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邪神礼賛 四
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二人の頭上を、無数の黄金色の葉が舞い、はるか彼方を烏が飛ぶ。柿の木は、あらかた実をとられてしまったが、てっぺんの方にわずかにのこった熟れた果実は朱玉のようにかがやいている。
きびしい冬がくるまえの、祭りの前のまだおだやかでやさしいこの実りの季節は、いつもなら一年のうちでもっとも幸せなときなのに、春花は今はすこしも祝う気になれない。
「そうね、ひとつだけ方法があるわ」
華蓮の目が猫のように妖しく光る。
「なんなの?」
「うーん。でも聞かない方がいいかもよ」
今度は唇のはしがつりあがる。すこし怖い気がして春花は背骨がちぢこまる気がしたが、姉のためならなんとしても聞きたい。
「教えてよ、いったいどうすればいいの」
「あんたが秋月のかわりに神の花嫁になればいいのよ」
「え?」
「祭りの夜にあんたが秋月の衣を着て入れ替わるのよ。あんたは秋月ほど色が白くもないし、顔だちもそう綺麗じゃないけれど、まぁ、そこそこ可愛いし、その分若いんだから、神様もゆるしてくれるかもね」
ずいぶんなことを言われたが、その考えははげしく春花の胸をゆさぶった。自分が秋月の身代わりになれば……。
秋月は救われるし、村人も両親を責めることはないだろう。そのうえ、むこう七年は税を軽くしてもらえるという。春花も父親が毎年税を払うのにどれだけ苦労しているかはうすうす知っていた。
昨夜の秋月の言葉が耳によみがえる。
(わたしが神様のお嫁さまになったら、父さんも母さんも助かるし……。春花、今年の祭りには可愛い晴れ着を買ってやれるわ)
賢い姉は神の花嫁になることの意味を知っているのだろう。知っていて自分の運命を悲観するよりも家族の幸運を祈り、それが叶うことを喜んでいたのだ。
(今年は晴れ着を買ってもらえるの?)
(さっき父さんにお願いしたら、なんとかなるだろうって)
秋月は誇らしげにうなずいた。
(うわぁ、うれしい。去年も一昨年もいつもの衣しか着られなかったんだもの)
無邪気に喜んでしまった。
(華蓮なんか毎年天女様みたいにきれいな着物を着て自慢しているのよ。今年は見せつけてやれるわ)
春花は、昨夜、二階のせまい寝屋で、うすい布団にくるまり、すぐそばに姉の身体のあたたかさを感じながら、そんなことを口走った自分の頭を思いっきり小突いてやりたくなった。
きびしい冬がくるまえの、祭りの前のまだおだやかでやさしいこの実りの季節は、いつもなら一年のうちでもっとも幸せなときなのに、春花は今はすこしも祝う気になれない。
「そうね、ひとつだけ方法があるわ」
華蓮の目が猫のように妖しく光る。
「なんなの?」
「うーん。でも聞かない方がいいかもよ」
今度は唇のはしがつりあがる。すこし怖い気がして春花は背骨がちぢこまる気がしたが、姉のためならなんとしても聞きたい。
「教えてよ、いったいどうすればいいの」
「あんたが秋月のかわりに神の花嫁になればいいのよ」
「え?」
「祭りの夜にあんたが秋月の衣を着て入れ替わるのよ。あんたは秋月ほど色が白くもないし、顔だちもそう綺麗じゃないけれど、まぁ、そこそこ可愛いし、その分若いんだから、神様もゆるしてくれるかもね」
ずいぶんなことを言われたが、その考えははげしく春花の胸をゆさぶった。自分が秋月の身代わりになれば……。
秋月は救われるし、村人も両親を責めることはないだろう。そのうえ、むこう七年は税を軽くしてもらえるという。春花も父親が毎年税を払うのにどれだけ苦労しているかはうすうす知っていた。
昨夜の秋月の言葉が耳によみがえる。
(わたしが神様のお嫁さまになったら、父さんも母さんも助かるし……。春花、今年の祭りには可愛い晴れ着を買ってやれるわ)
賢い姉は神の花嫁になることの意味を知っているのだろう。知っていて自分の運命を悲観するよりも家族の幸運を祈り、それが叶うことを喜んでいたのだ。
(今年は晴れ着を買ってもらえるの?)
(さっき父さんにお願いしたら、なんとかなるだろうって)
秋月は誇らしげにうなずいた。
(うわぁ、うれしい。去年も一昨年もいつもの衣しか着られなかったんだもの)
無邪気に喜んでしまった。
(華蓮なんか毎年天女様みたいにきれいな着物を着て自慢しているのよ。今年は見せつけてやれるわ)
春花は、昨夜、二階のせまい寝屋で、うすい布団にくるまり、すぐそばに姉の身体のあたたかさを感じながら、そんなことを口走った自分の頭を思いっきり小突いてやりたくなった。
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