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夢花廃園 四
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「戦がおわって都に凱旋し、皇帝陛下の御前ではじめて秘めていた事実を楊将軍は報告した。陛下はおどろかれ、蔡副将軍の自己犠牲の精神にいたく感動され、いそいで副将軍の遺児を宮殿にまねいて、亡父の手柄を誉めたたえたという」
当初、戦地からの風聞で、蔡副将軍を狡猾な横領犯とにくんだ都人は、その事実を聞いておおいに恥じ入り、蔡副将軍の忠誠心に感動した。
人々は贖罪の意味もこめて、将軍の遺業を誉めたたえ、悲劇の英雄として絶賛した。
「そのとき、たしか将軍の遺児であるご子息は、十四歳だったそうね」
「はい。田舎のお祖父ちゃ、いえ祖父が言うには、若干十四歳にして過分の栄爵を受け、五年後には副将軍の地位を約束されたとか」
祖父の言葉なのだろう、栄爵などという固い言葉を黄風が口にするのがおもしろい。
西鬼征伐は十年ほどまえの事であるから、蔡家の子息は現在二十四か五にはなっているだろう。若き副将軍として活躍しているはずだ。
その蔡家の息子が現在、家長となっている屋敷に、幽霊が出るというのだ。
「いったい、どんな幽霊なの?」
「それが鎧姿の男の幽霊で……なんでも首がないんだそうです」
「怖そうね」
春玉は以前、羅家の書庫で見た幽霊画を思い出した。
「ということなの」
ちょうど、その幽霊画を沙蘭が手にしていた。
色鮮やかな女の幽霊の絵が紙の上で舞っている。
画家たちがこのんで描く幽霊画には二種類あり、血みどろで怨嗟に満ちた恐ろしい幽霊と、ひっそりと儚げな、龍蘭男が夢に見る繊手柳腰を文字通り絵に描いた美人の幽霊だ。沙蘭が好んで見るのは当然若く美しい女――ときに美童の幽霊画だ。
「なんだか面白そうね」
沙蘭の黒蜜のような目がいきいきと輝いている。沙蘭の目は春玉とおなじく一重なのだが、地味な雰囲気の春玉の目とはちがって、黒瑠璃をはめこんだようにぱっちりとしていて、そして目尻は上向きに切れ長になっており、十四にしてはどこか大人びた雰囲気をただよわせている。その魅力的な瞳が艶やかにきらめく。
俄然、春玉は不安になった。沙蘭は興奮すると熱を出してしまう。
「ねぇ、もし良ければ春玉、すこしその噂話を調べてくれない?」
従姉妹の物好きがはじまった。春玉は弓型の眉をしかめた。
「調べるって、どうするの?」
「蔡家のお屋敷の人に話を聞いて、どんな幽霊か聞いてみて」
格子をあげた半月窓からは秋の午後の光がふんだんに入ってきて、沙蘭の雪のような肌を輝かせる。純白の衣に薄桃色の袖なしの胴着をまとっている沙蘭は花の精霊のようだ。いや、それこそ画集のなかから脱け出してきた失恋ゆえに病で早死にした悲しい乙女の幽霊のようで、春玉は否とは言えなくなる。この美しく可憐な従姉妹を楽しませてやれるなら、どんなことでもしてやりたい。
「しょうがないわねぇ。まったく、沙蘭の知りたがりには困ってしまうわ。わかったわ。調べてみるわ」
沙蘭は、それこそ薄桃色の花弁が開くような笑みを見せた。
当初、戦地からの風聞で、蔡副将軍を狡猾な横領犯とにくんだ都人は、その事実を聞いておおいに恥じ入り、蔡副将軍の忠誠心に感動した。
人々は贖罪の意味もこめて、将軍の遺業を誉めたたえ、悲劇の英雄として絶賛した。
「そのとき、たしか将軍の遺児であるご子息は、十四歳だったそうね」
「はい。田舎のお祖父ちゃ、いえ祖父が言うには、若干十四歳にして過分の栄爵を受け、五年後には副将軍の地位を約束されたとか」
祖父の言葉なのだろう、栄爵などという固い言葉を黄風が口にするのがおもしろい。
西鬼征伐は十年ほどまえの事であるから、蔡家の子息は現在二十四か五にはなっているだろう。若き副将軍として活躍しているはずだ。
その蔡家の息子が現在、家長となっている屋敷に、幽霊が出るというのだ。
「いったい、どんな幽霊なの?」
「それが鎧姿の男の幽霊で……なんでも首がないんだそうです」
「怖そうね」
春玉は以前、羅家の書庫で見た幽霊画を思い出した。
「ということなの」
ちょうど、その幽霊画を沙蘭が手にしていた。
色鮮やかな女の幽霊の絵が紙の上で舞っている。
画家たちがこのんで描く幽霊画には二種類あり、血みどろで怨嗟に満ちた恐ろしい幽霊と、ひっそりと儚げな、龍蘭男が夢に見る繊手柳腰を文字通り絵に描いた美人の幽霊だ。沙蘭が好んで見るのは当然若く美しい女――ときに美童の幽霊画だ。
「なんだか面白そうね」
沙蘭の黒蜜のような目がいきいきと輝いている。沙蘭の目は春玉とおなじく一重なのだが、地味な雰囲気の春玉の目とはちがって、黒瑠璃をはめこんだようにぱっちりとしていて、そして目尻は上向きに切れ長になっており、十四にしてはどこか大人びた雰囲気をただよわせている。その魅力的な瞳が艶やかにきらめく。
俄然、春玉は不安になった。沙蘭は興奮すると熱を出してしまう。
「ねぇ、もし良ければ春玉、すこしその噂話を調べてくれない?」
従姉妹の物好きがはじまった。春玉は弓型の眉をしかめた。
「調べるって、どうするの?」
「蔡家のお屋敷の人に話を聞いて、どんな幽霊か聞いてみて」
格子をあげた半月窓からは秋の午後の光がふんだんに入ってきて、沙蘭の雪のような肌を輝かせる。純白の衣に薄桃色の袖なしの胴着をまとっている沙蘭は花の精霊のようだ。いや、それこそ画集のなかから脱け出してきた失恋ゆえに病で早死にした悲しい乙女の幽霊のようで、春玉は否とは言えなくなる。この美しく可憐な従姉妹を楽しませてやれるなら、どんなことでもしてやりたい。
「しょうがないわねぇ。まったく、沙蘭の知りたがりには困ってしまうわ。わかったわ。調べてみるわ」
沙蘭は、それこそ薄桃色の花弁が開くような笑みを見せた。
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