子なんだって。汚れた血を引いているんだって言われた。まぁ、うちは、母さんは普通の人だったけれど、お祖母ちゃんとかひいお祖母ちゃんは〝堕落した女〟だったみたい」

 堕落した女――。

 夕子は苦笑いした。美波は言う言葉がない。

「ひいお祖母ちゃんは――勿論顔も知らないけれど、昔この『マグダレン・ホーム』で父親のいない子を産んで、それで、私にはそのひいお祖母ちゃんから汚れた血が伝わって……、だからあたしもこんなふうになったんだってさ」

 淡々と夕子は言う。

「……」

「でも、だから何? そんなの、あたしらに全然関係ない話じゃない?」

 夕子の瞳は反骨に美しくきらめき、美波はそこに救いを感じた。

「そうよね。……わたしたちには関係ないよね」

 とは言いつつも、自分の問題や自分の家に関することを今ここで夕子に打ち明ける気にはなれないし、時間もなかった。それよりも、美波は他に言うことを思いついた。

「夕子、あの」

「あ、やばい、もう行かないと。点呼とってるかも」

「あ、うん」

 二人は急いで廊下に出ると、すでに全員が集まっている庭へと向かった。




 とにかく寝ていないので、その日の労働はつらかった。

「あんた、大丈夫? 私より顔色悪いわよ」

 カーテンを籠につめながら美香がそう訊ねるほどひどい顔色だったようだ。

「うん。ちょっと睡眠不足で。……美香は最近体調どう? 前に、お腹こわしてたけど、あれからどうなの?」

 言いつつ、次の部屋に入る。靴を脱いで机に乗って窓のカーテンを取り、美香にわたす。美香はさすがに身重なのであまり危ない作業はさせられない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...