51 / 74
危機
④
しおりを挟む
すると一度止まった体は鉛のように重く、体は酸素を求めてぜぇぜぇと荒い呼吸を繰り返してゴホッと咽せてしまった。
体が熱い。
嫌な汗が吹き出て、涙が出る。
「ゴホッ、はぁッ、も、もうダメなのかな」
鼻先に乾いた地面があり、埃っぽい。それでも喘ぐように呼吸を繰り返す。
その呼吸の合間に不快な音を聞いて、倒れたまま後ろを見るとゾッとする光景があった。
土蜘蛛達はわらわらと、我先にと広場に雪崩れ込んでいた。
無数の金色の瞳達は私を捉えながら、忌まわしい脚を力強く動かして確実に私へと迫っている。
迫る赤黒い群れはぞわぞわ、ギチギチ、ガサガサと不快な音が大きくなって、恐怖が増すばかり。
まるで私が蜘蛛の糸に掛かった、獲物のようだと思った。
「炎、ここで私の炎を使ったら……!」
咄嗟に土汚れが付いた手を前に出してみるが、手前に居た子供の大きさの土蜘蛛がギギィッと、金属を擦り合わせるような音を立てた。
「!」
その音に怯んでしまい、手を胸元へと引き寄せてしまう。
「っ、怖い。意識が集中出来ない」
術をちゃんと使う最低条件は、意識集中して力を術ること。
でなければ力は暴走する。暴走とは体内で力が暴発してしまうこと。
それを知った今、この状況下では私にちゃんと力を使えるのは無理だと思った。
力を使えたとしても土蜘蛛の群れは蠢き続けて、私を囲もうとジリジリとその距離を詰めている。目の前の一匹を運良く炎で焼いても、残りの土蜘蛛達を一掃出来るなんて思えなかった。
「はぁっ、はあっ、凄いなぁ……杜若様達はこんな怖いものと、いつも戦っているんだ……」
場違いな感想で現実が変わる訳でもない。
土蜘蛛の群れが私と距離を詰める音は、枯葉の川の中にいるようで、ガサガサザラザラした音が不安を増幅させる。
土の生臭い匂いも感じて気持ち悪い。
また走り出すにも、足は疲労で震えてまだ動けない。いつの間にか草履が脱げて足袋が汚れていた。
それを見て自分の運命を悟ってしまった。
そっか。私ここで終わりなんだ。
今から土蜘蛛達に食べられる。
──杜若様においなりさん、渡せなかったな。
もっと、ちゃんと喋ってみたかった。
これから、いろんなことをしてみたかった。
そんな思いが頭をよぎった。
すると先程、鳴いた大きな土蜘蛛がガサゴソと私に近づいて来た。
土蜘蛛が大きくて鋭い節足を、前に伸ばせば私に届く距離。至近距離で大きく脚を振りかざすのを見てしまい──。
「殺されるっ」
思わず体を小さくして、強く目を瞑ると。
『チ、がう』と言う音を聞いた。
さらに──『征こゥ。一緒ニ』と、聞こえた。
体が熱い。
嫌な汗が吹き出て、涙が出る。
「ゴホッ、はぁッ、も、もうダメなのかな」
鼻先に乾いた地面があり、埃っぽい。それでも喘ぐように呼吸を繰り返す。
その呼吸の合間に不快な音を聞いて、倒れたまま後ろを見るとゾッとする光景があった。
土蜘蛛達はわらわらと、我先にと広場に雪崩れ込んでいた。
無数の金色の瞳達は私を捉えながら、忌まわしい脚を力強く動かして確実に私へと迫っている。
迫る赤黒い群れはぞわぞわ、ギチギチ、ガサガサと不快な音が大きくなって、恐怖が増すばかり。
まるで私が蜘蛛の糸に掛かった、獲物のようだと思った。
「炎、ここで私の炎を使ったら……!」
咄嗟に土汚れが付いた手を前に出してみるが、手前に居た子供の大きさの土蜘蛛がギギィッと、金属を擦り合わせるような音を立てた。
「!」
その音に怯んでしまい、手を胸元へと引き寄せてしまう。
「っ、怖い。意識が集中出来ない」
術をちゃんと使う最低条件は、意識集中して力を術ること。
でなければ力は暴走する。暴走とは体内で力が暴発してしまうこと。
それを知った今、この状況下では私にちゃんと力を使えるのは無理だと思った。
力を使えたとしても土蜘蛛の群れは蠢き続けて、私を囲もうとジリジリとその距離を詰めている。目の前の一匹を運良く炎で焼いても、残りの土蜘蛛達を一掃出来るなんて思えなかった。
「はぁっ、はあっ、凄いなぁ……杜若様達はこんな怖いものと、いつも戦っているんだ……」
場違いな感想で現実が変わる訳でもない。
土蜘蛛の群れが私と距離を詰める音は、枯葉の川の中にいるようで、ガサガサザラザラした音が不安を増幅させる。
土の生臭い匂いも感じて気持ち悪い。
また走り出すにも、足は疲労で震えてまだ動けない。いつの間にか草履が脱げて足袋が汚れていた。
それを見て自分の運命を悟ってしまった。
そっか。私ここで終わりなんだ。
今から土蜘蛛達に食べられる。
──杜若様においなりさん、渡せなかったな。
もっと、ちゃんと喋ってみたかった。
これから、いろんなことをしてみたかった。
そんな思いが頭をよぎった。
すると先程、鳴いた大きな土蜘蛛がガサゴソと私に近づいて来た。
土蜘蛛が大きくて鋭い節足を、前に伸ばせば私に届く距離。至近距離で大きく脚を振りかざすのを見てしまい──。
「殺されるっ」
思わず体を小さくして、強く目を瞑ると。
『チ、がう』と言う音を聞いた。
さらに──『征こゥ。一緒ニ』と、聞こえた。
28
あなたにおすすめの小説
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ
O.T.I
ファンタジー
かつて王国騎士団にその人ありと言われた剣聖ジスタルは、とある事件をきっかけに引退して辺境の地に引き籠もってしまった。
それから時が過ぎ……彼の娘エステルは、かつての剣聖ジスタルをも超える剣の腕を持つ美少女だと、辺境の村々で噂になっていた。
ある時、その噂を聞きつけた辺境伯領主に呼び出されたエステル。
彼女の実力を目の当たりにした領主は、彼女に王国の騎士にならないか?と誘いかける。
剣術一筋だった彼女は、まだ見ぬ強者との出会いを夢見てそれを了承するのだった。
そして彼女は王都に向かい、騎士となるための試験を受けるはずだったのだが……
傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~
キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。
両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。
ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。
全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。
エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。
ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。
こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
高塚くんの愛はとっても重いらしい
橋本彩里(Ayari)
恋愛
時期外れ、しかも偏差値の高い有名校からなぜかわざわざやってきた話題の転校生。
「どこに隠れていたの?」
そんな彼に、突然探していたと莉乃は背後から抱きしめられ、強引に連れて行かれる。
その日から莉乃は高塚くんに振り回される毎日。
この関係は何?
悩みながらもまるで大事な恋人のように莉乃を扱う彼に絆されかけていた、あの言葉を聞くまでは……。
高塚くんの重愛と狂愛。
すれ違いラブ。
見目がいいだけの男ではないのでご注意ください。
表紙イラストは友人のkouma.作です。
【完結】ここって天国?いいえBLの世界に転生しました
三園 七詩
恋愛
麻衣子はBL大好きの腐りかけのオタク、ある日道路を渡っていた綺麗な猫が車に引かれそうになっているのを助けるために命を落とした。
助けたその猫はなんと神様で麻衣子を望む異世界へと転生してくれると言う…チートでも溺愛でも悪役令嬢でも望むままに…しかし麻衣子にはどれもピンと来ない…どうせならBLの世界でじっくりと生でそれを拝みたい…
神様はそんな麻衣子の願いを叶えてBLの世界へと転生させてくれた!
しかもその世界は生前、麻衣子が買ったばかりのゲームの世界にそっくりだった!
攻略対象の兄と弟を持ち、王子の婚約者のマリーとして生まれ変わった。
ゲームの世界なら王子と兄、弟やヒロイン(男)がイチャイチャするはずなのになんかおかしい…
知らず知らずのうちに攻略対象達を虜にしていくマリーだがこの世界はBLと疑わないマリーはそんな思いは露知らず…
注)BLとありますが、BL展開はほぼありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる