双珠楼秘話

平坂 静音

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新婚 三

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「いいかい、何か変わったことがあったら、必ず報告するんだよ」
 枇嬋に鋭い目つきで睨まれ、輪花は内心おどろきつつも首を縦に振った。
「は、はい」
 それはたしかに屋敷の主である火玉からも言われていることなので、逆らう理由はない。だが、枇嬋の目はきびし過ぎる。輪花は背が寒くなった。

「いい天気だなぁ……」
 英風が両手を頭上で組んで、思いっきり身体を伸ばした。
「本当ですね」
 清々しいが、庭石や岩、庭木や花壇に惜しみなくそそがれる。輪花も心身を清められる気がしてきた。
 池では鯉がのどかに泳いでおり、それを石橋の上からおもしろそうに覗き見る英風は、まるで好奇心いっぱいの幼児のようで、輪花はつい笑ってしまう。
「なんだ?」
「失礼しました。……英風様、いえ若旦那様が、まるで子どもみたいに思えて」
「英風でいい。いや、こんな大きな庭や池を見たのは初めてだったので、つい興奮してしまった」
 はすのはざまで赤い鯉が楽しげに尾をゆらしている。
「ご実家に池はないのですか?」
 輪花は林家の小さな庭を思い出しながら訊ねた。林家には庭に合わせておなじく小さな池があったが、そこには魚はいなかった。あるのは睡蓮だけで、それでいいと緑鵬は言っていた。
(こんな狭い池で鯉を飼ったら、それこそ鯉が哀れだ)
 昔、一匹だけ雄の鯉を飼ったことがあったそうで、子どもだった緑鵬はせいいっぱい世話したが、鯉はそれほど長く生きなかったという。
(考えてみたら、この世に自分一人しかいないというのは、辛いものだな……)
 そう呟く緑鵬に、輪花は、だったら二匹飼ってやったら? と無邪気に言ったが、緑鵬の答えは、もう飼いたくないの一言だった。
「ない。池なんて贅沢なものはない。我が家は貧しいからな」
 水中の鯉たちを面白そうに見ながら、英風が笑う。その横顔には少しの引け目も劣等感も感じられない。
「貧しいだなんて。立派なお家だとうかがっています」
「まぁ、多少はれきある家かもしれないが、呂家とは比べものにならないさ。輪花、君はこの村の生まれなのかい?」
「はい……。生まれたのはこの村です。……私が五歳ぐらいの頃、両親が相次いで亡くなりまして……」
 親の話をするときはいつも鼓動が早くなる。
 輪花はこのあと話しを続けるかどうか迷った。
「そうか、それは気の毒に」
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