イケメンエリート軍団の籠の中

便葉

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イケメンぎんなんはストーカー??

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 映司が自分のブースに向かって歩き始めた途端に、舞衣のスマホから聞き慣れない音する。

 あ、ぎんなんだ……

 スマホの待ち受け画面にぎんなんと大きく表示されている。舞衣がぎんなんの表示を開くと、その文面で凪の怒りが伝わってきた。


“ちゃんと断ったか?”


 舞衣はそっと辺りを見回した。

 凪さん、どこかで見てた??

 ここの会社の人々は、朝一番で必ず自分のパソコンのチェックをする。そして、ほとんどの人がサロンでコーヒーを淹れた後、しばらくは自分のブースから出てこない。

 そうだよ… 凪さんが見てるなんて、ないない…

 舞衣は自分にそう言い聞かせ、凪に返信した。


“断るも何も、何もないですから”


 すると二秒もかからずに凪から返信がくる。


“夜は今日も俺の家だから”


 舞衣はしばらく考え込んだ。

 俺の家って、今日も凪さんの家に来いってこと?

 それはすごく嬉しいけれど、でも、冷静な舞衣は首を横に振っている。
 凪に深入りしてしまうことは避けなければ、きっと二人とも傷ついてしまう……


“考えておきます”


 舞衣はそう返信すると、スマホの電源を切った。



 午後になると、舞衣はジャスティンの英語の授業に真剣に取り組んだ。
 ジャスティンは、そんな舞衣を優しい眼差しで包み込む。


「ねえ、舞衣?」


 舞衣はジャスティンの声を聞いて、タブレットに向けていた顔を上げた。


「トオルの事、悪く思わないでやってね」


「あ、はい、全然、大丈夫です……」


「前に、トオルは急に豹変するから要注意って言ったろ?
 それは、そういう事なんだ。
 あいつは自分にも厳しいし、他人にも厳しい。

 見た目があんな感じで柔らかくて温厚に見えるから、そのギャップで最初はみんな戸惑うんだ。
 ま、昨日の舞衣に対しては、まだ全然優しい方だよ。
 一番酷かったのは凪の時だな」


 ジャスティンは、舞衣の凪への反応を見て楽しんだ。


「え? あの凪さんが怒られたんですか?」


「トオルは凪のあの髪形や、マイペース過ぎる行動にどうしても慣れなかった。
 しばらくは我慢してたけど、ある日、爆発したんだ」


 舞衣は身を乗りだして、その後のジャスティンの話を待った。


「それは、あんたの価値観だろ?
 それを他人に強要しようとすること自体、おかしくない?って」


ジャスティンは舞衣を見て笑った。


「そ、それだけですか?」


「うん、それだけ…」


「EOCのナンバーワンに、そう、とてつもないお金を稼いでいる人間に、言葉や常識は必要ないんだ。
 それが全てなんだよ。
 っていうか、あんな変な奴だからこそ、成し遂げられたのかもしれないけどね」


 舞衣の中で、凪が一体どれくらいお金を稼いでいるのかとか、どれくらいすごい仕事をしているのかとか、そんな事にはあまり興味はなかった。逆に、そういう事を聞けば聞くほど凪を遠く感じてしまう。
 ちっぽけな自分との格差を思い知らされる。

 でも、私の知っている凪さんはきっと誰も知らない凪さんだから、その幸せを今は噛みしめよう。

 舞衣はそうやって気持ちを切り替えると、ジャスティンとの英会話の勉強に集中した。


 コンコン…


 誰も来るはずのない社長室のドアを叩く音がする。舞衣とジャスティンは顔を見合わせて、お互い首を傾けた。
 すると、ジャスティンが立ち上がったと同時に、来るはずのない来客が現れた。


「よう」


 凪はバツの悪そうな笑みを浮かべ、片手にコーヒーカップを持っている。


「どうした?
 お前がこんなところに来るなんて、珍しいな」


 ジャスティンは何もかもお見通しみたいな顔をして、にやついてそう言った。
 凪はそんなジャスティンは無視して、舞衣の隣に座る。


「おいおい、凪、邪魔なんだけど。俺と舞衣は勉強中」


 凪は軽くジャスティンを睨んだ。
 でも、凪にとってジャスティンは、このフロアの中で唯一舞衣と話すことを許可している人間だ。もちろん、完全なゲイという性質のジャスティンは、凪の異常なほどの舞衣への保護本能を刺激することはない。

 凪はそれよりスマホの電源を切っている舞衣に腹を立てていた。

 俺に歯向かうなんて100年早いんだよ…


「凪…
 そんな怖い顔するなよ。舞衣が怯えてるし」


 ジャスティンはもうはっきりと分かった。この二人、確実に何かがあると。


「ジャス、あのさ、この仕事、俺が変わってやるよ。
 この会社でよく使う英語を教えりゃいいんだろ?

 ニューヨーク本社勤務の俺が教えた方がよくない?」


 凪は左側の口元を斜めに上げ、偽物の微笑みを浮かべている。


「無理だよ。
 だって、俺がソフィアにお願いされたんだ。
 俺は社長の言う事はちゃんと聞く人間だからね」


 ジャスティンは不安そうに二人を見ている舞衣に向かって目配せをした。


「凪、何? 
 舞衣に惚れちゃった?」


 ジャスティンは面白がってそう聞いた。


「ジャス、聞きたいなら教えてやるよ。
 お前が恋人のアキラに惚れてるよりも、俺の方がずっとこいつに惚れてる。

 ジャスはゲイだから許してるけど、それでも余計な事するようだったら容赦しないからな」


 舞衣は心臓がドキドキして飛び出しそうだった。
 二人の一触即発の状態も怖かったけれど、それより、凪の俺様な台詞に急激に胸が高鳴った。


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