帝都・狐の嫁入り物語〜嫁いだ先は前世の私を殺した天敵〜

猫とろ

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再会

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「私は今、どんな理由であれ杜若家に嫁ぎ、そこで新たな生活をしております。ですがまだ把握出来てないこともあり、杜若様に縁がある方に私が挨拶をしなかったこと。あなた様にとって、不義理になってしまったのならば、申し訳ありませんでした」

黒い着物の人が苛立ちを隠すことなく、眉に深く皺を刻むと、次は姉が話した。

「そんな建前はいいのよ。ハッキリと言うわ。環。あなた、杜若様と離縁なさい」

「──りえん?」

「今日、私達がここに集まったのは本当に杜若様があなたとの結婚を、本当に決めたのか問いただすためです」

「!」

「誰にだって間違いはありますからね。今、彼女が仰ってくださったように、杜若様は気の迷いであなたみたいな派手で、いわく付きの娘に興味を持っただけ。どうせすぐに飽きられる」

うふふと、姉はまた雪女みたいに冷たく微笑んだ。
そばにあった黄色い薔薇へと手を伸ばして、意味ありげにぷつり、ぷつりと、花弁を散らし始めた。

「あなたは知らないでしょうけど、杜若様は遊びが上手な方。そして誰にも本気にならない。あなたは所詮遊び相手なの。それにあなたと杜若様とでは身分が違いすぎる。わかるでしょ?」

「私が……遊び相手」

ドクンと心臓が跳ねあがる。
この言葉を杜若様と出会ってすぐに聞いていたら、私はきっと信じていたと思う。
でも、車の中で聞いた葵様の言葉や、何よりも杜若様の言葉が私の乱れる心を強くしてくれて、信じる人はこの人達じゃないと奮い立たせてくれた。
深呼吸してから、ゆっくりと喋る。

「……円姉さん。今の言葉はどうしても信じられません。私は杜若様や杜若家の皆様にとても良くして貰っています。だから、私は杜若様を信じています」

ハッキリと言うと姉は不気味に、ますますにっこりと微笑んだ。
しかし、薔薇を弄ぶ手は微かに震えていた。

「環。信じたくない気持ちはわかるわ。でも、これはあなたの為でもあるのよ。杜若様が冷静になって、環から興味を無くす前に離縁した方が、環が傷付かなくて済む。だから今のうちに離縁なさい」

黄色い花びらが青い芝生に落ちて、姉が花びらをぐりっと踏み潰しながら、姉は鋭く言った。

「もう一度言うわ。離縁して家に戻って来なさい。お母様が心配しているわよ」

「!」

お母様が私を心配している? 本当に?
脳裏に畳の上で力なく倒れていた様子を思い出して、胸が痛くなった。

でも、私は……と迷いを見せると周囲の女性達がくすくす、うふふと笑い始めた。

「そうね。それがいいわ。そうしたら、私達があなたにお見舞金を送ってあげるから、問題ないわね」

「新しい殿方を紹介してさしあげますわ」

くすくす。
別れろ。
うふふ。
離縁しろ。

口々にそんなことを言われて頭が痛くなってくる。

なんでそんなことを言われなくてはいけないのか。それは私と杜若様の問題じゃないのか。なんだかとても悔しくて、こんな感情は初めてで、目頭が熱くなって涙が溢れてしまいそうになったとき──。

「環に杜若様は相応しくないのよ」

姉にそう言われた瞬間。
勝手に口から言葉が飛び出た。

「そんなことは知っていますっ。私は誰よりも、杜若様に相応しい人物じゃありません! でも、でも。私は杜若様と分かり合いたいんです。杜若様のことを、ちゃんと知りたいと思っていますっ」

「な、なによ。大声出さないでっ」

一歩、姉が下がるから私が一歩前に出る。

「それでダメだったら。頑張っても杜若様と心を通わすことが出来なくて、私が何も出来ることがなかったら、潔く身を引こうと思っています。だから、それまでは私は頑張りたいんです!」

姉を至近距離で見つめ返して、はっきりと言う。

「お母様には心配かけてしまってすみません。私はちゃんと自分で決めて雪華家を出たのです。そこに後悔はしていません。だから、雪華家には戻りませんっ」

「……!!」

姉と対峙するなんて何年ぶりなのだろうか。
そのことについ哀愁を感じてしまうが、姉は違ったようで私を睨むだけ。

「やめてっ。その瞳で見ないでちょうだい。ケダモノみたいで気持ち悪いのよっ!」

姉は掴んでいた黄薔薇をブチっと乱暴に手折り、私の顔にめがけてバシッと投げてきた。さらに言葉までぶつけられる。

「お前が十年前に変な力を使ったからっ。私はさらに努力をせざるを得なかった……! 私にどれだけ、期待がかかったか知らないくせにっ!」

また薔薇を投げつけられて、視界に黄色の花弁が舞い散る。
さらに姉の言葉も乱舞する。

「私が杜若様と結婚したら、地位のある男と結婚したらっ! 誰にも何も文句を言われなかったのに! お前が全部、私の人生をめちゃくちゃにしたのよっ」

鬼気迫る姉と投げられた薔薇に驚いて、思わず目を閉じてしまうと、体の重心がズレてしまい。その場に横へと倒れてしまった。ずしゃりと上半身を芝生の上に打ちつける。

「……っ、痛っ」

後ろで「環様!」という葵様の声を聞いたとき。
ぽたりと青い芝生の上に、赤い小さな花びらが落ちた。
それはまるで梅の花の花びら。この庭に梅でも咲いていたかなと思ったけど、それはよく見ると赤い血。

頬にぴりっとした痛みが走る。
ああそうか。黄薔薇の棘が頬に当たって頬から血が出た。
そして血が地面に落ちたんだと、妙に冷静になったとき。

ぐらりと体が揺れた。
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