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ずっと言いたかったんだ
⑤
しおりを挟む可南子は緊張していた。
銀座の一等地にある料亭の個室で待ち合わせだった。
想太は相変わらずくつろいでいる。
「遅くなってすみません」
そう言いながら現れた想太の命の恩人の柿谷社長は、優しそうな白髪のジェントルマンだった。
「初めまして…」
可南子は立ち上がり自分の自己紹介を始めようとすると、柿谷社長は穏やかな笑みを浮かべてこう言ってくれた。
「座って、可南子ちゃん。
僕は、実は、君の事はよく知ってるんだ。
想太が十二歳で僕の所に来た時に、君の写真を肌身離さず持ってたから…
それで、おじさんにその可愛い女の子の事を教えてくれないかって聞いたんだよな?」
想太は恥ずかしそうな顔で頷いた。
「それがきっかけで、僕達は仲良くなれたんだ。
可愛い可南子ちゃんのおかげだったんだよ。
だから、僕はこの結婚を自分の事のように喜んでいる。
今日は、大人になった可南子ちゃんに会えるのを楽しみにしてた。
小さい頃の写真の可南子ちゃんも美人だったけど、今はそれ以上に綺麗になって驚いてるよ。
可南子ちゃん、想太と結婚してくれて本当にありがとう…
想太の家族として、お礼を言うよ」
可南子は涙が止まらなかった…
可南子の知らない想太の時間を垣間見たみたいで…
そして、想太は幸せだった…
柿谷社長の笑顔は、可南子にそう教えてくれた。
可南子は福岡へ向かう新幹線の中で、ため息ばかりをついていた。
今回は飛行機が苦手な可南子のために、時間はかかるが新幹線にした。
しかし、時間がたっぷりある分、可南子は色々考え過ぎた。
そういう可南子とは対照的に、想太は横で気持ち良さそうに寝ている。
実は、可南子は自分の親に想太の事をはっきりと伝えていなかった。
同じ会社の企画マーケティング部の部長の柿谷さんとしか伝えていない。
それは嘘ではないが、可南子の心は重かった。
想太が目を覚まし横で大きく伸びをしている。
「想ちゃん、大丈夫?」
「何が?」
「うちの親…」
想太は目をぐるっと回し、小さくため息をついた。
「すごい苦手だけど、でも、逃げるわけにはいかないだろ?
でも、考えたらめちゃくちゃ怖い。
だから、なるべく考えない」
想太は大げさに身震いをしながらふざけてそう言った。
「やめとく?」
可南子は真剣に尋ねた。
「バ~カ、大丈夫だよ。
もう、俺は十二歳の想太じゃないんだから」
「実は、お父さん達に想ちゃんだってちゃんと伝えてないの。
企画マーケティング部の柿谷部長としか言ってない…」
可南子は心が苦しくて泣きそうだった。
「いいよ、それで十分。
まずは、会ってもらわなきゃ話もできないし」
「ごめんね…」
きっと、可南子自身が想太より恐れているのかもしれないと思った。
また、想太が傷つくのは見たくない。それが自分の血の繋がった親からの言葉なら、なおさら怖かった。
「想ちゃん、真奈を覚えてる?」
「覚えてるよ。
可南子の妹のオチビちゃんだろ?」
「真奈は、今、福岡の大学に行ってて実家にいるから、きっと、想ちゃんの事を助けてくれる…」
「なんで?」
「だって、想ちゃんの事大好きだったから。
お姉ちゃんじゃなくて、想ちゃんは真奈と結婚するのって叫んでたくらい」
想太は声を出して笑った。
「あの時って、五歳くらいだろ?
もう、俺の事なんて忘れてるよ」
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