君のそばで会おう ~We dreamed it~

便葉

文字の大きさ
62 / 67
おかえりなさい

しおりを挟む


想太は可南子とシスター達の話を静かに聞いていた。
可南子がどんな学生だったのか、聞いているだけでとても楽しかった。

相変わらず、真面目な学生だったらしい。
六年間も寮生活をしていれば、きっと、先生達にとっては我が子も同然だろう。
たくさんの愛情に包まれて育った可南子は、本当に幸せ者だ。

すると、可南子が急に想太を見て目配せをしたが、想太はその目配せの意味が全く分からない。


「先生達にとってはものすごく失礼な質問になるかもしれませんが、どうしても聞きたい事があるんです。
質問してもよいでしょうか?」


可南子がそう聞くと、シスター達は顔を見合わせて笑顔で「どうぞ」と言った。


「単刀直入に聞きます。
私が中学に入って間もない頃に、私と大切な友達と交わした手紙が行方不明になっているんです。

もう十五年も前の事なので先生達に聞くのも気が引けるのですが、何か知っている事があればと思い…」


想太は驚いてしまった。
何に驚いたかというと可南子がそう聞いた途端、シスター達の顔色が変わったことだ。
可南子は声を震わせてもう一度聞いた。


「何か知ってることがあるんですか?」


シスター田中は表情を変えずに頷き、そして、マリア様を見て静かに微笑んだ。


「可南子さん、もう十五年も経った今だから私達も話しますね…」


シスター堀はずっと下を向いている。


「お友達が可南子さんへ宛てて送った手紙は、この寮にちゃんと届いてました。

でも、その送り主は男の人でしたよね。

この学校は、中学生の間は男女交際禁止という校則があります。
私達は何通も何通も送ってくる男の子からの手紙を、可南子さんに渡すべきかとても悩みました」


可南子はあまりの衝撃に声を出すことも忘れていた。
想太はそんな可南子の手をそっと握りしめる。


「手紙については、高校の寮監の先生にも相談したりしました。
そして、出した結果は、渡さないという事。

可南子さんには本当に申し訳ないと思ったけれど、それは学校の決まりでした。
特に十二歳のあなたはまだ子供だった。

私達は、手紙を渡さないということに決めたのです」


シスター田中は冷静にそして穏やかに昔の記憶を確かめながら話している。


「私の…
私が書いた手紙は?
私が書いて事務の先生に、出して下さいとお願いしたあの手紙は?」


可南子は必死に声を絞り出してそう聞いた。


「あの手紙も私達が預かりました。
可南子さん、あなたが驚くのも無理はありません。
でも、あの時の私達の判断は決して間違ったものではないと今でも確信しています」


「それでは、私達のその手紙はどこにあるのでしょうか?」


すると、シスター田中は沈んだ表情でこう言った。


「それは…
あなたに渡さないという事は、あなたの目に触れてはいけない事。
だから、私達はその手紙を処分しました。

酷な事だと思うかもしれませんが、分かってくださいね」


可南子は茫然と話を聞いていた。

この十五年間、可南子は想太を責めて生きてきた。
想太に私は捨てられたのだと…

先生はその頃の私達を十二歳の子供だというけれど、私達は相手を思いやり必死に生きてきた。
私達が書いてきた手紙はただの紙切れなんかじゃない。
可南子はぼんやりとそう考えていた。
涙すらでてこない。


想太は、もうこれ以上、可南子の苦しむ姿を見たくはなかった。
真実を知れた、それだけで十分だ…
先生達のやってきたことも想太には理解ができる。

もう終わったこと…
俺達は結婚するんだ…


「可南子、もうそろそろ帰らなきゃ…
先生達も忙しいだろうから」


想太は小さな声で可南子へそう伝えた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛

ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。 そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う これが桂木廉也との出会いである。 廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。 みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。 以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。 二人の恋の行方は……

すれ違う心 解ける氷

柴田はつみ
恋愛
幼い頃の優しさを失い、無口で冷徹となった御曹司とその冷たい態度に心を閉ざした許嫁の複雑な関係の物語

空蝉

杉山 実
恋愛
落合麻結は29歳に成った。 高校生の時に愛した大学生坂上伸一が忘れれない。 突然、バイクの事故で麻結の前から姿を消した。 12年経過した今年も命日に、伊豆の堂ヶ島付近の事故現場に佇んでいた。 父は地銀の支店長で、娘がいつまでも過去を引きずっているのが心配の種だった。 美しい娘に色々な人からの誘い、紹介等が跡を絶たない程。 行き交う人が振り返る程綺麗な我が子が、30歳を前にしても中々恋愛もしなければ、結婚話に耳を傾けない。 そんな麻結を巡る恋愛を綴る物語の始まりです。 空蝉とは蝉の抜け殻の事、、、、麻結の思いは、、、、

数合わせから始まる俺様の独占欲

日矩 凛太郎
恋愛
アラサーで仕事一筋、恋愛経験ほぼゼロの浅見結(あさみゆい)。 見た目は地味で控えめ、社内では「婚期遅れのお局」と陰口を叩かれながらも、仕事だけは誰にも負けないと自負していた。 そんな彼女が、ある日突然「合コンに来てよ!」と同僚の女性たちに誘われる。 正直乗り気ではなかったが、数合わせのためと割り切って参加することに。 しかし、その場で出会ったのは、俺様気質で圧倒的な存在感を放つイケメン男性。 彼は浅見をただの数合わせとしてではなく、特別な存在として猛烈にアプローチしてくる。 仕事と恋愛、どちらも慣れていない彼女が、戸惑いながらも少しずつ心を開いていく様子を描いた、アラサー女子のリアルな恋愛模様と成長の物語。

夜の帝王の一途な愛

ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。 ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。 翻弄される結城あゆみ。 そんな凌には誰にも言えない秘密があった。 あゆみの運命は……

アラフォー×バツ1×IT社長と週末婚

日下奈緒
恋愛
仕事の契約を打ち切られ、年末をあと1か月残して就職活動に入ったつむぎ。ある日街で車に轢かれそうになるところを助けて貰ったのだが、突然週末婚を持ち出され……

社内恋愛の絶対条件!"溺愛は退勤時間が過ぎてから"

桜井 響華
恋愛
派遣受付嬢をしている胡桃沢 和奏は、副社長専属秘書である相良 大貴に一目惚れをして勢い余って告白してしまうが、冷たくあしらわれる。諦めモードで日々過ごしていたが、チャンス到来───!?

処理中です...