君のそばで会おう ~We dreamed it~

便葉

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ずっとずっと好きだった

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美咲達も帰り可南子は時計を見てみると、二十時を回っていることに気がついた。
まだ何人かは残業をしていたが、可南子は先に帰ることにした。
そして、想太に帰ることを告げに行った。


「部長、もう、帰ります」


可南子がそう言うと、想太は車のキーを可南子に見せて「一緒に帰ろう」と言った。


「いいです。
私は電車で帰るので…」


すると、一瞬で想太の顔が不機嫌になる。


「なんで?
近所なんだから乗ってけばいいじゃん」


想太は生真面目な可南子の性格にうんざりしていた。


「だから、嫌なの。
下の駐車場で絶対人に見られるし…
変な噂がたったら、二人とも困るでしょ?」


可南子の言う事はいつも正論だけど、今の想太にはそんなことはどうでもよかった。


「別にいいよ。
だって、何も悪い事してるわけじゃないんだし」


可南子はそう言う想太を見て、困った顔で微笑んだ。


「うん、でも、電車で帰る。
駅前のコンビニの前で待ってるから」


想太の呆れ顔が視界に入ったが、可南子の生真面目な性格は今でも変わらない。



可南子と想太は、駅前のイタリア風居酒屋で遅い夕食をとった。
想太はスタッフを呼び、まず初めにグラスワインを二つ頼んだ。


「可南子と俺の十五年ぶりの再会に乾杯しよう」


想太はそう言って、可南子のグラスに自分のグラスを静かに合わせる。


「可南子、お酒は飲める?」


「うん、たしなむ程度なら…」


「良かった…
何も考えないで頼んだけど、俺、可南子の事何も知らないんだよな。
十二歳の可南子はさ、お酒は飲まなかったから」


可南子は優しくためらいがちに微笑んだ。

想太は、本当に嬉しかった。
こういう日々をいつも夢見ていたから…


「可南子、俺達、もう一回、やり直そう。
俺は可南子に会ってまだ一日にしか経ってないけど、一瞬であの頃に戻った。

可南子の事が大好きだった頃に…

可南子は?
可南子は、俺の事どう思った?」


可南子は、真っ直ぐな想太の想いを心では受け入れようとしていた。
でも、頭では、まだ何かが邪魔をして想太を受け入れる事を拒んでいる。


「想ちゃん、本当の事を話していい?
私は、想ちゃんと会いたくなかった。
想ちゃんと離れていた十五年の間に、私は変わったから…」


可南子は、今の本当の気持ちを想太に伝えたかった。
十五年の月日はそんな簡単なものじゃない…


「そんなの当たり前だろ。
十五年も経てば誰だって変わる。
だけど、絶対変わらないものだってあるんだ。
俺が可南子を愛する気持ちは百年経っても変わらない…」


「嘘…
想ちゃんは、ずっと私を憎んで生きてきた。だから、もし、私に会えたなら復讐しようと思ってた…」


「それは、可南子だって同じだろ?
でも、誤解は解けたんだ。
手紙が届かなかった。
ただそれだけのことだよ」


それだけのこと…
そう思えない可南子は、まだ想太の事を受け入れることはできない。


「想ちゃん、また、友達から始めよう。
ゆっくりと、時間をかけて、今の二人を知っていかなきゃ。

今は職場が一緒だからあの頃のように側にいれるし…
私はそうしたい。

それじゃダメかな?」


想太は横を向いて窓から見える外の景色を睨みながら、ワインを飲んでいる。
可南子はそんな想太をじっと見ていた。
可南子にとっても想太にとっても、二度の裏切りや別れは致命傷になる。
もう、あんな苦しい思いはしたくない。

可南子が想太を愛しているのは間違いないことで、だからこそ、慎重に想太との距離を縮めたかった。


「その後は、俺とつき合ってくれる?
俺はもう、可南子と離れるのは嫌だから…
やっと、会えたのに…
もう、絶対、離れたくない」


「想ちゃん、もう、しばらく待って…
私の心の中の整理ができるまで。
お願い…」






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