140 / 140
再出発 四
しおりを挟む
「考えてみるがいい。自分が使用人として働いていた家が、自分のものになり、そこで女主として君臨するなど、これほど幸福なことはないでしょう」
「だが、それは汚れた金で買われたものだ」
英風は厳しい口調になってしまった。
「その金は、法に背いて稼いだものでしょう? そんな金で買った家で、彼女が幸せになれると思いますか? 万が一、彼女が自分の出生を知って、幸福を感じられると思いますか? 母が夫を裏切り、その結果自分が生まれたのだと知って?」
「金は金だ。……それに罪はすべて私が背負って地獄に持っていく。それも、そう遠くない」
呆殷は咳きこんだ。たしかにその日はそう遠くないようだ。英風はすぐに決断した。
「もし……良ければ、私に彼女をまかせてくれませんか?」
「君に? だが、君はすでに一度は結婚した身だろう。まぁ、少々事情があるが」
「そういう意味ではありません!」
英風は必死に言葉を考えた。自分でもうまく説明つかないのだ。
「友人として彼女の後見をします。そして……新しい生き方と、正しい幸福を見つけようと思っているのです」
言っていて、自分でも面映い。だが、このまま輪花があの呂家に住むことになっても、決して幸せになれるとは思えない。
しばし二人の間に沈黙の帳が張り詰められた。そして、ようやく呆殷は口を開いた。
「好きにするといいでしょう」
英風はこのときの会話は自分の胸に秘めておくことにした。
「待たせたな。荷物はこれだけか?」
西破が大きな手で荷物を馬車に放りこんでいく。
「ありがとうございます」
輪花は行儀良く頭を下げる。
「世話になりっぱなしだな」
「気にするな。水臭い。さ、行くぞ。都まで、ちょっとした旅になるな」
三人は馬車に乗り込んだ。
三人の前方には、長い道が続いている。
終わり
この作品は完全なファンタジーですが、次の資料を参考にしています。
『紅楼夢』
岩波書店 曹雪芹作 井波陵一訳
『日本と中国の文様事典』
視覚デザイン研究所
八仙の呼び名に関しては、Wikpediaを参考にしました。
「だが、それは汚れた金で買われたものだ」
英風は厳しい口調になってしまった。
「その金は、法に背いて稼いだものでしょう? そんな金で買った家で、彼女が幸せになれると思いますか? 万が一、彼女が自分の出生を知って、幸福を感じられると思いますか? 母が夫を裏切り、その結果自分が生まれたのだと知って?」
「金は金だ。……それに罪はすべて私が背負って地獄に持っていく。それも、そう遠くない」
呆殷は咳きこんだ。たしかにその日はそう遠くないようだ。英風はすぐに決断した。
「もし……良ければ、私に彼女をまかせてくれませんか?」
「君に? だが、君はすでに一度は結婚した身だろう。まぁ、少々事情があるが」
「そういう意味ではありません!」
英風は必死に言葉を考えた。自分でもうまく説明つかないのだ。
「友人として彼女の後見をします。そして……新しい生き方と、正しい幸福を見つけようと思っているのです」
言っていて、自分でも面映い。だが、このまま輪花があの呂家に住むことになっても、決して幸せになれるとは思えない。
しばし二人の間に沈黙の帳が張り詰められた。そして、ようやく呆殷は口を開いた。
「好きにするといいでしょう」
英風はこのときの会話は自分の胸に秘めておくことにした。
「待たせたな。荷物はこれだけか?」
西破が大きな手で荷物を馬車に放りこんでいく。
「ありがとうございます」
輪花は行儀良く頭を下げる。
「世話になりっぱなしだな」
「気にするな。水臭い。さ、行くぞ。都まで、ちょっとした旅になるな」
三人は馬車に乗り込んだ。
三人の前方には、長い道が続いている。
終わり
この作品は完全なファンタジーですが、次の資料を参考にしています。
『紅楼夢』
岩波書店 曹雪芹作 井波陵一訳
『日本と中国の文様事典』
視覚デザイン研究所
八仙の呼び名に関しては、Wikpediaを参考にしました。
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(4件)
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
君の左目
便葉
ライト文芸
それは、きっと、運命の歯車が狂っただけ。
純粋な子供の頃から惹かれ合っていた二人は、残酷な運命の波にのまれて、離れ離れになってしまう。
それもまた運命の悪戯…
二十五歳の春、 平凡な日々を一生懸命過ごしている私の目の前に、彼は現れた。
私の勤める区役所の大きな古時計の前で、彼は私を見つけた…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
ご感想をありがとうございます。
最後まで読んでくださったのかと思うと、本当にありがたいです。
やっぱり、登場人物多過ぎですね。うーん。
ずっと愛読していましたが、物語進むにつれて黙って読んでいられなくなりました。
読み終わると緊張が解けてふぅっと息を吐いている自分がいます。
あんまり素晴らしいと思ったので、拙い感想でも伝えたくなってしまいました。
物語の世界に引き込んでくださってありがとうございました。
ありがとうございます。ちょっとでも楽しんでくださったら、嬉しいです。まだ続きますので、最後まで見届けてください。
ご無沙汰しております。
たびたびの駄文、申し訳ありません。
いやはや、素晴らしいペースで話が進んでいきますね。展開の妙に目が離せません。
まさかあの人があんなことになるとは…。英風と主人公のコンビ、いい味を出していると思います。
あのシーンでは、国は違いますが、なんとなく『獄門島』や『悪魔の手毬唄』を思い出して、うれしくなりました。作者様の素晴らしい所は、単なる中華ファンタジーで終わらず、そこに骨太のミステリの構造をそれとなく溶け込ませているところです。更新、楽しみにしています。
ありがとうございます。その作品の作者も好きなんです。ミステリーというと、ちょっとレトロな雰囲気のなか、人間関係のいざこざや、家族のどろどろした確執のなか、誰かが死ぬ、というタイプが好きなんです。どうか、この後も引き続きお付き合いください。