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二章 宗教の真実
罠2
しおりを挟む一同はラクラスの飛翔系移動魔法によって凄まじい速さで疾走していた。だが彼らにぴったりとついてくる何かがいる。
―――追われてるな。
「確かにな。」
気分悪そうにケイが同意する。まだ頭の芯がくらくらと揺れているらしい彼は至極不機嫌そうだ。
「そもそも俺達が追われているのはユビシュ教の幹部達でいいのか?何かもっと他の団体とかじゃないだろうな。」
―――例えば?
「思い浮かばないから聞いてるんだよ。」
―――んー・・・・・・。
ふつりと、四人の間に沈黙が落ちる。空気と自分達との摩擦音だけが聞こえる空の上でやがて口を開いたのはユスリだった。
―――今のお前達は新興宗教の始まりみたいなもんだからね。もし自分達一強にしたいなら脅威の芽は早めに摘み取ってしまうのが一番だけど、それにしては情報が早すぎる気もする。まるで各村々に探知機でも設置してあるような・・・・・・?
―――そんなに自分達だけにしたいってことか?
―――そう考えるのが一番妥当だろうね。
会話を受けてケイが口を開こうとした瞬間、リオンが口を開いて叫んだ。
「止まって!」
その鋭い叫び声にラクラスがほぼ無意識で移動魔法を停止させる。一同は空中に浮いたまま油断なく辺りを見渡した。
「そこに、いる、やつ・・・!出てき、て。」
何かを感知したらしいリオンが空中を見据え唸る。やがてふふっ、というどこかで聞いたことあるような声が響いてきた。
「また君に見つかったな、残念。今回は結構自信があったのに。」
喉の奥で押し殺してように笑う笑い方と尊大な口調。己に対する誇りの高さが伺える声はまだまだ幼い。
「まだ締めが甘いみたいだな、ラクラス。」
―――お前が本来か・・・・・・。
面倒そうに舌打ちするラクラスに悠然とラーラが話しかける。
「ようやく気づいたのか?君みたいな堕天使に俺が捕まるわけない。お前みたいな曖昧な者と神の眷属である俺を比べたら断然俺の方が勝るだろう。なあ、曖昧な者よ。」
堕天使は、天使と悪魔の狭間。
生まれ持った清らかさはそのままに心が穢れ、力と精神がねじれてしまった歪んだ生き物。
闇にもなりきれず、けれども光として天界に戻ることも叶わず、地獄の底まで、最果てまで堕ちた天使、それが堕天使。
その性質の寛容さ故に、時折彼らは“曖昧な者”とも呼ばれることがある。
肉体と精神の歪みは気が狂うほどの苦痛を連れてくる。
昔、遠い寿命の先にある“死”までその苦しさに耐えるしかなかった堕天使達に魔王がある慈悲を与えた。
一つ、魔の力を行使することを許可する。
二つ、堕天使は人と契約しなければならない。ある一定期間契約しなければ“最果て”にて幽閉する。
三つ、死を迎えることは許されない。
清らかなる癒しの力を放棄する代わりに、彼らは自らの欲した力を振るう権利を得た。だがその代償は重く、魔王一人では背負いきれなかった。それ故、堕天使には過酷な運命が課せられたのだ。
―――・・・・・・罵りたければ罵ればいい。馬鹿にしたければ馬鹿にすればいい。だが後で痛い目を見るぞ。堕天使という者は、曖昧な故に最強だと言うことをな。
にやりと笑ったラクラスの足元に魔法陣が展開される。それは仄かに光を放ちながらラーラの足元まで移動してきた。
「これがどうかしたのか?なんの役にも立たない・・・。」
―――ラーラ。
先程と同じようにラクラスがラーラの名前を呼ぶ。
その次の瞬間。
轟音と共に雷と光が魔法陣から飛び出し、辺りの視界を白く埋め尽くした。
――――――・・・・・・。
背中が硬いものに当たっている。
ケイは寝心地の悪さを感じて起き上がった。
「どこだ・・・・・・?」
眼前に広がるのは生物の気配を感じない荒れ野だった。所々に細い草は生えているものの、どれも色あせていて頼りない。
どうしようか困ったケイの後ろに気配が一つ生じた。
「だれ?」
背後に立ったのは幼い少女。
丸い、くりくりとした瞳を見開いて、無表情でケイに問いかける。中々の器量をした少女の面に浮かぶ相は見間違いだろうか。
微かな恐れがケイの心を蝕み始める。
「だれ?」
また一人、現れた。
長い睫毛の生えた瞼をはたはたと瞬いて、空虚な表情でケイを見ている。見た目の年とは相応しくない、生きているとは思えない顔にまたも嫌な予感が走る。
この子供達はだれだ?
「だれ?」
「だれ?」
「だれ?」
「だれ?」
「だれ?」
子供達は思考している間にもどんどん増え続けていた。無限増殖するかのようなその歪な雰囲気にケイは呑まれかけている。
やがて彼らは一様にケイ迫った。
「だれ?」
感情を消した針のような視線がケイに何百と突き刺さる。瞬きをする度に震える睫毛もケイにとっては氷の針のよう。
正体を問うその無機質な問に彼の表情が少しずつ強張り色を無くしていく。
だれ?
なにもの?
ケイの耳にその声は繰り返し響き続け、やがて彼の脳裏を席巻した。
「う、るさいな・・・。」
やがて彼は耐えきれなくなったように頭を一振りすると、耳を塞ぎ大きな声で叫んだ。
「そんなの俺が知りたいぐらいだ!誰か教えてくれよ!」
生き物のいない荒れ野原に、凄まじい魔力が爆発した。
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