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彼の未来 …17
しおりを挟む「ほら、もう泣かないで。
この足で区役所へ行ってらっしゃい。
婚姻届は休日も処理してくれるんだから。
お互いの戸籍の書類はもう準備してあるんでしょ?」
私が戸惑いながら頷くと、お母さんとお父さんはまたエレベーターに向かって歩き出した。
「琥珀亭で待ってるから、急いで行ってきてね」
あっという間の出来事だった。
幹太に限っては、未だにポカンとしている。私は、そんな幹太の手を取って家の中へ入る。
「幹太、そういう事みたいだから、今から区役所に行こう」
「え… マジで?
っていうか、この展開に、俺、ついていけてない…」
幹太はそう言いながら、右手で涙を拭きとった。
「ねえ、俺ら、夢見てないよな?」
私は笑いながら、幹太にキスをした。
「夢じゃないよ…
夢じゃないから、急がなきゃ、お母さん達が待ちくたびれて機嫌が悪くなっちゃう」
「…分かった、でも、一分だけ待って」
幹太は私を抱き上げ、部屋の中をクルクル回った。
そして、今までにないほどの濃厚なキスをする。やっと、俺達は、結婚できるぞって涙声で囁きながら…
区役所は休日とあって、薄暗くガランとしていた。
エントランス広場のカーテンだけがわずか開いていて、薄暗いホールを柔らかい光りで照らしている。
その光の先にある大きな古時計を見て、私は涙がこみ上げた。
この古時計の前で、私と幹太は十五年ぶりに再会した。
それは、この古時計が長い修理期間を経て戻ってきたその日だった。
時間は止まらない。この時計を見るたびに、私はいつもそう思った。
そして、進んで行く時間の中で、幹太は私を見つけてくれた。
この時計のように、私も未来だけを見て時を刻もうと心に誓った。
私達の過去は悲劇だったかもしれないけれど、でもそれは、流れゆく時間の中で、ただ、かくれんぼをしていただけなのかもしれない。
隠れている事を忘れてしまった私と、ずっといつまでも探し続けた幹太。
お互いのいない世界で迷子になりながら、私達は必死に時を刻んできた。
私はもう一度この古時計を見上げた。
隣には幹太がいて、私と一緒に、この時計を見上げている。
「幹太…
この場所で、私を見つけてくれて本当にありがとう…
あの桜の咲く春の日を、私は一生忘れない」
幹太は私の左肩を引き寄せた。無意識なのか意識的なのか、幹太はいつも私の左側にいる。
「俺もあの日は忘れない…
大人の寧々を見て、また恋に落ちた事。
そして、何があっても寧々と結婚するって、またこの時計の下で誓った事を」
幹太はそう言うと、私の左手を右手で握りしめた。
「よし、行くぞ。
この時計に見守られて、俺達は夫婦になるんだ」
私は笑顔で頷いた。
終わりのない始まりへ、二人で時を刻んでいく幸せを噛みしめながら…
The end.
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