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つまらない嫉妬
②
しおりを挟む想太は美咲とオフィスの前まで帰ってきたけれどどうしても可南子の事が気になって、またカフェに引き返していた。
しかし、そこにはもう可南子の姿はない。
想太はカフェに入りコーヒーを注文した。
さっき可南子が親しそうに話をしていた男を捜しながら。
想太は順番待ちで並びながら、自分の可南子への執着心にほとほと呆れていた。
本当に愛する人に出会ったら全ての男はこんな風になるのだろうか…
想太は少し冷静になって、もう一度周りを見回した。
別に可南子が誰と話そうが俺の知ったこっちゃない。
すると、後ろの方で、女の人達の話す声が聞こえてきた。
「さっき、瀬戸さん、朝倉さんと話してなかった?
また、よりが戻ったのかな…?」
想太はその女の人達の近くまで行き、静かに二人の会話に耳を傾けた。
「二人、美男美女だったからちょっと憧れてたんだよね。
復縁してたらちょっと嬉しいかも」
想太は部長室に戻ると、パソコンに入っている職員名簿で瀬戸という名前の男を探した。本社限定で探していたらすぐに見つかった。
瀬戸修二 開発事業部
入社年月日を見ると可南子と同期だ。
ということは、俺とも同い年のはず。
想太はネットで瀬戸修二という男を検索して情報を得ようと思ったが、手を止めた。
調べてどうなる?
こんな子供じみた事はやめろ。
想太は嫉妬に震える手を抑え、何もなかったように午後の仕事に専念した。
夕方になり可南子と美咲は帰る準備をしていると、山本課長が可南子達に向かって小さな声でこう教えてくれた。
「さっき、ちょっと用事があって開発事業部に行ったんだけど、部長にすれ違ったんだよね。
部長が十三階に用事があったかな~と思って」
可南子と美咲は一瞬固まって、そして顔を見合わせた。
可南子の嫌な予感は確信へ変わりそうだ。
確信に変わる前に、想太の動きを阻止しなければ…
「美咲、ごめん。
十三階に様子を見に行ってほしい」
美咲は絶対に可南子と想太の間に何かあると思いながらエレベーターに乗った。
今夜、可南子に教えてもらわなきゃ割りに合わない。
部長と瀬戸修二。
美咲からすれば、二人ともイケメンで大人の男である。
美咲はちょっとワクワクしながら、十三階へ向かった。
開発事業部は、勤務時間を過ぎているのにたくさんの人が残っていた。
美咲は開いているドアの隙間から中を覗いてみる。すると、開発事業部の部長と話をしている想太が見えた。
その後に、もう一度フロアを念入りに見渡した。
大丈夫、瀬戸さんはいない。
美咲は急いで自分のオフィスに戻ろうとエレベーターに向かうと、誰かに後ろから呼び止められた。
「あれ、美咲ちゃんじゃない?」
美咲が振り返るとそこには瀬戸が立っていた。
「あ、瀬戸さん、久しぶりです」
美咲は部長と瀬戸が鉢合わせをするのを恐れて、瀬戸を廊下の奥へ呼び込んだ。
「うん? 何か用事?」
「あ、瀬戸さん、今、職場に行かない方がいいかもです…」
「え、なんで?」
美咲は瀬戸の事をふった可南子の事をいまだに理解できずにいた。
高校、大学とアメフト部に所属していた彼は、全国でも有名な選手だった。
しかし、ケガに悩まされ、大学卒業と同時にアメフトは辞めこの会社に入った。
筋肉質な体に甘いマスクの瀬戸は、この会社の人気者ランキングのいつも上位にいた。
それでいて性格もいい。
美咲は可南子の彼氏が瀬戸と知った時は、内心、少し落ち込んだほどだ。
それほど瀬戸はいい男だった。
「あ、それは、その…
瀬戸さんが元気そうでよかったです」
美咲は瀬戸を呼び止めたものの、何も話がないことに今頃気づいた。
軽く会釈をしてとぼけた笑顔でその場を去ろうとすると、今度は瀬戸が美咲を呼び止めた。
「朝倉さんはやっぱり長崎に行くのかな?」
瀬戸は我慢できずについそう口走った。
こういう事を可南子が嫌がるのは百も知っていたけど…
「それは瀬戸さんが一番分かってるでしょう。
可南子さんみたいな真面目な人間は、会社にちゃんと従います」
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