双珠楼秘話

平坂 静音

文字の大きさ
73 / 140

謎追う夜 四

しおりを挟む
 本当に今日、もはや昨日だが、昨日の昼や夕暮れまで健康で、やや傲慢だった香玉なのだろうか。多少下卑たところもあるが、美しく、生気に満ち、まだまだ夢も希望もたくさん持っていた、あの香玉なのだろうか。使用人の身で派手過ぎると、桂雲けいうん枇嬋びせんに睨まれるほどに贅沢好きで、その名にちなんで香遊かおりあそびが好きで、いつも香に包まれていたいと、まるで夢見る乙女のようなことを言い、ときには桂葉けいはとやりあいもし、桂雲とつかみあいの喧嘩までした、あれほどに生命の活気にみなぎっていた、あの香玉……。
 青白く固まったようなその肌を見ていると、輪花の胸にあらためて同情がわいた。
(気の毒に、香玉。いったい、何があったの?)
 輪花が涙をこぼしそうになっていると、側でかがんでいた英風は鼻を鳴らす。
「輪花、遺体をあらためてみたいのだ。気持ち悪かったら、外で待っていてくれないか?」
 え? と疑問に思う間もなく、英風は香玉の衣を剥ぎ取ろうとする。
「え? ええ!」
「死因を調べて、細かい外傷はないか見てみたいんだ。君は外にいていいぞ」
 輪花は真っ青になったが、自分でも後になると不思議に思うようなことを口走っていた。
「い、いえ、ここにいます。手伝います!」
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫です。やります!」
 震える手で、香玉の衣に手をかけた。
(ごめんなさい!)
 内心で香玉に詫び、遺体から衣を剥ぐ手伝いをした。幸い下女たちの手によって、濡れていた遺体はぬぐわれ、白い経帷子きょうかたびらをまとわせられているが、それでもかなりの労働だった。
 他人が見たら、自分たちはとんでもないことをしているように見えたろうが、このときの輪花は熱にうかされたように、英風のすることをただひたすら手伝うことしか考えていなかった。自分でもうまく説明出来ないが、そうすることで、もやもやとわく疑問を解決する手がかりが見つけられるかも、と思っていたのだ。
(そうよ。私だって不思議に思っているのよ。何故香玉が死んだのか……)
 自害ではないと思うのだが、そうなると、事故か、他殺ということになる。
(まさか香玉は誰かに殺された……?)
 となると、下手人はこの屋敷の人物ということになる。
「ふうむ……」
 英風が鋭い目で遺体を見ている。
「腕のところと……、胸元に痣のようなものがある。見てみろ」
 言われて英風の指さした辺りを見ると、たしかに叩いたように、ルつねったように見えるあとがある。
「おそらく香玉は死ぬ少しまえに誰かとつかみあいの喧嘩でもしたのかもしれない」
「あ、それなら……」
 輪花はやや拍子抜けしながら、厨房での香玉と桂雲の一件を説明した。英風も目を丸くする。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...