転デュラ! 転生したらデュラハンだったけど、あんまり問題なかったよ!

風雪弘太

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一章 第一部

一章 第一部 魔法実習 Ⅱ

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「ん…… ここは……?」

 気がつくと、僕は白い靄の中にいた。
 霧のような、しかしそれよりもずっと濃い靄が、僕の周りを覆っている。

「時雨さん、気付きましたか?」

 不安に思いながら周囲を見回していると、背後からアヌビスの声が。
 ビクッとして振り向いても、アヌビスの姿は見えなかった。

「あ、そういえば見えないのか…… ちょっと待ってください。すぐに立て直しますから……」

 アヌビスは混乱している僕を認識して、納得いったかのようにそう言うと、指を一回、パチンと鳴らした。

「うおっ!?」

 その音が鳴った瞬間、僕の周りにあった靄が急速に晴れていく。
 その靄たちはうごめきながら僕の周囲に集まっていった。
 そして…… その靄たちに色がつき、形がつき、まるで靄で模型を造っているかのように、僕の周りにものすごい速さでビルなどのある、立派な街ができあがってしまった。

「さて…… 大体の準備はできましたね」

 アヌビスは満足げに周囲を眺めると、僕に向かってそう言った。
 まあ、なんの準備をしているかなど、僕には分からないのだが。

「さて、時雨さん。今からあなたに魔法を覚えてもらうわけなんですが……」

 アヌビスはにやりと笑いながらそう切り出す。

「一つ、注意事項を」
「注意事項?」
「そうです。魔法を使うときにはその人の体内に宿している魔力を消費します。でも、その魔力を全て使うと、その人は死んでしまいます」
「死っ!? ……じゃあ、魔法は使わない方がいいのか?」
「いえ。生身で戦うよりもよほど簡単ですし強力なので、使いたいときはじゃんじゃん使ってください。でも、使いどころは見極めて、決して無理をしないでください」
「…………」

 かつて無いほど真剣なアヌビスの表情。
 たちの悪い冗談ではないようだ。

「……心配してくれるのは分かった。ま、気をつけるようにするよ。でも、自分の魔力がどうのってそんな簡単に分かるもんなのか?」
「え、あ、はい。それは大丈夫です。それに、この空間の中では精神だけの状態ですので、魔力の消費はありません。じゃんじゃん使っちゃってください」

 重くなった雰囲気を明るくするようにアヌビスは言う。
 
「では、最初は初級呪文です。この世界では幼稚園児でも知ってますよ」

 そう言うとアヌビスは僕に背を向け、右手首を左手で押さえ、前に右手のひらをピンと突き出す。
 そしてまっすぐに正面を見つめて、唱えた。

「『悪しき者を断ち切れ』!」

 その瞬間、アヌビスの右手のひらに無数の文字が現れ、そして消えていく。
 そして……

「…………」

 そして……?

「はい、これが初級魔法、魔力操作です。自分の手のひらに魔力を集めることを目的とした、なんてこと無いものですよ。では、時雨さん、やってみてください」
「ちょちょちょっと待て!」
「? なんですか?」

 不思議そうな顔をするアヌビス。しかしちょっと待ってほしい。

「あれが…… 魔法……?」
「そうですが? どうかしましたか?」

 やはり不思議そうなアヌビス。
 その様子をみるとどうやらあの行動は冗談でも何でも無く、真面目にしたものらしい。

「な、なあアヌビス…… 魔法って…… あれだろ? 攻撃したり、異常状態を回復したりするあれなんだろ? なんだったんだよさっきの!?」
「さっきのとは……? あ、あれですか! 魔力操作ですか! なるほどなるほど…… 時雨さんはとんでもない勘違いをされているようで…… なるほど……」

 アヌビスは一瞬きょとんとした後に、何かに思い当たったようににこにことする。

「仕方ありませんね! まずはああいう魔法からと思いましたが…… まあ、使うところはありませんから…… では、実践的な魔法でも使ってみましょうか」
「待ってました! ……というか、最初からそっちを教えてくれよ……」

 魔法。本の世界の中では当たり前のようになっているが、実際に見るのは初めてだ。
 いや、さっきの魔力操作? や、アヌビスの停止魔法は、魔法として数えない場合の話だが。

「では、『紫電の霊剣、永久の術式。屍を超えて、なお突き進め! 〈ライトニング・レイ〉!』」

 その瞬間、先ほどと同じようにピンとつきだしたアヌビスの右手のひらに紋章が刻まれる。しかし、それだけでは終わらなかった。
 刹那、アヌビスの右手から光の束が放たれる。
 そしてその光は、前方にあったビルの壁面に直径五センチくらいの穴をつくった。

「…………」
「どうです? 結構凄いでしょう?」

 初めての魔法を目の当たりにして、感動と驚きで何も言えない僕に、アヌビスは得意げな顔を向けた。これは凄い。確かに本物だ。

「そ、それは…… 僕にもできるのか?」
「はい。もちろん」
「……ッ!」

 叫び出しながら歓声を上げたい気持ちをぐっとこらえ、僕は小さくガッツポーズをするだけにとどめる。
 喜ぶのはまだ早い。
 まずは練習しなければ……

「じゃ、時雨さん、次の魔法ですが……」
「は? え、ちょちょ、ちょっと待てよ! 今の魔法の練習は?」

 感動もつかの間。すぐに次の話へと進み出そうとするアヌビスを、僕は必死に止めた。

「なんです?」
「いや…… だから…… さっきの魔法、練習とかは……」
「……そうですね。ま、やっておいてもいいかもしれません。あ、ちなみに…… 慣れてきたらこういうこともできるようになりますよ?」

 そう言うとアヌビスは右手を鉄砲の形にし、そしてそれを上に向ける。

――バン!!

 その瞬間、先ほどアヌビスが放ったのと同じような光の束がアヌビスの指先から放たれた。
 そしてそれは先ほどと同じように、前方のビルの壁面に穴を開ける。

「無詠唱。ま、動きと関連づけて頭の中で置き換える感じですかね。あと…… この技術、結構面白くて……」

 アヌビスはおもむろに右手をピンと上に向かってあげる。

「『荒れ狂う暴風。獄炎の灯火。〈フレイム・テンペスト〉』」

 その瞬間、アヌビスの上に上げた手のひらから大きな火柱が立ち上った。
 それは竜巻のように渦を巻いている。

「そしてこの魔法を思い浮かべながらこういう風にすると……」

アヌビスはにやりと笑いながら指を鳴らす。

――パチン

その音が合図だったかのように、辺り一面に炎が渦巻いた。
しかしそれも一瞬で消える。
驚いている僕の顔をどう勘違いしたのか。アヌビスは大きく頷いた。

「そう、この世界では、かの有名な×の××術師の×××××大佐みたいなことができるんですよ! あれ? 時雨さん? どうかしましたか?」
「いや…… どうもしないよ。ちょっと頭が痛くなっただけだ」

 現実に引き戻された感じだった。
 ……アヌビスも、少しは自重した方がいいのではないか。
 まあ、今回は思いっきり伏せ字を使っているし、よしとしてもいいが……
 夢の国から一気に映画村に来た感じだった。
 まあ…… どこかはあえて言わないが。
 あそこに行って資本主義の闇を知った気がする。

「時雨さん、聞いてますか? 本当に大丈夫ですか?」
「え…… あ、大丈夫だ。ちょっとめまいがしただけで、得には何も……」
「いや! 大変じゃないですか! 精神体での長時間の活動は身体に悪いんです! ……仕方ありませんね…… 今日はここまでにして起きますか……」
「は!? ちょっと待てよ! 僕はまだまだ……!」
「駄目です! 明日からあるんですし、今日も野宿ですよ! 今回はこれで終了です」
「そんなぁ……」
「駄目です! それでは!」

 僕の願いは聞き届けられなかった。
 アヌビスが僕の前で手を叩いた瞬間、僕の視界は真っ黒になった。

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