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黒願成就 九
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三日後、宋家の娘は先日まとったのと同じ花嫁衣裳で、この当時龍蘭の人々が蛮族とおとしめる辺境の民の長のもとに嫁した。表向きは妻として、だが実は人質として。
もはや顔をかくすこともなく日の元にさらされた宋麗蘭の顔は、悲哀の一言だったという。
雪の肌に玉の姿、雲の髪に花の顔……哀れ、今日より鬼の妻……人々は悲しい絵を眺めるように彼女を見つめ、そうつぶやき嘆いた。
(ああ……これは、夢なんだわ。まだ、きっと夢が覚めないのね)
輿から下りて、砂埃のなかを、ならぶ敵兵たちに向かって歩きながら、麗蘭の姿をした蓮華はよろめいた。
(どうしたのかしら? 眩暈がするわ。気分が悪い)
あまりの運命の転変に気が張って気づかなかったが、ひどく身体がだるい。
(そういえば……、麗蘭と代わったということは、わたしは、病弱な身体になったということだったんだわ)
今まで、興奮や緊張のあまり気づかなかったが、あらためて意識すると、軽い頭痛がし、吐き気までしてきた。
(気持ち悪い……ああ、だめ、立っていられない。苦しい……)
敵将の天幕に着いたとたんに倒れ、血を吐いてその夜に息絶えた哀れな麗蘭のことを、人々は同情と賞賛をこめて噂しあった。
麗蘭は、もしかしたら敵に身をまかせるのが嫌さに、自害したのではないかと言う人もあり、人々はその凛冽なまでの純情と、花の盛りに終えたみじかい生涯を悼み、讃えた。
その後、都からの援軍が来たこともあり、蛮族の民はあらたな獲物と土地をもとめて東の方へとながれていったため、村は危機をまぬがれた。
だが悲劇の美女にして、救国の女英雄麗蘭のことを人々は忘れなかった。
画家たちはその麗姿を競って絵にし、詩人たちはその結婚直前で愛する夫と切りはなされ、蛮族の男のもとへ人質としておくられた運命の悲惨さを詩にし、歌人たちは声を張らしてその悲歌を歌いひろめた。
麗蘭の物語は芝居にもなり、各地で美女たちが演じ、それを見た観衆は涙した。
小鳳は宋家の金で都に出て学問にはげんだようだが、とくに成功したという話は故郷につたわらず、その後実家にも帰ってくることはなかったという。彼とは逆に、妹の死を聞いて急ぎ村に帰ってきた宋家の息子は、跡を継いで妻をもらい子をもうけ、宋家は繁栄した。
一時、精神錯乱を起こした薬問屋の娘の話が、村で話題になったことがある。
自分は宋家の娘麗蘭だと言いはっていたのだが、麗蘭が蛮族の長のもとへ行ったあと亡くなった話を聞いてからは、憑き物が落ちたように落ちつき、平静をとりもどしたらしい。
彼女は後に家をとびだし、旅芸人の一座にはいったという。顔だちこそは人並みよりちょっと上という程度だが、歌舞の才能があったらしく、いつのまにか一座では一番の売れっ子女優になっていた。
もはや顔をかくすこともなく日の元にさらされた宋麗蘭の顔は、悲哀の一言だったという。
雪の肌に玉の姿、雲の髪に花の顔……哀れ、今日より鬼の妻……人々は悲しい絵を眺めるように彼女を見つめ、そうつぶやき嘆いた。
(ああ……これは、夢なんだわ。まだ、きっと夢が覚めないのね)
輿から下りて、砂埃のなかを、ならぶ敵兵たちに向かって歩きながら、麗蘭の姿をした蓮華はよろめいた。
(どうしたのかしら? 眩暈がするわ。気分が悪い)
あまりの運命の転変に気が張って気づかなかったが、ひどく身体がだるい。
(そういえば……、麗蘭と代わったということは、わたしは、病弱な身体になったということだったんだわ)
今まで、興奮や緊張のあまり気づかなかったが、あらためて意識すると、軽い頭痛がし、吐き気までしてきた。
(気持ち悪い……ああ、だめ、立っていられない。苦しい……)
敵将の天幕に着いたとたんに倒れ、血を吐いてその夜に息絶えた哀れな麗蘭のことを、人々は同情と賞賛をこめて噂しあった。
麗蘭は、もしかしたら敵に身をまかせるのが嫌さに、自害したのではないかと言う人もあり、人々はその凛冽なまでの純情と、花の盛りに終えたみじかい生涯を悼み、讃えた。
その後、都からの援軍が来たこともあり、蛮族の民はあらたな獲物と土地をもとめて東の方へとながれていったため、村は危機をまぬがれた。
だが悲劇の美女にして、救国の女英雄麗蘭のことを人々は忘れなかった。
画家たちはその麗姿を競って絵にし、詩人たちはその結婚直前で愛する夫と切りはなされ、蛮族の男のもとへ人質としておくられた運命の悲惨さを詩にし、歌人たちは声を張らしてその悲歌を歌いひろめた。
麗蘭の物語は芝居にもなり、各地で美女たちが演じ、それを見た観衆は涙した。
小鳳は宋家の金で都に出て学問にはげんだようだが、とくに成功したという話は故郷につたわらず、その後実家にも帰ってくることはなかったという。彼とは逆に、妹の死を聞いて急ぎ村に帰ってきた宋家の息子は、跡を継いで妻をもらい子をもうけ、宋家は繁栄した。
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