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おかえりなさい
③
しおりを挟む想太は可南子とシスター達の話を静かに聞いていた。
可南子がどんな学生だったのか、聞いているだけでとても楽しかった。
相変わらず、真面目な学生だったらしい。
六年間も寮生活をしていれば、きっと、先生達にとっては我が子も同然だろう。
たくさんの愛情に包まれて育った可南子は、本当に幸せ者だ。
すると、可南子が急に想太を見て目配せをしたが、想太はその目配せの意味が全く分からない。
「先生達にとってはものすごく失礼な質問になるかもしれませんが、どうしても聞きたい事があるんです。
質問してもよいでしょうか?」
可南子がそう聞くと、シスター達は顔を見合わせて笑顔で「どうぞ」と言った。
「単刀直入に聞きます。
私が中学に入って間もない頃に、私と大切な友達と交わした手紙が行方不明になっているんです。
もう十五年も前の事なので先生達に聞くのも気が引けるのですが、何か知っている事があればと思い…」
想太は驚いてしまった。
何に驚いたかというと可南子がそう聞いた途端、シスター達の顔色が変わったことだ。
可南子は声を震わせてもう一度聞いた。
「何か知ってることがあるんですか?」
シスター田中は表情を変えずに頷き、そして、マリア様を見て静かに微笑んだ。
「可南子さん、もう十五年も経った今だから私達も話しますね…」
シスター堀はずっと下を向いている。
「お友達が可南子さんへ宛てて送った手紙は、この寮にちゃんと届いてました。
でも、その送り主は男の人でしたよね。
この学校は、中学生の間は男女交際禁止という校則があります。
私達は何通も何通も送ってくる男の子からの手紙を、可南子さんに渡すべきかとても悩みました」
可南子はあまりの衝撃に声を出すことも忘れていた。
想太はそんな可南子の手をそっと握りしめる。
「手紙については、高校の寮監の先生にも相談したりしました。
そして、出した結果は、渡さないという事。
可南子さんには本当に申し訳ないと思ったけれど、それは学校の決まりでした。
特に十二歳のあなたはまだ子供だった。
私達は、手紙を渡さないということに決めたのです」
シスター田中は冷静にそして穏やかに昔の記憶を確かめながら話している。
「私の…
私が書いた手紙は?
私が書いて事務の先生に、出して下さいとお願いしたあの手紙は?」
可南子は必死に声を絞り出してそう聞いた。
「あの手紙も私達が預かりました。
可南子さん、あなたが驚くのも無理はありません。
でも、あの時の私達の判断は決して間違ったものではないと今でも確信しています」
「それでは、私達のその手紙はどこにあるのでしょうか?」
すると、シスター田中は沈んだ表情でこう言った。
「それは…
あなたに渡さないという事は、あなたの目に触れてはいけない事。
だから、私達はその手紙を処分しました。
酷な事だと思うかもしれませんが、分かってくださいね」
可南子は茫然と話を聞いていた。
この十五年間、可南子は想太を責めて生きてきた。
想太に私は捨てられたのだと…
先生はその頃の私達を十二歳の子供だというけれど、私達は相手を思いやり必死に生きてきた。
私達が書いてきた手紙はただの紙切れなんかじゃない。
可南子はぼんやりとそう考えていた。
涙すらでてこない。
想太は、もうこれ以上、可南子の苦しむ姿を見たくはなかった。
真実を知れた、それだけで十分だ…
先生達のやってきたことも想太には理解ができる。
もう終わったこと…
俺達は結婚するんだ…
「可南子、もうそろそろ帰らなきゃ…
先生達も忙しいだろうから」
想太は小さな声で可南子へそう伝えた。
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