龍蘭帝国奇談夜話

平坂 静音

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朝顔幻想 七

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 彼女を批判するような言葉は口にしたくないし、もしかしたら、本当に未亡人は自分を婿にと望んでいるのだろうかと気になってきた。
(いやいや、考え過ぎだ)
 首をふって、老人と道を急いだ。

「先生、甄家のご令嬢とお会いしたそうですな」
 団扇うちわをせわしなく動かしながら、どたどたと足音をたてて馬家の主がでっぷりと太った身体で英陽の住む離れをおとずれたのは、あれから三日後の夜だった。
 暑さはやわらいでおり、英陽は窓辺で夜風を楽しんでいた。
「ええ、まぁ」
 髭づらの主は、おもしろそうに太く濃い眉をゆがめる。彼が近づいてくると、あたりの空気が熱くなってくるようだ。
「どうやら、あちらでは乗り気ですぞ」
 だみ声で、主はさもおもしろそうに言う。
「乗り気?」
「また、先生、しらばっくれて」
 仮にも県令なのだから、英陽を先生などと呼ぶ必要はないはずだが、主は最初に英陽がそう呼ばれて嫌がる素振りを見せたのをおもしろがって、かえって〝先生〟、〝先生〟と大声で呼びまわって英陽をからかうのだ。こういうところは子どものようで、それがどことなく憎めない。 
「甄夫人は、先生に夏爛お嬢様を嫁にもらってほしいのですよ。わかっていらっしゃるでしょう?」
 また、その話かと英陽はうんざりした。
「私はまだ未熟者で」
 どうにか否定しようと言葉をひねりだそうとしたら、いきなり薄い部屋着いちまいの肩をたたかれ、英陽はそのあまりの力に、窓辺の椅子から転がり落ちそうになった。
 元は武人だったというだけあって、主はかなりの馬鹿力である。
 ひっ、ひっ、ひっ、と彼は下卑た笑い方をした。
「何言っておられる。先生だとて、その気があるから、娘御むすめごと目を見交わされたとか。知っておられるでしょう? この辺りでは、嫁入り前の娘は、めったに男と目を見交わしたりはせんものですよ。昔は、顔を外にさらすのをはばかって、火事になっても側仕えが面紗めんしゃを持ってくるのを待っていたため、深窓の令嬢が逃げおくれて焼け死んだという話もあるぐらいなのですからな」
 都でもその話は聞いたことがある。そして焼け死んだ令嬢はその淑徳しゅくとうぶりを称えられたというが、若い英陽は、気の毒とは思いつつも内心、すこし馬鹿らしく感じていた。
「向こうは、俄然、そのつもりですよ。先生も、誠意ある対応をせねばなりませんなぁ」
「せ、誠意ある対応って、何をするんですか?」
 どうも最初に思っていたより話が深刻そうになってきたので、英陽は身がまえた。そんな英陽を、主は、さも楽しそうに見ている。
「勿論、正式に婚約をするんですよ。いやぁ、めでたいですなぁ。わしも甄家の娘御のことはずっと気にかけていたんですよ」
「へ?」
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