帝都・狐の嫁入り物語〜嫁いだ先は前世の私を殺した天敵〜

猫とろ

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目覚め〜ハナスオウ〜

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私は人と違うと思ったのは七歳のころ。
三歳年上の姉のまどかが、妖によって穢された一反の田んぼを浄化した。
浄化は稀少な能力。しかし、この雪華せっか家の女子にはよく発現する能力。
一族の皆が見守るなか、姉は舞を踊り。唄を歌い。みごとに浄化をやり遂げたのだ。

それはとても綺麗だった。
陽の光に神楽鈴が煌めき。
しゃんしゃんと清浄な音がする。姉の手が動くたびに神楽鈴ついた五色の帯が舞い、巫女服の白い千早と朱袴がくるりくるり、踊る。
唄は祝詞のように神聖な響きを孕んでいた。

あぁ。
私も昔、こんなふうに歌い、踊っていた。
ふいに知らない記憶がパチンと弾けた。
そんな不思議な感覚に包まれるなか。

大人達は姉がこんなにも上手に浄化が出来るなんて、素晴らしいと大変喜んでいた。
まるで日本国に存在した最強の陰陽師・阿倍野あべの晴命せいめいのようだと持て囃していた。

私は姉が褒められて嬉しい反面、そんなことをするよりも穢れそのものを一気にポンと。
炎一つで村にまだ、隠れている妖ごと焼き払う方が簡単だと思った。

それはまだ夢見心地が尾を引くなか、夢の残滓に導かれるように『私にも出来る』と思ったのだ。

だから指先に一つ。
金色の炎を出して目の前にある田畑の作物や土。その横に並ぶ家々。屋根の付いた井戸。馬小屋、鶏舎。そしてそこに潜む餓鬼達。
それらを一瞬で金色の炎に包んだ。
熱風が私の頬を撫で、炎がきらきらしていて綺麗だった。

そのきらきらに混じって、私を悲しげに見つめる紫紺の綺麗な瞳を思い出した。
しかし、ごうっと旋風を巻き起こして、熱を孕んだ暖かい風が収まったときには、紫紺の瞳のことは瞬きのうちに忘れてしまい。

餓鬼達と穢れだけが焼き払われていた。
村がまる焦げになったなんてことはなく、我ながら上手くいったと思った。
   
私は『たまきも凄いね。立派な神子になれるね』と姉と両親が褒めてくれて、皆が喜んでくれると思ったら「雪華家から忌み子が出た」と騒ぎ始めた。

挙句、皆は私を見て化け物だと言った。
いつもは優しい姉ですら、私を見て顔を引き攣らせていた。

何が起きているか分からないと思っていると、その姿を見ろと、足元に手鏡を投げ付けられたのだ。

その鏡を覗き込むと不思議なことが起きていた。
雪華家の特徴。
私にも備わっていた新雪のような銀色の髪と、深雪のような青鈍の瞳は全て金色に染まっていた。
私自身、体の変化はとても驚いた。けれども。
頭上に輝く、お日様の色が私に移ったと思った。わくわくした。
けれども皆はそうは思わなかったようで、そのあとすぐに私は訳も分からず。両親に蔵の中に放り込まれた。

悲しかった。怖かった。姉は助けてくれなかった。

蔵に放り込まれる直前、私を見て母は冷たい声で『穢らわしい』──と言った。

その言葉が何よりも胸に響いた。
私はそのときに両親と姉に見放されたのだ。
 二度と力を使うなと言われた。
髪も瞳の色も絶対に、表に出すなと黒い頭巾を渡された。
その後散々、浄化ではなく。
焼き払うなどと恐ろしい考えが出来たのだと責められ、なじられ。私にもどう説明していいか分からず。泣いてしまうと蔵が閉じられた。

その瞬間は今でも覚えている。
このまま一生この暗闇で過ごすのかと思った。

錠がガコンと落ち、出してと分厚い扉に向かって泣き叫び。それでも開かない扉に絶望した。
私の心も暗闇に包まれたとき。
以前もこんなふうに、暗闇に包まれたことがあると言うことをふと思い出した。

大勢に追われ、誰も助けて貰えなくて悲しくて世界の全てを恨んだことを──突如として思い出したのだ。

私は金色の炎を操り、神通力とも言える強大な力を思うままにふるい。帝をも誑かし。
日本国を滅ぼそうとして、稀代の陰陽師。紫紺の瞳を持つ阿倍野あべの晴命せいめいに倒された。

この日本国にかつて君臨した妖の女王。

白面金毛九尾はくめんこんもうきゅうびの狐』の生まれ変わりだったと──。
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