血塗られた王女

平坂 静音

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夢替え 一

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「姫様、見つかりましたよ、ぴったりの娘が」

 カテリナ様と二人で路地裏の占い師の老婆をたずねてから十日ほどたったころ、わたくしはやっと目当てのものを見つけて、欣喜雀躍きんきじゃくやくする想いでカテリナ様に報告しました。

「本当に?」

 カテリナ様の青い目が希望に見開かれます。わたくしは胸を張ってお答えしました。

「はい。もう、本当に苦労しましたよ。貴族の令嬢から侍女や下女まで、宮殿じゅうの若い娘たちのなかから捜しまわりましたの」

 なるべくカテリナ様と歳格好が似ており、さらに最近良い夢を見たという娘。いざ、捜すとなるとこれはたいへんでございました。

 わたくしは、最初はまず朋輩たちにそれとなく「最近良い夢を見た人はいない?」と訊いてまわりましたが、悪い夢ならともかく、良い夢というのは見つかりませんでした。普段は顔を合わすこともあまりない掃除や洗濯、厨房での下働きをする下女たちにも声をかけてまわりましたが、なかなか見つかりません。たまに、良い夢を見たという者がいても、年寄りだったり中年だったりと意味がなく、苦心させられました。

 ほとんど諦めかけておりましたころ、疲れて裏庭の石椅子に腰かけておりましたら、どこからともなく歌声が聞こえてまいりました。

 驚くほどに美しい声音ですが、どこかで聞いたような声でもあり、まるでその歌に導かれるように、庭木のはざまを歩いていきますと、月桂樹の木の根元で、しゃがんで土いじりをしている娘がいたのです。背格好は姫様に似ており、わたくしはどこかはずんだ想いで声をかけました。

「ねぇ、おまえ、ちょっと」

「はい……?」 
 
 そう言って振りむいた娘は顔に黒いヴェールをかぶっており、身にまとっている衣も黒ずくめで、まるで若い寡婦か魔女のようでございました。明るかった庭に一瞬、黒い雲がたちこめたような奇妙な不吉な気配を感じつつも、わたくしは「最近、夢を見たかしら?」といてみると、娘は一瞬びっくりしたように身体をふるわせたのでございます。
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