双珠楼秘話

平坂 静音

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散り花 七

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「大奥様、さしでがましいようですが、一度、その愛莉という娘からじかに話を聞かれてみては?」
 本来なら雇われた絵師が屋敷の主にこういう提案をすることなどあり得ないのだが、火玉はよっぽど清鳳を気に入っているらしく、不快な様子をすこしも見せず、微笑んですらいた。
「……そうだねぇ。愛莉の言い分も聞いてみようかね。ここへ連れて来るといい」
「あ、ありがとうございます、大奥様!」
 どうなるかはまだわからないが、少なくとも英風が帰ってくるまでは時間が稼げたと、輪花は少しだけ安心した。

 輪花は奥殿を出て、納屋へと向かった。気持ちはすっかり軽くなっていた。
 見張りの男は休憩を取りにいったのか、納屋の前には誰もおらず、輪花は深く考えることもなく、一刻もはやく愛莉を安心させてやりたく、扉から声をかけた。
「愛莉、喜んで。大奥様が話を聞いてくださるって」
 応えはない。
「愛莉? どうしたの? 寝ているの?」
 輪花はかんぬきをどうにかして外すと、薄暗い納屋に足をふみいれた。
「愛莉?」
 やはり愛莉は眠っているようだった。藁をかさねた隅で横たわっている。
「愛莉、起きて。大奥様のお呼びよ」
 横になっている愛莉を見た瞬間、輪花はつい二日前、同じようにここで横になっていた香玉を思い出した。血の気のない青い顔。それは、もはや二度と血のかようことのない……。
「愛莉……?」
 愛莉は横むきになっているため、横顔だけが薄闇に青白い半月のように浮かびあがる。……そして、首のあたりに何やら白っぽいものが見える。
 輪花は息を飲んで、唇を閉じた。そして、ふたたび口を開けたときは、自分でも信じられないような声をあげていた。

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