この手に楽園を

蓮ゆうま

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二章 宗教の真実

冥王2

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ラクラスは、何も無い荒野をただ一人でひた走っていた。普段使わない身体強化も使い、珠の汗が額が流れても足を止めずにとにかく走る。
彼はケイを探していた。

―――くそっ、どこまで広いんだ・・・・・・!

ラクラスが苛立ちを隠せないふうに舌打ちして近くの岩を殴りつける。頑丈であるはずの巨岩は、まるで脆い硝子細工のように彼の拳に傷一つつけられず崩れた。

―――せめて翔べたならば・・・。

空気が重くのしかかってくるようなこの場所では、どれだけ魔力を翼に巡らせても飛べないのだ。それに、空気の抵抗が酷く、思ったように走れない。
忌々しげに己の手を眺めるラクラスの額にはらりと髪が落ちて、彼の表情を隠した。
ラクラスがラーラにかけた術は、彼にしか使えない禁術だった。術をかけた相手を自分が作り出した空間に一定時間閉じ込めるこの術は無詠唱でなければ発動することが出来ず、更に空間の維持が難しいため、ラクラスにしか扱えない高尚な術だった。そして対処する技も無いため、ある意味彼の切り札だった魔法。ところがラーラは、それに魔力を叩き込んで介入し、ラクラス、ケイ、リオン、ユスリも巻き込んだのだ。
自分の戦闘能力や魔法技術には絶対の自身があった彼は、何よりも自分のその失態が許せなかった。
ここは本当に自分が作り出した空間だろうか。自分が作った場所ならば、もっと自分の意思の通りになってもいいはず。

―――何かが、おかしい・・・?

呟きながら視線を上に滑らせたラクラスは、突如立ち止まった。
瞬きも忘れて彼が見あげる先にあるのは。



―――巨大な、冥府の門―――



空中にぽかりと浮かび、荘厳な雰囲気を醸す細やかな装飾の為された門。
その門は、死者しか通ることが出来ないと言う。
その門の前には、凶暴な魔獣が立ち、生者や冥王の邪魔になる者を阻んでいるという。
その門を越えると、二度と戻ってこれぬという。

―――は、まさか、ここはタルタロスか・・・?

願わくば、そうであるなという思い。
だがそれは、門を守護する魔獣の登場によってあっさりと打ち砕かれた。

「ナニモノダ。」

―――・・・・・・!

突如生じた気配にラクラスが勢いよく振り向く。

「オマエハ、ダテンシカ。ナゼ、コンナトコロ二イルノダ。」

高圧的な口調で問いかける魔獣を見てラクラスが呟いた。

―――お前、門の守護獣か。

それは、生者と死者の境を分ける門を守護する魔獣。
犬のような体躯にふさふさとした三つの尻尾。首の周りにはうにうにと蛇が生え、互いにその体を絡みつかせている。少し開いた口からは涎が滴り落ち、金色の瞳は獰猛な光を宿す。

「イカニモ。ワレハ、メイフノ、モンヲシュゴスルケモノ。チュウセイヲ、ササゲルノハ、メイオウサマダケダ。オマエハ、ナゼココニイルノダ。」

―――俺は、気がついたらって感じだな。なあ、一つ聞くが、もしかしてこのはタルタロスか?

「シラズニ、オチテキタノカ。ナラバ、チジョウニカエシテヤロウ。」

そう言って冥王に取り次ごうとする守護獣をラクラスが呼び止める。

―――待て!もし冥王の所に行くなら、俺も連れて行ってくれないか。人を探していてな。俺の主だ。

「ニンゲント、ケイヤクシテイタノカ。シバシマテ。メイオウサマニ、オウカガイヲタテテコヨウ。」

―――ああ、頼む・・・。

色の良い返事に安心して、ラクラスはかくりと地面に座り込んだ。
まだケイが見つかった訳では無い。だが冥王が探してくれると言うならば、だいぶ楽になるだろう。何せ、このタルタロス(多分)は冥王の支配下なのだ。
きっとどこにいても見つけることが出来るだろう。

「・・・・・・―――!」

―――なんだ?

ラクラスの並外れた聴力が何かの音を微かに捉える。
静寂の満ちるこの場所でさえ微かにしか聞こえないのだから、実際の距離は相当に遠いだろう。
普段ならば、罪人の苦悶の叫びだと片付けることが出来ただろう。
だが今は。
ラクラスの胸に、とてつもなく嫌な予感が走る。

「ダテンシ!」

―――なんだ!

門が勢いよく開き、守護獣が泡を食ったように飛び出してきた。

「タッタイマ、タルタロスガ、アバレダシタトイウシラセガ、ハイッタ。オマエハ、ツヨイチカラヲ、モッテイルノダロウ?チカラヲ、カシテクレ!メイオウサマノ、オオセダ!」

―――奇遇だな。俺も不思議な声を聞いたところだ。

暗に一緒に行くという意思を滲ませるラクラスに守護獣が頷いて背を向けた。

「ノレ。」

その背に勢いよく飛び乗ると、すぐさま凄まじい速度で駆けていく。

―――無事でいてくれよ、ケイ・・・。
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