訳アリ部長は新人社員を食べ尽くしたい

猫とろ

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エンディング

深い眠りから覚める前。

静かな声が夢うつつに響いた。
それは罪を告白するように密やかさ。
その人は温かな手で、私の髪を撫でながら言葉を発した。

──聞いて欲しい。
咲帆の未来は希望に満ち足りている。俺が居なくても、アイツのように人生を切り開くだろう。
だから記憶を消すべきだと理解している。
俺は一晩中、咲帆を抱き尽くし。血を味わった。
愛し合った……それで満足すべきなのに。
咲帆が他の男に抱かれるなんて、耐えられないと思った。気が狂ってしまいそうだ。

しかし吸血鬼とヒトの絆は苦痛を伴う。
アイツを失い。いつしかヒトと触れ合うのが臆病になった俺だからこそ、その痛みを深く知っている。
しかしアイツの残した者達が、今も俺に居場所をくれる。
失う痛みも咲帆と分かち合えば。
その全てこそが、愛に変わるはずだと思いたい。

咲帆、俺のギブアンドテイクを受け入れてくれるか──。

その声。
その赤い瞳。
これは冬斗さんなの?
ずっと一人で孤独だった?
でも、今は私がいるからそんなに悲しい顔をしないで。

そう思った瞬間ぱちっと瞼があいた。
起きると私の見慣れた部屋。
目を擦ると私の着慣れたパジャマの袖が揺れた。
ベッド横の時計を見れば、お昼を回っていた。

「うん、よく寝た」

ふぁっと欠伸をしながら、ぐっと背伸びをする。
あれ、いま。直前までなにか夢を見ていたような、気がしたけど忘れてしまった。

なんだったんだろうと、首を捻ると低いのに張りのある良い声がした。

「おはよう。咲帆」

「はい、おはようございます」

朝の挨拶を交わすと夢のことは瞬時に忘れ。
ばっと声をした方向を見ると──シャツ姿の冬斗さんがいた。ベッド横に立ち、微笑んでいた。

あ。これは夢だと思った。
だって私、記憶が。
記憶が……。

「記憶がある? あれ。なんで。私、冬斗さんに記憶を消されるはずだったのではっ!?」

訳がわからなくて、目の前に立つ冬斗さんにそっと手を伸ばして触れると。
きゅっと逆に手を掴まれた。掴まれた手は温かく。夢なんかじゃないと思った。

「し、冬斗さん。これは夢じゃないですよね。私まだ記憶がちゃんとあります。それとも今から私の記憶を消すとかですか?」

冬斗さんは長いまつ毛を伏せて首を横に振った。

「済まない咲帆。実は……」

「実は?」

「記憶の消し方を忘れてしまった。だから咲帆の記憶はこのままだ」

「!」

私を見ずに明後日の方向を見る冬斗さん。
その姿にピンときた。

「嘘ですよね。そうやって明後日の方向見るとき、冬斗さん嘘ついていていませんか? 私、知っているんですよっ」

手を揺さぶるが冬斗さんは「長年、忘却術は使ってなくて。忘れた。そんなこともあるさ」と言いつつ。私と目を合わせてくれなかった。

「だったら、私は別に抱かれなくても良かったのではっ!? 昨日というか、今日の朝までたくさん抱かれたのにっ」

私の覚悟はなんだったのかと。
やっぱり冬斗さんはエッチだと、揺さぶっている手首をパシンと冬斗さんに掴まれた。

「咲帆。そんなに揺さぶられると、記憶の消し方を思い出してしまいそうだ。やめてくれないか」

「っ! そんな脅しありますか!?」

「分かった。俺が記憶を消せなかった罪滅ぼしに、ギブアンドテイクをしていい」

「私がギブアンドテイク?」

「そうだ。さぁ、咲帆。咲帆は俺に体の隅々まで抱かれた。俺は全力で愛し抜いた。俺以上に咲帆を満足させる男はいないと思うが?」

その情熱的な言葉に顔が熱くなる。
瞬時に、昨日のセックスの内容を思いだして下を向いてしまう。

「そ、それは」

握られた手にぐっと力を入れられて、びくっとする。確かにあんなに愛し、愛されるセックスを違う男の人と出来るなんて想像も出来なかった。

「咲帆は俺の上でも下でも、あんなに淫らな痴態を晒して。このままでは──?」

「!!」

冬斗さんの台詞にはっとする。
その台詞はいつか私が言ったのも。

「咲帆。これが本当に最後のギブアンドテイクだ。吸血鬼の俺と。ヒトの咲帆。二人のこと。良く考えてくれ」

ふっと笑う冬斗さんに全て理解した。

多分、最初からこれを狙っていたんだろう。
私はあくまで人だ。
冬斗さんは吸血鬼。
一夜を共にして忘れるはずだった関係性。
しかし、冬斗さんの気持ちに何か変化が起こった。きっと私を愛してくれたからこそ、迷いが生じたと確信した。

でも自分で決めるには、冬斗さんはヒトじゃないから。
私のことを想ってくれてるから、
最後の最後。今。
私に決断を委ねたと思った。

深く深呼吸してから口を開く。

「冬斗さん。分かりました。私を抱いたのに記憶を消さなかったので……ギブアンドテイクをしていいですか?」

「もちろんだとも」

冬斗さんの表情は穏やかだった。

「あんなに抱かれたら、もう他の人のところにお嫁に行けません。だから責任取って──記憶を消すんじゃなくてっ。わ、私をお嫁さんにして下さいっ。それで全て許してあげる……!」

私の言葉に冬斗さんは微笑んだ。

「了承した。咲帆、俺の嫁になってくれ。このギブアンドテイクは未来永劫、撤回は無しだからな」

そう言った瞬間、冬斗さんは力強く私を抱きしめた。

「っ、な、なんで素直に最初から、そう言ってくれないんですか、バカー!」

抱きしめられた腕の温かさに、たまらず涙する。

「まさか、抱いてくれなんて言われると思わなかった。直前で気が変わるかもしれないと思った……俺は吸血鬼だから」

「そんなの関係ないって私、言いました」

ぐすっと涙声で訴える。

「分かってはいた。咲帆に嘘偽りはないと。でも抱いてくれと言われて咲帆が欲しくなって、たまらなかった。一度でも抱けば俺が満足して、スッキリと記憶を消すことが出来るかと……本当にそう思っていた。俺と番うより、ヒトはヒトと結ばれる方が幸せだから」

そんなことはないと首をふる。

「でも肌を重ねてしまって、愛しさが募ってしまうだけだった。咲帆、悪かった。この先、咲帆が生き続ける限り。記憶を消さなかった贖罪をし続けよう。だから俺の妻になってそばにいてくれ」

「──はい。ずっとそばにいます。私が先に死んでも、待ってて。私、また必ず会いに行くから」

「あぁ。ずっと待ってる」

涙がとめどなくあふれた。
きっと冬斗さんには冬斗さんなりの覚悟が必要だったのだろう。
それがギブアンドテイク。私達に相応しい愛の告白。

これから私と冬斗さん。どんな未来が待っているかわからない。それでもいい。分からないから未来はきっと楽しいのだろう。

例え、悲しいことがあっても大丈夫。
想いは通じ合っている。
だから絶対に大丈夫。
私、もっと仕事を頑張る。
もっと冬斗さんを愛したい。
これからもいろんなことを教えてね。

そうやって二人で素敵な時間をたくさん紡いでいきたいと、冬斗さんを強く抱きしめるのだった。

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