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存在
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海人の「民宿あおさ」での初めての朝は、慌ただしく始まった。
この日は三組の宿泊客が来るという事で、海人は玄関とその周りの掃き掃除をし水を撒いた。
打ち水をするという行為は、夏に涼しさを演出することと場を清めるという昔からの言い伝えがある。
海人はあらゆる面で少しでも自分らしさを失わずに、この時代に順応していきたいと思っていた。
そして、ここには朝顔が蔓を巻いてたくさんの花を咲かせている。
海人は、ひまわりの家の庭にたくさんの花の種を蒔いた。
しかし、綺麗な花を咲かせる時を僕は見ることはないだろう。
その頃に満開になった庭を見て、ひまわりは僕のことを思い出してくれるだろうか。
海人は、昨夜、サチとたくさん話をした。
サチは小さな頃から不思議な能力があり、会った人の人となりとかご先祖様がたまに見えたりするんだと、笑いながら話してくれた。
そして、たまにサチは海人を凝視して、首を横に傾ける仕草をする。
海人は、恐る恐るその理由を聞いてみた。
「う~ん、何だろうね、聞かない方がいいかもしれないよ。
でも、記憶喪失ってところで、私はそういう人に今まで会ったことがないからそういうもんなのかもしれないね~」
海人は一瞬ためらったが、思い切って聞いてみた。
「あなたはね、最初に見た時も、今も、何も見えないし何も感じないんだよ。
普通は後ろの方でガヤガヤ音がしたり、話し声が聞こえたりがするんだけどね。
なんだかね~、あなたは不思議なくらいに無なんだよ。
初めてだね、こういう人は…」
「あ~、そうなんですか…」
海人はそう答えるしかなかった。
「ま、私のこの力はあてにならないから気にすることはないよ」
「…はい」
海人は気にしていない顔を装ってはいたが、心の中はかなり動揺した。
海人が午前の仕事をそろそろ終えようとしていた時に、三十代位の夫婦がよちよち歩きの赤ちゃんを連れて車で到着した。
サチにとってその人達は常連客らしく、にこにこして赤ちゃんを抱っこしたりしながら話に花を咲かせている。
海人はその人達から荷物を受け取り部屋へ運び、もう一度部屋の中を点検し、クーラーを入れて部屋の温度を下げておいた。
話し終えたその夫婦は、いつも泊まる部屋なのか案内しなくても大丈夫と言って笑顔で部屋へと歩いて行く。
「わ、涼しい。
クーラー入れててくれたんですね、ありがとう」
部屋に入ったその家族が、海人に向かってそう言った。
海人は働くためにひまわりと別れたけれど、働く事は海人の傷ついた心を癒してくれる。
ひまわりにもそんな何かがあればいいのだけれど…
海人の一日は、12時から15時までが唯一の休憩時間だ。
その時間は、いつも民宿の前にある海へ下りて行く。
日陰を見つけそこでぼんやりとしていると、ひまわりに会いたいという気持ちが急激に襲ってくる。
海人は、ひまわりの家とこの民宿は5キロほどしか離れていないと良平が話していた事を思い出し、この海沿いの道を歩いて行けばひまわりの家まで辿り着けるのではないかと思ったりもした。
だけど、海人は良平と約束をした。
その約束は、踏み出しそうになる海人の足を元の位置に戻してしまうほどの大きな力を持っている。
ひまわりのこれからを考えた時に、僕の存在はいつかは邪魔になるだろう。
今の僕が彼女を迎えに行くことは、到底無理なこと。
僕が、僕自身を一人前と認めなければ…
でも、いつになるかは分からないけれど、僕は必ずひまわりを迎えに行く。
僕がこの時代にいる限りは、絶対にあきらめない。
この日は三組の宿泊客が来るという事で、海人は玄関とその周りの掃き掃除をし水を撒いた。
打ち水をするという行為は、夏に涼しさを演出することと場を清めるという昔からの言い伝えがある。
海人はあらゆる面で少しでも自分らしさを失わずに、この時代に順応していきたいと思っていた。
そして、ここには朝顔が蔓を巻いてたくさんの花を咲かせている。
海人は、ひまわりの家の庭にたくさんの花の種を蒔いた。
しかし、綺麗な花を咲かせる時を僕は見ることはないだろう。
その頃に満開になった庭を見て、ひまわりは僕のことを思い出してくれるだろうか。
海人は、昨夜、サチとたくさん話をした。
サチは小さな頃から不思議な能力があり、会った人の人となりとかご先祖様がたまに見えたりするんだと、笑いながら話してくれた。
そして、たまにサチは海人を凝視して、首を横に傾ける仕草をする。
海人は、恐る恐るその理由を聞いてみた。
「う~ん、何だろうね、聞かない方がいいかもしれないよ。
でも、記憶喪失ってところで、私はそういう人に今まで会ったことがないからそういうもんなのかもしれないね~」
海人は一瞬ためらったが、思い切って聞いてみた。
「あなたはね、最初に見た時も、今も、何も見えないし何も感じないんだよ。
普通は後ろの方でガヤガヤ音がしたり、話し声が聞こえたりがするんだけどね。
なんだかね~、あなたは不思議なくらいに無なんだよ。
初めてだね、こういう人は…」
「あ~、そうなんですか…」
海人はそう答えるしかなかった。
「ま、私のこの力はあてにならないから気にすることはないよ」
「…はい」
海人は気にしていない顔を装ってはいたが、心の中はかなり動揺した。
海人が午前の仕事をそろそろ終えようとしていた時に、三十代位の夫婦がよちよち歩きの赤ちゃんを連れて車で到着した。
サチにとってその人達は常連客らしく、にこにこして赤ちゃんを抱っこしたりしながら話に花を咲かせている。
海人はその人達から荷物を受け取り部屋へ運び、もう一度部屋の中を点検し、クーラーを入れて部屋の温度を下げておいた。
話し終えたその夫婦は、いつも泊まる部屋なのか案内しなくても大丈夫と言って笑顔で部屋へと歩いて行く。
「わ、涼しい。
クーラー入れててくれたんですね、ありがとう」
部屋に入ったその家族が、海人に向かってそう言った。
海人は働くためにひまわりと別れたけれど、働く事は海人の傷ついた心を癒してくれる。
ひまわりにもそんな何かがあればいいのだけれど…
海人の一日は、12時から15時までが唯一の休憩時間だ。
その時間は、いつも民宿の前にある海へ下りて行く。
日陰を見つけそこでぼんやりとしていると、ひまわりに会いたいという気持ちが急激に襲ってくる。
海人は、ひまわりの家とこの民宿は5キロほどしか離れていないと良平が話していた事を思い出し、この海沿いの道を歩いて行けばひまわりの家まで辿り着けるのではないかと思ったりもした。
だけど、海人は良平と約束をした。
その約束は、踏み出しそうになる海人の足を元の位置に戻してしまうほどの大きな力を持っている。
ひまわりのこれからを考えた時に、僕の存在はいつかは邪魔になるだろう。
今の僕が彼女を迎えに行くことは、到底無理なこと。
僕が、僕自身を一人前と認めなければ…
でも、いつになるかは分からないけれど、僕は必ずひまわりを迎えに行く。
僕がこの時代にいる限りは、絶対にあきらめない。
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