1 / 54
占い師 一
しおりを挟む
今にして思えば、すべてはわたくしの浅はかな思い付きから始まったことでございます。
わたくしはアニエスと申しまして、当時は、祖国で若い主にお仕えしておりました。
ことの始まりは、主が夜な夜な悪夢に悩まされたことからでございました。
口数すくなくなり、食欲もおとろえ顔色が悪くなった主を心配するあまり、わたくしは当時下町でよく当たると評判だった占い師の老女のもとへと主を連れて参りました。
そうです、全てはそこから起こったのでございました。
「さて、お嬢さん、あんたの願いは何かね?」
二本の蝋燭がともる薄暗い天幕のなか、占い師に訊かれ、椅子に座っていた主は、カーディナル(頭巾つきマント)で隠している顔を物憂げにうつむけました。わたくしは内心、はらはらしながら、そっと声をかけました。
「ひめ、いえ、お嬢様、さ、」
うながすように主の背を撫でますが、主はうつむいたままで、わたくしはいっそうやきもきしました。普段ははきはきした方なのでございますが、時折ひどく無口になって考え込むようになり、そうなると妙に偏屈になってしまうところが主人、カテリナ様にはございました。
わたくしは仕方なく、カテリナ様に代わって占い師に告げました。
「あの、実は……、お嬢様は、悪夢にお悩みなのです」
「ほう?」
わたくしたちは人に知られては困ると思い、マントで顔をおおったままでございましたが、この国では未婚の娘は外では顔をあまりあらわにしない習慣がありますので、別にそれは奇妙なことではございませんでした。
おそらく、身なりからして良家の令嬢とその小間使いと老婆は思っていたことでございましょう。それは必ずしも外れてはおりませんでした。
「悪夢というと、どんな?」
「あの、それは……恐ろしい魔物に襲われる夢だそうですの」
「ふうむ……」 老婆がひからびた指先で真紅の繻子布のうえの水晶玉を撫でたのを、つい昨日のことのようにわたくしは今でもはっきりと覚えております。
「お嬢さん、何か心配事があるのではないかい?」
老婆はカテリナ様に向かって言いました。
わたくしはアニエスと申しまして、当時は、祖国で若い主にお仕えしておりました。
ことの始まりは、主が夜な夜な悪夢に悩まされたことからでございました。
口数すくなくなり、食欲もおとろえ顔色が悪くなった主を心配するあまり、わたくしは当時下町でよく当たると評判だった占い師の老女のもとへと主を連れて参りました。
そうです、全てはそこから起こったのでございました。
「さて、お嬢さん、あんたの願いは何かね?」
二本の蝋燭がともる薄暗い天幕のなか、占い師に訊かれ、椅子に座っていた主は、カーディナル(頭巾つきマント)で隠している顔を物憂げにうつむけました。わたくしは内心、はらはらしながら、そっと声をかけました。
「ひめ、いえ、お嬢様、さ、」
うながすように主の背を撫でますが、主はうつむいたままで、わたくしはいっそうやきもきしました。普段ははきはきした方なのでございますが、時折ひどく無口になって考え込むようになり、そうなると妙に偏屈になってしまうところが主人、カテリナ様にはございました。
わたくしは仕方なく、カテリナ様に代わって占い師に告げました。
「あの、実は……、お嬢様は、悪夢にお悩みなのです」
「ほう?」
わたくしたちは人に知られては困ると思い、マントで顔をおおったままでございましたが、この国では未婚の娘は外では顔をあまりあらわにしない習慣がありますので、別にそれは奇妙なことではございませんでした。
おそらく、身なりからして良家の令嬢とその小間使いと老婆は思っていたことでございましょう。それは必ずしも外れてはおりませんでした。
「悪夢というと、どんな?」
「あの、それは……恐ろしい魔物に襲われる夢だそうですの」
「ふうむ……」 老婆がひからびた指先で真紅の繻子布のうえの水晶玉を撫でたのを、つい昨日のことのようにわたくしは今でもはっきりと覚えております。
「お嬢さん、何か心配事があるのではないかい?」
老婆はカテリナ様に向かって言いました。
0
あなたにおすすめの小説
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
義務ですもの。
あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
焔と華 ―信長と帰蝶の恋―
幸
歴史・時代
うつけと呼ばれた男――織田信長。
政略の華とされた女――帰蝶(濃姫)。
冷えた政略結婚から始まったふたりの関係は、やがて本物の愛へと変わっていく。
戦乱の世を駆け抜けた「焔」と「華」の、儚くも燃え上がる恋の物語。
※全編チャットGPTにて生成しています
加筆修正しています
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる