60 / 67
おかえりなさい
①
しおりを挟む想太はデスクの上に山積みになった書類を、一つ一つ目を通していた。
最近は仕事が忙しく、家に帰る時間も遅くなってしまうことが多かった。
今夜も急な接待が入り、ほとほとうんざりしている。
すると、タイミングよく美咲がコーヒーを持って入ってきた。
可南子が辞めるという事で、美咲が可南子の仕事を引き継ぐことになっている。
美咲は想太の顔を見ると大きくため息をついた。
「どうした?」
「部長、可南子さんはすごいです。
今まで相当な仕事をこなしてきてたんだなって。
私、マジで、無理かもしれない…」
「そうなんだ…」
「そうですよ。
可南子さんがこの部署からいなくなるなんて、相当、大きな損失ですよ」
美咲はそう言い残し、この場を後にした。
想太は机の上の書類の山を見て気合を入れ直す。
可南子にできて俺にできないわけはないよな…
「ただいま~」
想太は思いのほか早い時間に家に帰ってこれた。
「おかえりなさい」
可南子は嬉しそうに想太を出迎える。
真奈達が帰った後、想太は出張が続き東京に戻ってからも仕事が忙しく、昨日までの想太は家に帰ってきてシャワーも浴びずに寝てしまう日がほとんどだった。
今夜の想太は先にシャワーを浴びて、それからゆっくりくつろいでいる。
可南子はそんな想太にアイスコーヒーを入れて渡した。
「あ~、なんかこんなにゆっくりするの久しぶりだ~」
「最近、忙しいもんね、想ちゃん…」
「そうだ。
可南子と話さなきゃと思ってたことがあったんだ。
この間、真奈が話してたこと。
堀先生って人の話」
可南子は嬉しかった。
シスター堀の事を可南子も想太に話したいとずっと思っていたから。
「そうなの。
想ちゃん、ちょっと私につき合ってくれるかな?」
「でも、シスター堀って、一体何者なんだ?」
可南子は考えてみたら、想太とお互いの中学や高校の事をあまり話していないことに気づいた。
「私が行ってた学校の寮の先生」
やはり、二人ともこの時期の話をすることには抵抗があった。
手紙が届かなかったせいで、お互い、ボロボロの時間を過ごしていた時期だから。
でも、その事にもしっかり向き合わなければならない。
可南子はそのためにもこの話をする事はいい機会だと思っていた。
「シスター堀は、特に中学寮を担当していた先生なの。
私が入った年は、中学一年生で寮に入る子は私しかいなかった。
毎年、何人かいるんだけどね」
想太はこの時点で胸が苦しかった。
可南子を俺は捨ててしまった…
そうじゃないのかもしれないけど、結果的にはそうだったんだ。
その頃の可南子を思い浮かべると、胸がえぐられそうになる…
「シスター堀は一人ぼっちの私のたった一人の友達だった…」
想太はそれを聞いただけでシスター堀を大好きになった。
その頃に可南子の周りに優しい大人がいてくれたことが、本当に嬉しかった。
「シスター堀は、実はその頃はまだシスターになったばかりの若い先生で、あの頃で、きっと二十歳くらいだったのかな。
だから、先生でもありお姉さんでもあったの。
堀先生のおかげで、私はあの時期を乗り越えられたんだと思う」
想太は話をする可南子の隣に座り、可南子の手を握った。
「本当に、ごめんな…」
「想ちゃんが謝ることじゃない。
だってそれはお互いさまだから。
私が苦しんでた時期は想ちゃんも苦しんでた…
誰も悪くないよ…」
可南子はうすうす感じていた。
きっと私も想ちゃんもこの手紙の件だけは、中々、整理ができないことを。
でも、きっと、時間が解決してくれる…
二人が幸せになれば、この小さなしこりもいつかは消えてなくなるはずだから。
0
あなたにおすすめの小説
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
空蝉
杉山 実
恋愛
落合麻結は29歳に成った。
高校生の時に愛した大学生坂上伸一が忘れれない。
突然、バイクの事故で麻結の前から姿を消した。
12年経過した今年も命日に、伊豆の堂ヶ島付近の事故現場に佇んでいた。
父は地銀の支店長で、娘がいつまでも過去を引きずっているのが心配の種だった。
美しい娘に色々な人からの誘い、紹介等が跡を絶たない程。
行き交う人が振り返る程綺麗な我が子が、30歳を前にしても中々恋愛もしなければ、結婚話に耳を傾けない。
そんな麻結を巡る恋愛を綴る物語の始まりです。
空蝉とは蝉の抜け殻の事、、、、麻結の思いは、、、、
数合わせから始まる俺様の独占欲
日矩 凛太郎
恋愛
アラサーで仕事一筋、恋愛経験ほぼゼロの浅見結(あさみゆい)。
見た目は地味で控えめ、社内では「婚期遅れのお局」と陰口を叩かれながらも、仕事だけは誰にも負けないと自負していた。
そんな彼女が、ある日突然「合コンに来てよ!」と同僚の女性たちに誘われる。
正直乗り気ではなかったが、数合わせのためと割り切って参加することに。
しかし、その場で出会ったのは、俺様気質で圧倒的な存在感を放つイケメン男性。
彼は浅見をただの数合わせとしてではなく、特別な存在として猛烈にアプローチしてくる。
仕事と恋愛、どちらも慣れていない彼女が、戸惑いながらも少しずつ心を開いていく様子を描いた、アラサー女子のリアルな恋愛模様と成長の物語。
夜の帝王の一途な愛
ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。
ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。
翻弄される結城あゆみ。
そんな凌には誰にも言えない秘密があった。
あゆみの運命は……
アラフォー×バツ1×IT社長と週末婚
日下奈緒
恋愛
仕事の契約を打ち切られ、年末をあと1か月残して就職活動に入ったつむぎ。ある日街で車に轢かれそうになるところを助けて貰ったのだが、突然週末婚を持ち出され……
社内恋愛の絶対条件!"溺愛は退勤時間が過ぎてから"
桜井 響華
恋愛
派遣受付嬢をしている胡桃沢 和奏は、副社長専属秘書である相良 大貴に一目惚れをして勢い余って告白してしまうが、冷たくあしらわれる。諦めモードで日々過ごしていたが、チャンス到来───!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる