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夜会 一
しおりを挟むその夜は館じゅうが浮き立っていた。
昼近くになってようやく起きてきた娼婦たちは、いつものようにだらだらと食事をすませ、食後の飲み物を、これまただらだらと時間をかけて楽しむ。カフェオレやコーヒーの香が厨房や食堂にこもり、やがてそれも済ませると、彼女たちは広間でお喋りしたりカード遊びをしたりして時間をつぶしたりする。
刺繍やつくろいものに精を出している娼婦もいれば、食事を抜いてお茶やお菓子をむさぼる娼婦たちもいる。なかには食事を済ませても食べ飽きない娼婦たちがさらに甘いものを詰め込んでいる。広間にはかすか甘い菓子の臭いがただよっていた。娼婦たちはよく食べる。娼館のなかではそれが唯一の楽しみなのだろう。麻薬や煙草よりかはましかもしれないが、そのせいか、娼婦は太りやすい。画家の絵に描かれた娼婦には太った女が多いのはそのせいだろう。
大部屋に掃除に来たコンスタンスは、めずらしくベルが一人でベッドに寝そべり本を読んでいるのに気を引かれた。いや、ベルは字が読めないといっていたから、正確には眺めているというべきか。病院のように幾つもならぶ鉄パイプのベッドの最後、壁際の所まで行くと、コンスタンスは声をかけてみた。
「何読んでいるの?」
薄着にズロースだけというだらけた姿で、ベスはだるそうに身を起こした。
「これ? 客が置いていったやつ。なに書いてあるのか、さっぱりわからないけれど」
「お芝居の話ね。戯曲だわ」
「戯曲? シェイクスピアとか?」
ベルもさすがに有名な英国の戯曲作家の名は知っているらしい。
「これは……ロマン・ロランね。そのお客さんも役者さんなの?」
劇場支配人の客がよく役者をつれてくるようだ。カルロスもその一人だ。
「まあね。あの劇場支配人、バクリ氏っていうんだけれど、あの人がよく売れない役者をお供にして来るんだ。で、そいつの相手をしたんだけれど。面白いんだよ」
ベルの消炭色の瞳は楽しそうにきらめいている。
「何が?」
「役の練習相手させられんのよ。ベッドに入らずに、一晩中それだけ」
「へえ」
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