龍蘭帝国奇談夜話

平坂 静音

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黒願成就 三

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 ここからでも、上品そうな白いうなじが蓮華の目をひく。黒髪は丁寧に結いあげられ、頭頂とうちょうには花型の銀のかんざしが夏日にきらめいている。
 そして、その薄化粧をほどこした横顔も。
「雪の肌、玉の姿、雲の髪、花のかんばせ……」
 小鳳が冗談っぽく、有名な戯れ歌をひねってつぶやく。蓮華はやきもきした。
 歩くのもたいぎそうな様子は瀕死の病人ではないかと、内心蓮華はけちを付けたくなったが、その弱々しい様子こそ、いかにも龍蘭男の好む繊手柳腰せんしゅりゅうようで、見る人の心をくすぐるのだろう。
「お綺麗だねぇ……宋家のお嬢様。名は、たしか、麗蘭れいらん様」 
 そんな声が近くから聞こえてきた。
 麗蘭。その名はすこし不吉な響きをもって、蓮華の胸にくいこんだ。
 人々の目に見送られるようにして、まるで芝居の主人公のように麗蘭は坂を上がり、寺院の黒塗りの大門へ消えていく。
「あの方は、いったい何を願うんだろうな」
 彼方に消えていく虹をしのぶようにつぶやく小鳳の、いつもは理知的な瞳がうるんでいて、蓮華は声を荒げたくなった。
(しっかりしてよ! あの人は別世界の人なのよ)

 寺にまつられた毘羯羅神将への形ばかりの祈願を終えた蓮華は、早くふたりで大通りを歩きたいが、小鳳は長い眉をすまなさそうにひそめる。
「すまない、蓮華。先ほど、お坊様に呼び止められたのだ。少し話をしていくから、待っていてくれないか?」
 小鳳は寺院の住職に気に入られている。
 先刻も、お坊様は、寺にいた立派そうなお役人に「村一番の秀才です」と小鳳を紹介し、そばにいた蓮華も鼻がたかかった。
「いいわよ。あとで何かご馳走してね」
「わかったよ」 
 蓮華の甘えた言葉に、小鳳は苦笑した。
 寺にもどる小鳳を見送って、蓮華はぼんやりと屋台の売り物を眺めているうちに、槐の並木の辺りまで来ていた。過ごしやすそうな木影が蓮華をいざなう。
 高くなった日から逃げるように黒羅こくらを敷いたような槐の影に蓮華が入りこむと、そこには先客がいた。
「おや、お嬢さん、御用かね? ご依頼の件をお聞きしようか?」
 そこにいたのは墨色の襤褸ぼろをまとった、ひどく老いた女で、蓮華はぎょっとした。
「え? あの、わたし、少し休もうと」
「おやおや、お嬢さん、祭の日、寺の裏門では呪術を売るのをご存知ないのかい?」
 蓮華はびっくりして辺りを見まわした。
 辺りには、ぽつりぽつりと急ごしらえの小屋のような店もあれば、老女のように木影にむしろを敷いて、人待ち顔で座っている黒衣の人も見える。なるほど、この辺りは占術専門の場所らしい。
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