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「じゃ、やっぱり男装した女性で、この館の人間ということもあり得るのね」

 フィオー刑事は首を縦に振った。

「うむ。さらに聞いた話では、背はあまり高くなく、身体つきは普通だったと。やや背の低い男か背の高い女とということになる。太っては見えない程度の身体つきだ。まぁ、痩せていても重ね着していると、見た目よりかは太って見えることもあるが」

 コンスタンスは頭のなかで小柄なキクと、かなり肥満体であるアナをまず排除した。どう考えても子どのような身体付きのキクが男のふりをすることは無理だし、アナの身体だと仮に男装していてもかならず御者の印象には太った人物と見えるはずだ。

 あとはガブリエル、オーレリィー、アントワネットということになる。 

「髪の色は見えたの?」

 ガブリエルは銀髪でオーレリィーとアントワネットは金髪だ。

「なにぶん帽子やコートでよく見えなかったというんだ。目の色もあの時間帯では判別つかないと。まぁ、髪の色は鬘ということもありえるのでどのみち証拠にはならないが」

 コンスタンスはもどかしくなったが、とにかく容疑者は三人にしぼられたのだ。

「コンスタンス、いつまでさぼっているんだい?」

 庭に響いてきた声はキャロルのものだった。

「あ、ごめんなさい。今、行きます」

 と言ってからコンスタンスは刑事に向かって小声で囁いた。

「今日は帰って」

「わかった。また、何かわかったら来るよ。玄関では僕は君の友人だと言っておいたから」

 刑事だとは言わない方がいいだろう。コンスタンスは頷いた。

「それじゃ……フィオーさん」

「ルイだよ。友人ならそう呼ぶ」

 ルイ。コンスタンスの父と同じ名だ。ありふれた名でもある。

「え、ええ、そうね。それじゃ、ルイ。また今度」

 別れの挨拶を交わして、苛々と待っているキャロルの側に行くと、キャロルは去っていく刑事の青い背広の背なかを見ていた。

「ごめんなさい、遅くなって」

「あれ、あんたの情人いろ?」 

 コンスタンスはあわてた。
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