双珠楼秘話

平坂 静音

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門の向こう 三

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「そうだね、いくら田舎で一番賢いといっても、都に出たらどうなることやら……。悪い遊びにふけらず、きちんと勉強するんだよ」
「は、はい」
 そういえば……。輪花は、以前聞いた呂家にまつわる噂を思い出した。呂家の跡取り息子は、都へ遊学に出て、そのまま帰ってこなかったという。呂家の跡取り息子ということは……この老女の息子ということか。
「で、おまえが輪花、だったかね? たしか歳は十五……だったかい?」
「はい。もうすぐ十六になります、奥様」
 輪花はあわてて手にしていた包みを下ろし、膝をついて礼をした。
「私のことは、大奥様とお呼び」
「はい、大奥様」
 呂夫人はやはり値踏みするような目で輪花をじっくりと見る。
 輪花の白い頬は赤く染まった。こんなふうにじろじろ見られたことなど滅多にない。視線という鋭い針で、頭から足のつま先まで突つきまわされるような気分だ。項に冷や汗が流れる。
「まぁ……いいだろう。器量も育ちも悪くなさそうだ。聞いた話だと、破産した商人の遺児だそうだね」
 まったく遠慮のない言葉だが、輪花はただ頭を低くして我慢した。
「はいふう家の遺児です」
 答えたのは緑鵬だった。
「封? 変わった姓だね。ここいらではあまり聞かないけれど、他所よそ者だったのかい?」
「はい。もとは都の出身で、こちらで生糸の商売を始めて、最初はうまくいっていたのですが……残念ながら、最後には破産して亡くなりました」
 輪花は地面の玉砂利を見つめたまま、緑鵬の説明を聞いていた。
 緑鵬はあえて言葉を濁したが、実際には、父は蔵で首を吊ったのだ。
 その当時のことを思い出すと、今でも輪花の胸はつぶれそうになる。 
 父の遺体を見たわけではないが、冬の日の朝、母の悲鳴が家じゅうに響きわたり、まだ寝室でまどろんでいた五歳の輪花は、びっくりして目を覚ました。使用人たちも皆泣いていた。冬の朝の寒気が小針の束ようになって輪花の柔らかい肌を付き刺したときのことを、輪花は死ぬまで忘れないだろう。あの日、真冬の太陽は残酷なほど美しく輝いていた。
「母親はどうしたんだい?」
「気の毒に、夫の死から一年ほどして、病で亡くなりました」
 緑鵬が口早に説明した。
 それは事実だ。母は失望のあまり床に伏し、痩せおとろえて亡くなった。
「おまえは、天涯孤独かい?」
 老女はひからびた桑色くわいろの顔に一片の感情も表さない。同情も侮蔑もなく、ただ訊きたいことを訊いているというふうで、かえって輪花はすっきりした心持ちになった。
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