白薔薇黒薔薇

平坂 静音

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開花 二

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 青い目は夢見るようで、白い頬は化粧のせいもあっていっそうつややかに見える。金の髪は、今は結い上げられ、流行の帽子のしたで慎ましやかに光っている。身に付けているのは純白のドレスで、コルセットでしめつけた細い身体はしなやかで折れそうにはかなげで、ヴァイオレットに言われるがままに、鏡のまえで身体をひねってみせると、華奢な肉体は見事な曲線美を描き、惚れ惚れするほどだ。この頃はすでに鯨骨でドレスをふくらませるクリノリンはすたれかけており、裾はなめらかに流れ、見る者の目を刺激する。
 絹の肌触り、香水や白粉のかおりにマルゴは頭が熱っぽくなってきた。夢を見ている気がする。ドレスも素晴らしいが、マルゴの胸を躍らせたのは、次々とヴァイオレットが見せてくれたシュミーズ、キャミソール、ペチコート、キュロット、コルセット・カバー、ショールなどの衣類である。
 この当時は、パリにデパートが出来、女性の衣類が多様化した時代であるが、そういった楽しみは、やはり富裕層や中流階級以上の女性の特権であり、下着もろくに持てず少女時代を過ごすという貧しい庶民の娘には、夢のようなものだった。保護者のいない孤児院の少女たちなどは、生まれてこのかた下着など穿いたこともなく、生理のときでも、ごわごわしたスカートに染みをつけたまま過ごさなければならず、しかもそのスカートを洗えるのは三ヶ月に一度というような時代のことである。
 さすがにマルゴは母親が残していた古びた下着ぐらいは身につけていたし、時折ベルトが気にかけて孫娘のものなどをくれたりしたが、そういった生活環境のなかで育ったマルゴにとって、ヴァイオレットが見せた素晴らしい衣類は眩しすぎる。目が燃えそうだった。
 最後にモディスティ・ピースと呼ばれる、開いた胸元を隠すためにかざるレースやリボンの飾りを見せられたときは、幸福感のあまり、ほとんど陶酔した心持ちになった。天にも昇る気持ちというのは、こういうのを言うのだろうと実感した。
「素晴らしいわ、マルゴ。こんな時代でなければ……伝手つてでもあれば、社交界に出て間違いなく注目の的よ。フランソワのような田舎紳士の目を引くどころか、それこそパリ中の紳士があなたに恋をして、求婚者がこの屋敷に群がるでしょうよ」
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