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薔薇の庭 三
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長椅子に座っていたピアノ教師は眼鏡の奥のうっすら青い目でクララを睨んだ。今日も、喪中の未亡人のように質素な黒のブラウスとスカートに身をつつんでいる。彼女が黒以外の服を着ているところをマルゴは見たことがない。ブルネットの髪を一筋のみだれもなくきっちりと結い上げて背を伸ばして座っている様子からは、ひんやりした風が吹いてきそうだ。だが、田舎とはいえ、金にあかして高価なマホガニーの英国製家具をしつらえた広間の中央で、さも優雅にカップを持つ彼女からは、たしかにこの辺りの官吏や裕福な商人、村長の家の妻や娘たちなど、田舎名家の女性などでは持ちえない品位と威厳がただよってくる。
「ちょうどお茶をいただいていたの。ゆっくり過ごせて良かったわ」
このピアノ教師兼家庭教師が、正直、マルゴはすこし苦手である。
幼いころ、算数の計算で手こずっているクララを助けてやると、叱りつけられたことがあった。そのあと、「使用人と親しく口を聞いてはいけません」とクララをも叱責するアポリネール女史の鞭のような声が廊下まで追ってきてマルゴの背を打った。当時七歳だったマルゴは、どんなにクララと仲良くしていても、自分が使用人なのだということをそのとき痛いほど心に刻みつけられたのだ。
「あなた、トレイを片付けて下がってちょうだい」
「はい」
彼女がブルーム家へ出入りするようになってかれこれ以上十年たつというのに、未だにマルゴは彼女から名前で呼ばれたことがない。マルゴだけにではなく、女中頭のベルトや下男に対してもそういう態度だ。使用人なぞ人と思っていないのだろう。ベルトが以前苦い顔をしてこぼしていたことが思い出される。
(まったく、ふんぞり返った女だよ。家庭教師だって、使用人みたいなものじゃないか)
聞いた話ではアポリネール女史はパリの名士の娘だったそうだが、実家が破産し、家庭教師として自活することにしたのだという。今は馬車で三十分ほど離れた隣町に住んでいる。やたらと都会育ちをひけらかすところがあって、召使たちにはすこぶる受けが悪いが、クララは彼女に懐いている。
(どことなく、お母様に似ている気がするの)
顔を覚えてもいないクララの母アデルだが、写真で見る限りマルゴは内心首を振らざるを得ない。アポリネール女史とアデル夫人が似ているのは髪の色だけだ。クララも亡母とはあまり似ておらず、どちらかといえば書斎に飾られているブルーム氏の生母エリザ夫人の肖像画、つまり祖母の若い頃に良く似ている。クララは母親よりも祖母の血を強く引いたようだ。
「ちょうどお茶をいただいていたの。ゆっくり過ごせて良かったわ」
このピアノ教師兼家庭教師が、正直、マルゴはすこし苦手である。
幼いころ、算数の計算で手こずっているクララを助けてやると、叱りつけられたことがあった。そのあと、「使用人と親しく口を聞いてはいけません」とクララをも叱責するアポリネール女史の鞭のような声が廊下まで追ってきてマルゴの背を打った。当時七歳だったマルゴは、どんなにクララと仲良くしていても、自分が使用人なのだということをそのとき痛いほど心に刻みつけられたのだ。
「あなた、トレイを片付けて下がってちょうだい」
「はい」
彼女がブルーム家へ出入りするようになってかれこれ以上十年たつというのに、未だにマルゴは彼女から名前で呼ばれたことがない。マルゴだけにではなく、女中頭のベルトや下男に対してもそういう態度だ。使用人なぞ人と思っていないのだろう。ベルトが以前苦い顔をしてこぼしていたことが思い出される。
(まったく、ふんぞり返った女だよ。家庭教師だって、使用人みたいなものじゃないか)
聞いた話ではアポリネール女史はパリの名士の娘だったそうだが、実家が破産し、家庭教師として自活することにしたのだという。今は馬車で三十分ほど離れた隣町に住んでいる。やたらと都会育ちをひけらかすところがあって、召使たちにはすこぶる受けが悪いが、クララは彼女に懐いている。
(どことなく、お母様に似ている気がするの)
顔を覚えてもいないクララの母アデルだが、写真で見る限りマルゴは内心首を振らざるを得ない。アポリネール女史とアデル夫人が似ているのは髪の色だけだ。クララも亡母とはあまり似ておらず、どちらかといえば書斎に飾られているブルーム氏の生母エリザ夫人の肖像画、つまり祖母の若い頃に良く似ている。クララは母親よりも祖母の血を強く引いたようだ。
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