この手に楽園を

蓮ゆうま

文字の大きさ
27 / 29
二章 宗教の真実

罠2

しおりを挟む

一同はラクラスの飛翔系移動魔法によって凄まじい速さで疾走していた。だが彼らにぴったりとついてくる何かがいる。

―――追われてるな。

「確かにな。」

気分悪そうにケイが同意する。まだ頭の芯がくらくらと揺れているらしい彼は至極不機嫌そうだ。

「そもそも俺達が追われているのはユビシュ教の幹部達でいいのか?何かもっと他の団体とかじゃないだろうな。」

―――例えば?

「思い浮かばないから聞いてるんだよ。」

―――んー・・・・・・。

ふつりと、四人の間に沈黙が落ちる。空気と自分達との摩擦音だけが聞こえる空の上でやがて口を開いたのはユスリだった。

―――今のお前達は新興宗教の始まりみたいなもんだからね。もし自分達一強にしたいなら脅威の芽は早めに摘み取ってしまうのが一番だけど、それにしては情報が早すぎる気もする。まるで各村々に探知機でも設置してあるような・・・・・・?

―――そんなに自分達だけにしたいってことか?

―――そう考えるのが一番妥当だろうね。

会話を受けてケイが口を開こうとした瞬間、リオンが口を開いて叫んだ。

「止まって!」

その鋭い叫び声にラクラスがほぼ無意識で移動魔法を停止させる。一同は空中に浮いたまま油断なく辺りを見渡した。

「そこに、いる、やつ・・・!出てき、て。」

何かを感知したらしいリオンが空中を見据え唸る。やがてふふっ、というどこかで聞いたことあるような声が響いてきた。

「また君に見つかったな、残念。今回は結構自信があったのに。」

喉の奥で押し殺してように笑う笑い方と尊大な口調。己に対する誇りの高さが伺える声はまだまだ幼い。

「まだ締めが甘いみたいだな、ラクラス。」

―――お前が本来か・・・・・・。

面倒そうに舌打ちするラクラスに悠然とラーラが話しかける。

「ようやく気づいたのか?君みたいな堕天使に俺が捕まるわけない。お前みたいな曖昧な者と神の眷属である俺を比べたら断然俺の方が勝るだろう。なあ、曖昧な者よ。」

堕天使は、天使と悪魔の狭間。
生まれ持った清らかさはそのままに心が穢れ、力と精神がねじれてしまった歪んだ生き物。
闇にもなりきれず、けれども光として天界に戻ることも叶わず、地獄の底まで、最果てまで堕ちた天使、それが堕天使。
その性質の寛容さ故に、時折彼らは“曖昧な者”とも呼ばれることがある。

肉体と精神の歪みは気が狂うほどの苦痛を連れてくる。
昔、遠い寿命の先にある“死”までその苦しさに耐えるしかなかった堕天使達に魔王がある慈悲を与えた。
一つ、魔の力を行使することを許可する。
二つ、堕天使は人と契約しなければならない。ある一定期間契約しなければ“最果て”にて幽閉する。
三つ、死を迎えることは許されない。
清らかなる癒しの力を放棄する代わりに、彼らは自らの欲した力を振るう権利を得た。だがその代償は重く、魔王一人では背負いきれなかった。それ故、堕天使には過酷な運命が課せられたのだ。

―――・・・・・・罵りたければ罵ればいい。馬鹿にしたければ馬鹿にすればいい。だが後で痛い目を見るぞ。堕天使という者は、曖昧な故に最強だと言うことをな。

にやりと笑ったラクラスの足元に魔法陣が展開される。それは仄かに光を放ちながらラーラの足元まで移動してきた。

「これがどうかしたのか?なんの役にも立たない・・・。」

―――ラーラ。

先程と同じようにラクラスがラーラの名前を呼ぶ。
その次の瞬間。
轟音と共に雷と光が魔法陣から飛び出し、辺りの視界を白く埋め尽くした。




――――――・・・・・・。





背中が硬いものに当たっている。
ケイは寝心地の悪さを感じて起き上がった。

「どこだ・・・・・・?」

眼前に広がるのは生物の気配を感じない荒れ野だった。所々に細い草は生えているものの、どれも色あせていて頼りない。
どうしようか困ったケイの後ろに気配が一つ生じた。

「だれ?」

背後に立ったのは幼い少女。
丸い、くりくりとした瞳を見開いて、無表情でケイに問いかける。中々の器量をした少女の面に浮かぶ相は見間違いだろうか。
微かな恐れがケイの心を蝕み始める。

「だれ?」

また一人、現れた。
長い睫毛の生えた瞼をはたはたと瞬いて、空虚な表情でケイを見ている。見た目の年とは相応しくない、生きているとは思えない顔にまたも嫌な予感が走る。
この子供達はだれだ?

「だれ?」

「だれ?」

「だれ?」

「だれ?」

「だれ?」

子供達は思考している間にもどんどん増え続けていた。無限増殖するかのようなその歪な雰囲気にケイは呑まれかけている。
やがて彼らは一様にケイ迫った。

「だれ?」

感情を消した針のような視線がケイに何百と突き刺さる。瞬きをする度に震える睫毛もケイにとっては氷の針のよう。
正体を問うその無機質な問に彼の表情が少しずつ強張り色を無くしていく。 
だれ?
なにもの?
ケイの耳にその声は繰り返し響き続け、やがて彼の脳裏を席巻した。

「う、るさいな・・・。」

やがて彼は耐えきれなくなったように頭を一振りすると、耳を塞ぎ大きな声で叫んだ。

「そんなの俺が知りたいぐらいだ!誰か教えてくれよ!」

生き物のいない荒れ野原に、凄まじい魔力が爆発した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...