君のそばで会おう ~We dreamed it~

便葉

文字の大きさ
1 / 67
何千回も夢見たこと

しおりを挟む


「ねえ、今度、この部署に赴任してくる部長の噂、聞いた?」


隣のデスクに座る一つ年下の美咲が、興奮気味に話してきた。


「聞いてない」


可南子がそっけなくそう答えると、美咲は可南子の側にきて小さな声で教えてくれた。


「年は27歳。
日本の大学を卒業した後に、ニューヨークの大学で経営学を学んで帰国と同時にこの会社に配属だって。
身長は180㎝、モデル並みのイケメンらしい。
そして、いきなりの部長クラスの理由は、なんと、その人、K&Rグループの御曹司なんだって」


可南子はあまり興味を示さなかった。
お金持ちで、イケメンで、御曹司?
どうせ、ろくでもない人間に決まっている。


「まだ、噂なんでしょ?」


「ううん、本当らしい。今日の午後に挨拶に来るらしいよ」


「ふ~ん」


イケメンに御曹司、お金持ちというワードが並ぶだけで、可南子の体に虫唾が走った。


全く興味なし、残念ながら。





午後の会議が終わって、可南子はスマホのメッセージのチェックをしていた。


「ここにいる者だけでいいから、ちょっと集まってくれ」


専務の声がしたので、可南子は美咲と一緒にそこへ行ってみた。すると、人だかりの中に見知らぬ男性が立っている。


「皆、もう知っていると思うが、四月からこの部署を取り仕切ってもらう柿谷想太君だ。
明日から出社できるそうだから、協力し合って頑張ってほしい」


専務はそう言うと、新しい部長を前に呼んだ。


「初めまして。
柿谷想太と言います。
これから一緒に頑張っていきましょう」


可南子は、体の震えが止まらなかった。
私の記憶に間違いがなければ、この男は私が知っている松井想太のはず…

専務が新しい部長に関する資料を配っていた。可南子はドキドキしながらその資料に目を通す。そして、名前を見て確信した。

想うと書いて、想太…
めったに見ない漢字の想太…

私が大好きだった想太と同じ名前。



可南子はあまりの驚きにその場から立ち去った。
落ち着きを取り戻すためにひんやりとした階段の踊り場で休んでいると、廊下の先で専務と新しい部長の声がする。
可南子はその部長の声を聞きながら、最後に別れた時の想太の声を思い出していた。

きっと別人に違いない…

心を鎮めようと、可南子は自分に言い聞かせる。


「可南子…」


可南子はハッとして周りを見回した。


「可南子、十五年ぶりだな」


「想ちゃん?」


想太は、やっぱり想太だった。
背が高くなって、大人の顔になっただけ…
切れ長の奥二重の瞳はいつも何かを睨んでいるように鋭いままで、昔の想太と何も変わらない…






「想ちゃん?
お前に捨てられた可哀そうな想太は、福岡の街に置いてきたよ」


そう言いながらも、想太は何も変わらない可南子に戸惑っていた。

可南子に会えたら、たくさんの罵声を浴びせる予定だった。
俺の十五年は、それだけのために費やしてきたはずなのに…



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

結婚する事に決めたから

KONAN
恋愛
私は既婚者です。 新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。 まずは、離婚してから行動を起こします。 主な登場人物 東條なお 似ている芸能人 ○原隼人さん 32歳既婚。 中学、高校はテニス部 電気工事の資格と実務経験あり。 車、バイク、船の免許を持っている。 現在、新聞販売店所長代理。 趣味はイカ釣り。 竹田みさき 似ている芸能人 ○野芽衣さん 32歳未婚、シングルマザー 医療事務 息子1人 親分(大島) 似ている芸能人 ○田新太さん 70代 施設の送迎運転手 板金屋(大倉) 似ている芸能人 ○藤大樹さん 23歳 介護助手 理学療法士になる為、勉強中 よっしー課長 似ている芸能人 ○倉涼子さん 施設医療事務課長 登山が趣味 o谷事務長 ○重豊さん 施設医療事務事務長 腰痛持ち 池さん 似ている芸能人 ○田あき子さん 居宅部門管理者 看護師 下山さん(ともさん) 似ている芸能人 ○地真央さん 医療事務 息子と娘はテニス選手 t助 似ている芸能人 ○ツオくん(アニメ) 施設医療事務事務長 o谷事務長異動後の事務長 ゆういちろう 似ている芸能人 ○鹿央士さん 弟の同級生 中学テニス部 高校陸上部 大学帰宅部 髪の赤い看護師 似ている芸能人 ○田來未さん 准看護師 ヤンキー 怖い

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛

ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。 そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う これが桂木廉也との出会いである。 廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。 みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。 以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。 二人の恋の行方は……

すれ違う心 解ける氷

柴田はつみ
恋愛
幼い頃の優しさを失い、無口で冷徹となった御曹司とその冷たい態度に心を閉ざした許嫁の複雑な関係の物語

空蝉

杉山 実
恋愛
落合麻結は29歳に成った。 高校生の時に愛した大学生坂上伸一が忘れれない。 突然、バイクの事故で麻結の前から姿を消した。 12年経過した今年も命日に、伊豆の堂ヶ島付近の事故現場に佇んでいた。 父は地銀の支店長で、娘がいつまでも過去を引きずっているのが心配の種だった。 美しい娘に色々な人からの誘い、紹介等が跡を絶たない程。 行き交う人が振り返る程綺麗な我が子が、30歳を前にしても中々恋愛もしなければ、結婚話に耳を傾けない。 そんな麻結を巡る恋愛を綴る物語の始まりです。 空蝉とは蝉の抜け殻の事、、、、麻結の思いは、、、、

俺様外科医の溺愛、俺の独占欲に火がついた、お前は俺が守る

ラヴ KAZU
恋愛
ある日、まゆは父親からお見合いを進められる。 義兄を慕ってきたまゆはお見合いを阻止すべく、車に引かれそうになったところを助けてくれた、祐志に恋人の振りを頼む。 そこではじめてを経験する。 まゆは三十六年間、男性経験がなかった。 実は祐志は父親から許嫁の存在を伝えられていた。 深海まゆ、一夜を共にした女性だった。 それからまゆの身が危険にさらされる。 「まゆ、お前は俺が守る」 偽りの恋人のはずが、まゆは祐志に惹かれていく。 祐志はまゆを守り切れるのか。 そして、まゆの目の前に現れた工藤飛鳥。 借金の取り立てをする工藤組若頭。 「俺の女になれ」 工藤の言葉に首を縦に振るも、過去のトラウマから身体を重ねることが出来ない。 そんなまゆに一目惚れをした工藤飛鳥。 そして、まゆも徐々に工藤の優しさに惹かれ始める。 果たして、この恋のトライアングルはどうなるのか。

数合わせから始まる俺様の独占欲

日矩 凛太郎
恋愛
アラサーで仕事一筋、恋愛経験ほぼゼロの浅見結(あさみゆい)。 見た目は地味で控えめ、社内では「婚期遅れのお局」と陰口を叩かれながらも、仕事だけは誰にも負けないと自負していた。 そんな彼女が、ある日突然「合コンに来てよ!」と同僚の女性たちに誘われる。 正直乗り気ではなかったが、数合わせのためと割り切って参加することに。 しかし、その場で出会ったのは、俺様気質で圧倒的な存在感を放つイケメン男性。 彼は浅見をただの数合わせとしてではなく、特別な存在として猛烈にアプローチしてくる。 仕事と恋愛、どちらも慣れていない彼女が、戸惑いながらも少しずつ心を開いていく様子を描いた、アラサー女子のリアルな恋愛模様と成長の物語。

夜の帝王の一途な愛

ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。 ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。 翻弄される結城あゆみ。 そんな凌には誰にも言えない秘密があった。 あゆみの運命は……

処理中です...