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秘園哀歌 十 終わり
しおりを挟む月が一巡りするころ、秀蘭は鴻家の娘が親の反対をおしきって家を出、寺院にはいり俗世と縁を切ったという噂を耳にした。
「嫁入りまえのいいところの娘が寺院のまえで、自分で黒髪を切ったらしい。寺に入れてくれなければ死ぬとまでいって」
「若い身空でなにがあったんだろうねぇ。一生裕福な生活ができる境遇だというのに」
そんな噂をはこぶ風に、頬と髪をなぶられながら足をはやめる秀蘭は白昼に幻を見た。
いつかの小者が若い娘の手をひいて大通りを歩いているのだ。秀蘭は息をのんだ。
二人とも背に荷物をせおって旅装のようだ。まさか、と秀蘭は我が目をうたがった。
あの皮肉な笑みを見せて男はよってきた。
「見られてしまいましたね。こっちは妻です。これから俺の故郷へ行くんですよ。主の薬草売りはあれからずっと身体をこわしたままで、仕事は俺がかわってやっていたんですが……、田舎に帰りたくなって」
主の腹痛の原因は彼なのかもしれない。彼自身も薬にはくわしいのだから。
新妻がつぶらな瞳で秀蘭に微笑んだ。
都の泥にそまることなく去っていく幸運な娘だ。秀蘭の背から心地よく力がぬけた。
(猿の生き胆も身体にいいといいますよ。もっとも俺はもう薬にはかかわりませんが)
男は日の光のもとで見るとけっこう若い。
たしかに鴻家の娘を診たのはいい勉強になった。
秀蘭はもう会うことのない二人の娘の幸せを願いながら、栄華と罪悪の都の通りを薬箱片手にあるいた。
終わり
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