君の左目

便葉

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彼の未来 …16

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それからの一週間はまたあっという間に過ぎた。
そして、幹太は、恒例になりつつある私の両親の家を訪れるための準備をしている。
今、幹太の仕事は正念場を迎えていて、毎日が残業続きだった。せめて日曜日くらいゆっくり家で休ませたいと思うけれど、きっと、幹太の中ではそれは許さない。私は幹太の体が心配で、小さくため息をつく事しかできなかった。

「今日は、あまり長居しないで早くに帰ってきてね…」

コーヒーを飲み干して立ち上がろうとしていた幹太は、目元に笑みを浮かべ私を見た。

「せっかくの日曜日なのに一人は寂しいよ~だろ?」

私は幹太に抱きついた。

「それもあるけど、でも、それより幹太の体が心配なの…
ちょっとは休まなきゃ… 体壊しちゃうよ…」

幹太は私の鼻の頭のキスをする。

「大丈夫だよ、俺が好きでやってる事なんだから…」

幹太はいつものようにリュックを肩に下げ玄関へ向かおうとした時、下のエントランスの方の正面玄関のチャイムが鳴った。

「宅急便かな」

私は何の気なしにインターホンの画面を覗いて見た。

「え…?」

幹太は私の声と表情に心配をして、すぐに同じように画面を覗きこんだ。

「あっ… あの、どうされたんですか…?」

幹太はすぐに下の鍵を解錠した。インターホンの画面が消え、私は狐につままれたような顔で幹太を見る。

「お父さん、今日、ここに来るって言ってた?」

幹太はしばらく先週の記憶を辿っていたが、難しい顔をして首を横に振る。

「いや、何も言ってないと思う。
どうしたんだろう、お母さんに何かあったのかな…」

幹太はこのマンションで同棲している事を、私のお父さんには告げていた。お父さんは大人の二人が考えた事ならと言って、反対はしてない様子だったと聞いた。

幹太は背負っていたリュックを下ろし、玄関の外へ出てお父さんを待った。私もその後に付く。エレベーターが止まりドアが開いた途端、私も幹太も瞬きをする事さえ忘れてしまった。
だって、そこにはお父さんはもちろんの事、お母さんも一緒にいたから…

「ふ、二人ともどうしたの?」

何も言葉が出ない幹太に代わって、私が二人にそう聞いた。

「どうもしないよ…
自分の家の掃除に帰ってきたついでだよ。
よかった、幹太君と行き違いにならなくて」

お父さんは楽しそうに笑ってそう言った。私はお父さんの笑顔の意味が分からない。お母さんを見ると、お母さんは薄っすら瞳に涙を浮かべている。

「あ、そんな所に立ってないで、中に入って下さい」

幹太は目を覚ましたように慌てふためいてそう言った。
すると、二人は顔を見合わせて二人仲良く首を横に振った。そして、お父さんがお母さんに目配せする。

「寧々、幹太君、今日は二人に渡したい物があって、ついでにここへ寄ってみたの」

お母さんはそう言いながら、持っているバッグの中から水色の空を思わせるような優しい色合いの縦長の封筒を取り出した。

「…遅くなったけど、はい、婚姻届。
これは、幹太君の事を、認めて受け入れた証拠です…
心が楽になったと思ったら、あなた達にすぐにこれを渡したくなって」

お母さんはそう言うと、大きく深呼吸をした。

「ほら、寧々の職場の事だから、お母さんよりよく知ってるでしょ?
今から行ってらっしゃい…
お母さんとお父さんは琥珀亭で待ってるから…
ささやかだけど、お祝いの会をしましょう」

お母さんはそう言って、その空色の封筒を幹太に渡した。

「幹太君、寧々をよろしくお願いします…
色々あったけどね…
でも、色々あったのは、私達だけじゃない…
寧々にとって、救世主がいるとしたら、それは私達家族じゃない…
それは、鈴木幹太君だって、ごめんね、やっと気付いたの…」

お母さんはもう涙は浮かべてない。やっと、本当の自分を見つけたみたいなそんな晴れ晴れとした顔をしている。
それとは逆に、幹太は溢れ出る涙を止める事ができずにいた。
泣いているのか笑っているのか分からない顔で、何度もお母さんに頭を下げている。

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