12 / 17
八滴目
私が気がつくとそこは広いベッドの上だった。
瞼を軽く擦るとさらりと心地よい、ブルーの薄手のルームウェアを身に付けていたのに気が付いた。
横たわったまんま、ゆるりと部屋を見渡す。
オフホワイトの壁に黒のシックな調度品。紺色の絨毯。それだけで高級ホテルだと思わせる重厚感が漂っていた。
見慣れない景色だったが、私は綺麗なホテルに居ることに間違いないだろうと思った。
そして清潔感と布団の暖かさに、戸惑いはあまりなく。このまま、また瞼を閉じてしまおうかと寝返りを打ったとき。
「咲帆。気が付いたか?」
と言う、納谷先輩の声がして意識が覚醒した。
「済まないが勝手にここに連れてきた。荷物も全部同じ運んでいる。そこの机に置いている」
私の顔を覗き込む納谷先輩の顔を見たら──。
一気に感情が爆発した。わぁぁと口から声が出た。
それは、またまたエッチなことをされたことから始まり。先輩が人気者過ぎて会えないから、その間何とか企画書を作ろうと頑張っていたこと。
なのに、なのに、会社であんな催眠を掛けるなんて! しかもめちゃくちゃ気持ちが良かったのが腹が立つ! このエッチ吸血鬼! ばかー!
などと言いながら、そばにあった枕やクッションをボフンボフンと納谷先輩にぶつけた。
しかし、納谷先輩は軽く片手で枕を受け流して。最後に言いたいことはそれだけかと、実に私の言い分もクールに受け止められたので、これはもう。
私と先輩には話す余地がない。先輩は気まぐれに私に触れだけなのかと、何もわかり合えないのかと思ってしまい、ポロポロと涙が溢れてしまった。
「うっ。ぐすっ。私は所詮、先輩にとってエサでしかないんですね……」
「さ、咲帆。ちょっと待ってくれ。何を泣いているんだ。泣かないでくれ」
慌てた様子で私に手を伸ばす先輩。
また涙を舐められるかのと思って、その手を払おうとしたら、ぐいっと抱き寄せられてしまった。
「や、やだっ。離してくださいっ」
ベッドが微かにきしむ音がした。
「頼むから、俺の話も聞いてくれっ」
珍しく声を上げた先輩にびっくりした。そっと顔を見上げるとあの紅い瞳が不安気に揺れていた。
いつもは自信満々なのに。
そんな先輩の瞳を見つめて「わかりました」と、小さく頷くと。
ほっとしたかのように先輩が大きく呼吸した。
そんな先輩の瞳を見つめて「わかりました」と、小さく頷くと。
ほっとしたかのように先輩が大きく呼吸した。
「まずは催眠を掛けて悪かった。自分でもやり過ぎたとは思っている。本当に済まなかった」
サイドボードにあったティッシュで、優しく私の涙を拭う先輩。
「……はい」
「今は体に異変はないか。あれから数時間経っているから何度もイッてるし、催眠は残ってはないと思うが」
気だるい感じはあったけど、これぐらいは許容範囲内。それよりもイッたとか言われてしまい、むず痒い気持ちになったけど「問題ないです」と言った。
「それは良かった。さて、まずは咲帆の状況はわかった。俺も咲帆に会いたかったがワークショップが、俺の意図と反して盛況さを見せたこと。俺自身も少し立て込んだ仕事があって、咲帆に接触出来なかった。それで──苛々した。しかも咲帆は俺の言葉を聞いてないようだったし」
確かにそう言われたら、先輩から言葉を貰った気がする。
でも、タイミングとか人の目が気になったしまったのだ。
それでも、私も言葉足らずだったと思った。
そこは申し訳無かったと素直に謝ると、先輩は再度俺も悪かったと謝りつつ。私の頭を優しく撫でてくれた。
私たちどうやら、気持ちの掛け違いみたいなことが起こっていたのだとようやくわかった。
だったら、どうしても聞いて見たくなったことを聞く。
「その、何で私に会えなかったら苛々したんですか? やっぱり血とか吸いたいとか思ったから催眠を掛けた……とかですか?」
「……血が理由じゃない」
「じゃあ?」
「──いつも子猫がじゃれてくるように、まとわりついていたのが、急にいなくなったら俺だって寂しく感じる」
やっぱり。
これはひょっとして。
まさかと先輩の顔をぐいっと、今度は私から覗き込むと先輩はバツが悪そうにそっぽを向いた。
それでも私を抱き締める手は離す気配はなかった。
「しかもその子猫は、他の奴らと食事には行く。俺が居なくても平気そうにしている。他の男にちょっかい掛けられていたら──吸血鬼の俺だって思うところはあるっ」
「それって、私にヤキモチを焼いてくれていたと言うことですかっ!?」
「!」
わかりやすい反応に意を決して言ってみる。
「まさか。私のことを好きだとかっ」
『バカなことを言うな。違う』
照れながらそんな言葉が返って来たらいいなとか、思ったら。先ほどより深いため息を吐いて。
真剣な迷いがない眼差しで見つめられ。髪を撫でられた。
「そうだ。認める。俺は咲帆が好きだ」
「──!」
瞼を軽く擦るとさらりと心地よい、ブルーの薄手のルームウェアを身に付けていたのに気が付いた。
横たわったまんま、ゆるりと部屋を見渡す。
オフホワイトの壁に黒のシックな調度品。紺色の絨毯。それだけで高級ホテルだと思わせる重厚感が漂っていた。
見慣れない景色だったが、私は綺麗なホテルに居ることに間違いないだろうと思った。
そして清潔感と布団の暖かさに、戸惑いはあまりなく。このまま、また瞼を閉じてしまおうかと寝返りを打ったとき。
「咲帆。気が付いたか?」
と言う、納谷先輩の声がして意識が覚醒した。
「済まないが勝手にここに連れてきた。荷物も全部同じ運んでいる。そこの机に置いている」
私の顔を覗き込む納谷先輩の顔を見たら──。
一気に感情が爆発した。わぁぁと口から声が出た。
それは、またまたエッチなことをされたことから始まり。先輩が人気者過ぎて会えないから、その間何とか企画書を作ろうと頑張っていたこと。
なのに、なのに、会社であんな催眠を掛けるなんて! しかもめちゃくちゃ気持ちが良かったのが腹が立つ! このエッチ吸血鬼! ばかー!
などと言いながら、そばにあった枕やクッションをボフンボフンと納谷先輩にぶつけた。
しかし、納谷先輩は軽く片手で枕を受け流して。最後に言いたいことはそれだけかと、実に私の言い分もクールに受け止められたので、これはもう。
私と先輩には話す余地がない。先輩は気まぐれに私に触れだけなのかと、何もわかり合えないのかと思ってしまい、ポロポロと涙が溢れてしまった。
「うっ。ぐすっ。私は所詮、先輩にとってエサでしかないんですね……」
「さ、咲帆。ちょっと待ってくれ。何を泣いているんだ。泣かないでくれ」
慌てた様子で私に手を伸ばす先輩。
また涙を舐められるかのと思って、その手を払おうとしたら、ぐいっと抱き寄せられてしまった。
「や、やだっ。離してくださいっ」
ベッドが微かにきしむ音がした。
「頼むから、俺の話も聞いてくれっ」
珍しく声を上げた先輩にびっくりした。そっと顔を見上げるとあの紅い瞳が不安気に揺れていた。
いつもは自信満々なのに。
そんな先輩の瞳を見つめて「わかりました」と、小さく頷くと。
ほっとしたかのように先輩が大きく呼吸した。
そんな先輩の瞳を見つめて「わかりました」と、小さく頷くと。
ほっとしたかのように先輩が大きく呼吸した。
「まずは催眠を掛けて悪かった。自分でもやり過ぎたとは思っている。本当に済まなかった」
サイドボードにあったティッシュで、優しく私の涙を拭う先輩。
「……はい」
「今は体に異変はないか。あれから数時間経っているから何度もイッてるし、催眠は残ってはないと思うが」
気だるい感じはあったけど、これぐらいは許容範囲内。それよりもイッたとか言われてしまい、むず痒い気持ちになったけど「問題ないです」と言った。
「それは良かった。さて、まずは咲帆の状況はわかった。俺も咲帆に会いたかったがワークショップが、俺の意図と反して盛況さを見せたこと。俺自身も少し立て込んだ仕事があって、咲帆に接触出来なかった。それで──苛々した。しかも咲帆は俺の言葉を聞いてないようだったし」
確かにそう言われたら、先輩から言葉を貰った気がする。
でも、タイミングとか人の目が気になったしまったのだ。
それでも、私も言葉足らずだったと思った。
そこは申し訳無かったと素直に謝ると、先輩は再度俺も悪かったと謝りつつ。私の頭を優しく撫でてくれた。
私たちどうやら、気持ちの掛け違いみたいなことが起こっていたのだとようやくわかった。
だったら、どうしても聞いて見たくなったことを聞く。
「その、何で私に会えなかったら苛々したんですか? やっぱり血とか吸いたいとか思ったから催眠を掛けた……とかですか?」
「……血が理由じゃない」
「じゃあ?」
「──いつも子猫がじゃれてくるように、まとわりついていたのが、急にいなくなったら俺だって寂しく感じる」
やっぱり。
これはひょっとして。
まさかと先輩の顔をぐいっと、今度は私から覗き込むと先輩はバツが悪そうにそっぽを向いた。
それでも私を抱き締める手は離す気配はなかった。
「しかもその子猫は、他の奴らと食事には行く。俺が居なくても平気そうにしている。他の男にちょっかい掛けられていたら──吸血鬼の俺だって思うところはあるっ」
「それって、私にヤキモチを焼いてくれていたと言うことですかっ!?」
「!」
わかりやすい反応に意を決して言ってみる。
「まさか。私のことを好きだとかっ」
『バカなことを言うな。違う』
照れながらそんな言葉が返って来たらいいなとか、思ったら。先ほどより深いため息を吐いて。
真剣な迷いがない眼差しで見つめられ。髪を撫でられた。
「そうだ。認める。俺は咲帆が好きだ」
「──!」
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。