75 / 140
弔う女たち 一
しおりを挟む
弔いのために被っていた被衣を下ろすと、彼女の長い黒髪があふれ、輪花は愛莉がまだ若さを残していることを意識した。
「自害だという人もいるけれど……」
「ありえないわ、あの香玉が」
即座に否定する桂葉に向かって、愛莉が首を左右にふった。
「そればかりは解らないわよ。もしかしたら、人知れず悩みでもかかえていたのかも」
「まさか!」
葬儀の場で不謹慎なほど桂葉はたかい声を出し、唇を、まるで滑稽な話でも聞いたかのように笑いにゆがめる。輪花は冷や冷やした。
愛莉はそんな桂葉を見て、眉をしかめて目を曇らせる。
「香玉のような身の上なら……。私もそうだけれど、ふと生きるのが遣る瀬なくなるときがあるかもしれないわよ」
一瞬、輪花たちは黙ってしまった。
さらに愛莉はびっくりするようなことを口にした。
「あなたたちはまだ若いから未来があるし、夢だって見られるだろうけれど、私や香玉のような歳になると、もう人生は先が見えてしまっているんですもの」
「そんな……、愛莉はまだまだ若いじゃない」
輪花の言葉に愛莉は寂しげに笑う。
「ありがとう。……でも、私はもう盛りを過ぎた花だわ。香玉も。それでも私はもう自分の将来を見定めて、それなりに覚悟を決めているけれど、香玉はまだ夢を捨てられないから……。知っていた? 香玉が出入りの商人の男と恋仲になっていたこと」
「え? そうなの?」
輪花は目を見張ったが、桂葉が落ち着いているところを見ると、彼女は知っていたようだ。
「絹問屋の人でしょう? 噂には聞いたけれど……。あの人には許婚者がいるって聞いたわ」
「そうよ。でも、香玉は彼との結婚を真剣に願っていたみたい」
桂葉の唇がやや残酷にゆがむ。
「無理よ。相手の男の方が若いって……」
輪花はたしなめるように、そっと桂葉の袖を引いた。だって……、とまだ何か言いたげに桂葉は頬をふくらませた。
「香玉は夢を見ていたの。そしてその夢がやぶれたら、いくら普段は気強くて明るい香玉だって死にたくなるかもしれないわ」
そう言い終わると愛莉はため息を吐く。
「そ、それじゃ、香玉はやっぱり自害?」
胸にひっかかるものを抑えながら言った輪花にたいして、愛莉はまた眉を寄せた。
「いくら浅瀬でも、本人が死ぬ気だったら死ねたかもしれないわ」
そんなことがあり得るだろうか。輪花は悩んだ。
「自害だという人もいるけれど……」
「ありえないわ、あの香玉が」
即座に否定する桂葉に向かって、愛莉が首を左右にふった。
「そればかりは解らないわよ。もしかしたら、人知れず悩みでもかかえていたのかも」
「まさか!」
葬儀の場で不謹慎なほど桂葉はたかい声を出し、唇を、まるで滑稽な話でも聞いたかのように笑いにゆがめる。輪花は冷や冷やした。
愛莉はそんな桂葉を見て、眉をしかめて目を曇らせる。
「香玉のような身の上なら……。私もそうだけれど、ふと生きるのが遣る瀬なくなるときがあるかもしれないわよ」
一瞬、輪花たちは黙ってしまった。
さらに愛莉はびっくりするようなことを口にした。
「あなたたちはまだ若いから未来があるし、夢だって見られるだろうけれど、私や香玉のような歳になると、もう人生は先が見えてしまっているんですもの」
「そんな……、愛莉はまだまだ若いじゃない」
輪花の言葉に愛莉は寂しげに笑う。
「ありがとう。……でも、私はもう盛りを過ぎた花だわ。香玉も。それでも私はもう自分の将来を見定めて、それなりに覚悟を決めているけれど、香玉はまだ夢を捨てられないから……。知っていた? 香玉が出入りの商人の男と恋仲になっていたこと」
「え? そうなの?」
輪花は目を見張ったが、桂葉が落ち着いているところを見ると、彼女は知っていたようだ。
「絹問屋の人でしょう? 噂には聞いたけれど……。あの人には許婚者がいるって聞いたわ」
「そうよ。でも、香玉は彼との結婚を真剣に願っていたみたい」
桂葉の唇がやや残酷にゆがむ。
「無理よ。相手の男の方が若いって……」
輪花はたしなめるように、そっと桂葉の袖を引いた。だって……、とまだ何か言いたげに桂葉は頬をふくらませた。
「香玉は夢を見ていたの。そしてその夢がやぶれたら、いくら普段は気強くて明るい香玉だって死にたくなるかもしれないわ」
そう言い終わると愛莉はため息を吐く。
「そ、それじゃ、香玉はやっぱり自害?」
胸にひっかかるものを抑えながら言った輪花にたいして、愛莉はまた眉を寄せた。
「いくら浅瀬でも、本人が死ぬ気だったら死ねたかもしれないわ」
そんなことがあり得るだろうか。輪花は悩んだ。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
君の左目
便葉
ライト文芸
それは、きっと、運命の歯車が狂っただけ。
純粋な子供の頃から惹かれ合っていた二人は、残酷な運命の波にのまれて、離れ離れになってしまう。
それもまた運命の悪戯…
二十五歳の春、 平凡な日々を一生懸命過ごしている私の目の前に、彼は現れた。
私の勤める区役所の大きな古時計の前で、彼は私を見つけた…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる