帝都・狐の嫁入り物語〜嫁いだ先は前世の私を殺した天敵〜

猫とろ

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すれ違い

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「だから俺は変わらない日々を守りたいその一心で強くなった。何もしないで死ぬより、まずは足掻いてからと思って──やっとを使いこなせるようになった」

鞘を撫で上げた手をぐっと握ると、環が「うぅん
」と寝返りを打った。そして色付いた唇が小さく動いた。

「……か、きつばたさま……」

「!」

名を環に呼ばれてドキッとした。今の独白を聞かれたのかなと思いきや。
環がまた、もそりと動いた。

「しっぽを抜かないで、耳をひっぱらないで……っ。私、いい狐です。ご、ごめんなさぁい……きゅぅ」

「狐? きゅう? あぁ、寝言か」

環は自分が狐になっている夢でも見ているのだろう。可愛いものだ。その夢の中で俺が──。

「って。なんで、そのように俺がいじめっ子の役割なんだ。おい、環」

似た境遇もあり、むしろ守ってやりたいと思っているのに。
思わず布団に近寄り、環の顔を覗き込むと、起きているのではと思うほどに眉間に皺を寄せていた。

「杜若、様。あ、油で上げないで。熱いのはいやです」

うんうんと唸る環。

「誰が自分の嫁を油で揚げるかっ」

「こんがり狐色は、いや……っ」

環は嫌々をするように首まで振るので、思わず手を伸ばしたら、また寝返りを打った環にぱしっと手を払われた。
それは偶然だったのだろう。
環の瞼はしっかりと閉じられている。狸寝入りでこんな色気のかけらもない、寝言は言わないだろう。

──分かってはいるが。

煽られたような気持ちになった。
向こうに行けと言われたと、感じてしまった瞬間。

振り払われた俺の手は、ばさりと環が被っていた布団を剥いだ。そして環の布団の中に押し入った。
そのまま環を抱きしめる。

「環が悪い」

環の首筋に顔を埋めてみれば柔らかな肌と、微かに香る石鹸の香りに心地よさを覚えた。

そして手を、環の華奢な腰や背に回したところで環の様子を伺うが、以前として環は寝ている。
俺に気付きもしない。
眉根に皺を寄せたまま。ぅんと、小さく唸るだけ。

「そんな風に唸らなくてもいいだろうに。俺は別に環に怖いことはしない」

これも二週間ほど環から離れてしまったせいだろう。俺が悪かったのだろうと、そんな気持ちを飲み込みむと、瞼が少しずつ下に下がってきた。

抱きしめた体温と布団の柔らかさが、一気に睡魔を刺激したのだ。

「……喫茶店、必ず行くから……」

耳元で囁いたところで、環からの反応はないが眉根は柔らかく解けた、整った呼吸を繰り返し始めた。
それに同調するように俺の呼吸も深く、重なり始める。

これは深い眠りに落ちると思った刹那。
自分の知らない感情が胸に流れた。

それは『やっと抱きしめることが出来た』
『次は絶対に守る。今世こそは一緒に生きたい』という──狂おしいほどの情念。

俺の知らない俺の想いに驚いて、瞼を開けてしまいそうになったが、これも俺の一部なんだろうと認めると、その想いはするりと心に馴染んだ。

もう一人の俺が安堵するかのよう深く深呼吸すると、瞼は想いを受けとめたかのように重みを増した。

これは眠る前の、刹那の儚い夢なのだろう。

まさに夢見心地のまま。
刹那の夢は深く、穏やかな睡魔へと変わるのだった。
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