オフィーリアたちの夜会

平坂 静音

文字の大きさ
上 下
23 / 63

侍女か道化か 一

しおりを挟む
「この手紙、読んでもらっていいかな」
 気まずい沈黙をふりはらうように、由樹が例の手紙のコピーをわたすと、美沙の色白の顔が青くなり、やがてどす黒くなっていった。 
「サイテー……なに、これ?」
「こんな事するような人間に心当たりないかな?」
 美沙は茶色にぬった眉をひそめて考えこむような顔をした。
「うーん。みゆきは可愛いからけっこう妬まれてもいたし、オフィーリア役に落ちた子から見たら憎たらしいかもしれないけれど……。正確にいうと、落ちた子よりも、その子を推していた親衛隊みたいな連中が怒ってたんですよ」
「親衛隊?」
「そ。とりまき、シンパみたいなもんですね女王様にはかならず何人か侍女みたいなもんんがいるんですよ」
「君は……?」
 由樹よしきは問うような視線をしつつも、言葉がでなかった。意味するところを察したのだろう、美沙は声をあげて笑った。
「やだぁ! 私は侍女なんかにならないですよ」
 けっして、まちがっても、由樹の問いかけを、自分が女王様かという意味には思わない。妙なことだが、由樹は感心した。そう。由樹は、君は中西みゆきの侍女、とりまきなのか? と訊きたかったのだ。
「私ね、正直、女王様になる生徒よりも、侍女になる生徒の方が嫌いなんです。ああいうの、なんて言うんですか? 虎の威を借る狐っていうんじゃないかと思ってるの」
「へぇ、けっこうむずかしい言葉知っているんだね」
 お世辞ではなく由樹はまた感心したのだ。
 この子は、けっして駒田や、この子自身が思っているほど愚かではないのではないか。
「いるんですよぉ。べつに自分はたいしたもんじゃないくせに、女王様の側でふんぞりかえって下級生や気のよわい子にいばるやつ。あたし、そういうのが一番大嫌い」
「うん。僕もそういうのは良くないと思う」
 我ながらつまらないほどあたりまえのことを由樹は口にした。
「あたしはね、女王様には勿論なれないし、なりたくもないけれど、侍女になるっていうのも嫌なんです。侍女になるぐらいなら、あたしは道化でいいと思っているんです」
 道化。ピエロのことだと由樹は思いあたる。
 昔のヨーロッパの宮廷には、道化がいて、おもしろいことをして人々を笑わせていたのだ。貴族たちのなかにあって異質の存在ではあったけれど、ある意味特別な存在で、ときには貴族や王族ですら冗談の種にしてもゆるされるという特権もあたえられていたという。なんとなく言い得ていると、また感心しつつ、由樹はふと気になって訊いた。
しおりを挟む

処理中です...