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 生真面目そうなクリスチャンと、目の前のいかにも遊び人ふうのカルロスとのつながりがよくわからない。

「奴、演劇に興味があってね。ときどき舞台にも来るんだ」

「え? クリスチャンて役者志望なの? 脚本家志望じゃなかったの?」

「役者の気持ちを理解したいからって芝居にも興味あるんだ。けれど、気のちいさい奴で、舞台に立たせるとびくついてしまうんだ。で、まぁ、こういう店に連れてきたらちょっとは男として自信もつくんじゃないかと思ってね」

 コンスタンスはなんとなく不快げな顔になっていたようで、カルロスはおどけた顔になった。

「なんだよ、そんな顔するなよ」

「……マダムは元気にしているの?」

 それとなく訊いてみた。

「ああ。元気にやっているよ。相変わらずさ」

「ビュルがあれからどうしたか知っている?」

「ビュル? あの赤毛の子かい?」

 カルロスは怪訝な顔になった。

「知らないなぁ。だが釈放されているはずだから、どこかでどうにかやっているんじゃないか。まぁ、彼女はもともとちゃんとした家の娘だったから、実家でまじめに学校へ行っているんじゃないか」

「え? そうなの?」

 てっきり家が貧乏で金が必要であの店に来ていたと思っていたコンスタンスは、拍子抜けした気分だ。

「娼婦の言うことを全部信じていたらきりがないよ。とはいっても、両親と折り合いが悪くて、それで家を出て自立するために金が欲しかったそうだけどね。母親は継母で、家には腹違いの弟と妹がいるそうだ」

「……」

 継母――と思っていた生母との関係で苦しんだコンスタンスには、どことなく気にかかる。

「ああ、そうだ。ブリジットは結婚したらしいよ」

「え?」 意外な話にコンスタンスはびっくりした。

「子どもが出来たらしくて、馴染みの男と結婚することにしたらしい」

 コンスタンスはどう言葉を返していいかわからない。あのブリジットが母親になるとは。しかも……、
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