オフィーリアたちの夜会

平坂 静音

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レオノール 二

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 駒田の苦笑顔を思い出しながらも、由樹の目は、ちょうど彼女からななめ右下の位置にいる中西みゆきにいく。
 桜の季節の陽光降りそそぐなかにあって、多少、先入観もあるのだろうが、やはり青いほどに白い肌は、三十人ほどの生徒がいっしょに映っている写真のなかでも目をひく。
 この写真を撮ったとき、いっしょに映っている生徒たちの中で、誰がこれからほんの四ヶ月後に、彼女がみずから死を選ぼうなどとすると予感したろう。いや……したかもしれない。
 一瞬、もの思いにふけりそうになった由樹は、ドアの開く音に我にかえった。
 赤い半そでのTシャツにデニムのスカートといった装いの、ぽっちゃりした体型の少女がはいってきて、きょろきょろと店内を見まわしている。
 由樹は一瞬迷ってから、もう一度写真の顔と照らし合わせて、手を上げてみせた。少女は由樹のすぐそばまでやってきた。
「君、田添さん?」
「はい。田添美沙です」
 甲高そうな声で答えると、躊躇することなく少女はどさりと由樹のむかいの席に腰かけた。クッションをのせてある木造の椅子がきしむ。
「何か頼んでもいいですか? じゃ、オレンジジュースお願いします」
 良くいえば物怖じせずはきはきしており、悪くいえばやや図々しい態度に、由樹はあらためて意外な気がして田添美沙を見つめた。
 中西みゆきとはまったくちがうタイプのようだ。唯一似ているのは色白なところだが、写真で見た中西みゆきの顔の白さが、冷蔵庫の奥で冷えた卵の殻の白さなら、目のまえの美沙の肌は湯でたあげたばかりの剝きみの卵の白さだ。
「あの……今日は先生たちいないんですか? お兄さんと二人だけ? お兄さんが、探偵さんなんだ。うわぁ、びっくり。探偵さんなんて初めて見た。え、プロじゃない? それでもなんだかすごい! あ、ごめんなさい、あたしったら、みゆきがあんな事になったのにはしゃいじゃって」
「いや、こちらこそ夏休みちゅうだっていうのに、呼び出してごめんね。君はみゆき君と仲がいいんだってね?」
「ええ、まぁ。一年のとき同じクラスになって、最初はちょっと固そうな子だなぁ、辛気臭くて苦手だなぁ、って思ってたんだけれど、席がとなり同士になって、ちょっと話してみるとすごく気安くていい子で。なんていうのか、もろ、わたしのタイプだったんで」
「タイプ?」
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