お代はアンタの魂で

猫とろ

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犬養粧子②

終焉

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ホテルに向かう高速道路は少し混んでいた。
あと少しで高速を降りて、街に着くと言うところだった。

早めに家を出たが、セイレンが指定した時間には少し遅れると思った。ノロノロとしか進まない車にはイライラする。

「面倒くさいわね。今すぐ皆、呪ってやろうかしら」

そうして排除出来たら、走りやすくていいのにと思った。

静かな車内にアタシの呟きはすぐに霧散する。そして前を見ながら『安良城らら』のことを思い出した。

国司さんの遊び相手。
若くてそこそこ可愛い顔をしていて、実にムカついたのを覚えている。

だからいつもより苛烈に脅して、金や犬を奪ってやった。あとは狗神の呪いで私達の前から、勝手に消えるだろうと思ったが。

「また現れるなんて。下品な女。思ったより悪運が強かったのかしら」

シートに背を預けて考える。
二日前。国司さんから『ららに訴えられる。弁護士が俺のところに来た!』と騒ぎ立ててアタシに連絡が来た。

話を聞くと、国司さんが喫茶店で一人ゆっくりとしているといきなり、安良城が乗り込んで来て訴える騒いだそうだ。

おまけに後から来た、林と名乗る男性の弁護士が一方的に水を掛けて。家に訴状が届くから待っていろと、やりとりがあり。二人はその場を去ったのだと言う。

「……普通、弁護士はそんなことをしない。依頼主と一緒に来るはず。もしくは電話対応。むしろ、国司さんの居場所を知っていて、喫茶店に乗り込むことが怪しいのよ……」

それはある程度。安良城と林という男が国司さんの動向を把握していたから、乗り込んで来たのだろう。
それも一目の付く。喫茶店と言うところを選んでいるのも気になった。
普通もっと静かな場所を選ぶ。だからこれはきっと脅し。本当の弁護士なんか雇ってない。

安良城が悪運で生き延びて、国司さんに嫌がらせをしたくてそう言う事を企てたのだろう。

「その林って男も、どうせ安良城が股を開いて、協力して貰った男でしょ」

はぁっと、ため息をつくと。
丁度、道路の混み具合が少し緩和され、するすると動き出してやっと高速を降りれた。
ずっと周囲が同じ風景が続き、飽きてきたところだった。

街の中に入ればホテルは目と鼻先にある。
車の時計を見ると17時を過ぎていた。
まぁ、少しぐらいセイレンを待たせてもいいだろう。問題ないと思った。それよりも問題あるのは、やはり安良城と言う女。

「全く、やな女。脅して金を取ったときも言われるがまま、金を差し出していた癖に。そのまま黙って大人しく死ねば良かったのよ」

迷惑極まりない女である。

一応。昨日は訴状が本当に届くかのか。
また狗神に何か異変が起きてはいないか。
その為に国司さんと、一日中家にいて様子を伺ってみたが。

訴状はやっぱり届かなかった。狗神にも特に何もなかった。これは嫌がらせだとそう思うべきだろう。
このような、まどろっこしいことをした安良城への疑問は残るが、これ以上は勘繰っても仕方ない。相手の出方を待つしかない。

そんな風に国司さんを宥めたが。まだ猜疑心を持っており。国司さんは今日も一日家にいると言うことだった。
アタシも一緒に居ようかと迷ったが、セイレンの存在が気になった。

セイレンが占い師と言うのならばこの状況をどう占うのか、ぜひ聞いてみたくなったのだ。

それに、狗神に異変は無かったがそろそろ贄を与えてもいいだろうと思い、犬を調達しようと思い、外出を選んだのだった。

「アタシはサクッと占って貰って、犬を適当に買って。スーパーで買い物がしたいのよ」

それは家でジリジリとしている国司さんに何か、美味しいものとか。好物を作ってあげたかったのだった。

国司さんは本当に訴状が届いたらどうしよう。あんなクソ女と遊ぶんじゃなかった。
俺にはやっぱり粧子だけだと、アタシにすがってきたのだ。
これに懲りて、女遊びは最後になるんじゃないかなと淡い期待を抱いていた。

ふっと、軽い笑みがこぼれたとき。
ぞくっと妙な寒気がアタシを襲った。

「えっ」

なんだろうと体をさする。

なんたが胸がドキドキして周囲を見ると、道は大通りに出てたところ。
景色は背の高いビルやコンビニ、ドラッグストア、パチンコ、飲食店がチラホラと並んでいた。
何も変わったことはない。

なのに違和感をゾクゾク感じる。
すると丁度。目の前の信号が赤になり。
車を止めた。

目の前に人が行き交う。

「やだ。風邪かしら……いえ、違うこれは……」

何か嫌な──予兆かと思った瞬間。

胸がズキリと痛み。
口から何かごぼりと溢れた。

突然の吐き気に襲われたと思い、慌てて口を抑えると。
手に付着したもの。それは真っ赤な鮮血だった。

「あっ……れ?」

言葉が出たらまた、喉の奥から血がごぼっと溢れて。咽せてしまった。

そして急に胸が痛んだ。
まるで刺されたよう!

痛い、痛いと叫びたくても口から、血が溢れて言葉に出来ない。

バタバタと座席で暴れる。
額に脂汗が浮かぶ。
道ゆく人たちが、ぎょっとしてこちらを見ているのがわかる。

なのに、この身に起きた出来事が全く分からず、ただ胸の痛みに耐えきれず、胸を掻きむしって暴れるしか出来ない。口からは血が溢れる。助けて。息が上手く出来ない。苦しい。助けて。

「な、なんで、どうして……っ!?」

なんとか声を出せたその瞬間。
ドスンっと胸に衝撃が襲ってきた。

「ぐっ、ぅあっ!」

痛みと衝撃で体が海老反りになり。シートベルトを目一杯、前に引っ張り、痛みで硬直する。

それはまるで。
アタシに恨みを持っている人間が、見えない刃物でアタシの心臓を刺したら、こうなんるんじゃないかと思えるようなもので──。

あまりの痛さに目を回した。
すると一気に視界が暗くなり。
意識も朦朧とする。
体から力抜けて、そのままハンドルへと倒れ込むと、プァーとクラクションが鳴り響いた。

耳にはわぁわぁと騒ぐ声。
それも遠くなり。

最後に思ったのは、国司さんの好物。

唐揚げを作ってあげたかった。
そんなことだった。
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