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夢に向けた一歩
しおりを挟むこの前の山狩りから半年以上が過ぎたある日。
「ケイブ!あそこに生い茂っていた竹は、一通り切り倒したよ」
「ああ、ヴィーライ。ありがとう。いったん休憩しようか」
「うん!」
近くの小川で水を汲み、煮沸させながら休憩する二人の子供がいた。
日はすでに高く、汗ばんだ体に清涼が心地よい。
ここの竹藪は、とくに誰かが資源として管理しているわけでは無く、
いくら採っても、誰からも苦情は来ない。
むしろ、最近は竹の繁殖の勢いがすごく、こうして伐採すれば喜ばれるほどだ。
それに、村の居住区からも比較的近く、子供の遊び場にもなりやすい。
こうして、子供が伐採しても、だれも疑問には思わないだろう。
「ふ~!いざやってみると、なかなか大変な作業だね!」
「ああ、ヴィーライがいてくれて助かったよ。」
「お安い御用だよ!」
「はい、これ。いも飴ね」
「ありがとう!」
子供にしては大きい手で飴を受け取り、美味しそうに舐めるヴィーライ。
このブラジュ領では、芋から糖質を抽出して飴にしている。
わざわざ、これを作るのは当然手間ではあるが、ごく普通に取れる芋から誰でも作れるため、季節になると良く出回る。
自然のものなので、おいしいのは間違いないが、ケイブにとっては、少し「素朴」すぎて物足りない。
とはいっても、甘味というのはとても貴重だ。
いつにもましてニコニコ顔のヴィーライと一緒に飴を舐める。
「それにしても、こんなに竹を集めてどうするの?」
「ん?どうしたの?急に」
「いや、芋飴くれるっていうから、何も聞かずに手伝いに来たけど、これだけの量を集めてどうするのかな?って」
「ふふ、ヴィーライらしいね。
この竹はね、ブラジュをより強く、賢くするために使うんだよ」
「え!それはすごい!
それならそうと、早くいってよ!僕、もっと強くなるの?」
「そうだよ。いずれ、もっと強くなれるよ。」
「やった!」
すでに、ここブラジュ領に生まれてから9年の年月が経て、だいぶ色々なものに慣れてきたケイブ。
ここまで多くのブラジュ人の伝統にドン引きしてきたが、それでも適応し、主に体を鍛えてきた。
今では、いっぱしの戦力として、山狩りに参加したり、害獣駆除ができるほどである。
そうして、心理的にも体力的にも余裕ができてきた以上、欲が出てくるというものだ。
「で、どうやって強くなるの?」
「賢くなるんだよ。賢さは強さに直結するからね」
「ふ~ん、勉強をするってこと?」
「そういうこと」
「な~んだ」
ーーーな~んだとは、なんだよ…。
ーーーとはいっても、今時点でこの反応は普通か。
ケイブがやりたいこと。それは、このブラジュに足りないものを補うことだ。
それが「学問」だ。
ブラジュ人は大抵、賢い。
特に体の使い方だったり、最適な剣の使い方などの研究には余念がない。
あるいは、頑丈な武器を作り出すための鍛冶における試行錯誤は日々行われており、「科学する心」があることを物語っている。
だが、ほとんどそれ以外のことについて、興味が無い。
何でも力の強さや物事の大きさ、多さで優劣をつけ、それで納得してしまうのだ。
ある意味、竹を割ったような気持ちよさ、素朴さがあるのだが、その反面、哲学的な対話や、繊細な心の機微を映すような文芸には無縁なのだ。
これが、ケイブにとっては不満であった。
ーーー哲学では無くてもいい。天体でも物理でもなんでもいい。とにかく、誰かと世の中のことについて、語り合いたい!
そのためには、まず何をすればよいか。
まずは、前世で学んだことの記憶が薄れていること、これを何とかしたかった。
みすみす、この世界では貴重かもしれない知識を、忘却の彼方へと追いやってしまうのは、なんとも「もったいない」と思っていた。
「語り合う知識」が浅ければ、語ることもできない。
ということで、忘れつつある知識を救うべく、取り急ぎ、覚えている限りの知識を書き留めておこうと思ったのだ。
そのために、紙として代用されている竹を取っている。
ケイブ自身、自然科学系はそこまで得意ではなかったが、基礎的なものでも、あると無いとじゃ雲泥の差だ。
また、この世界には建築技術がしっかりあるのだから、その人たちと協力して教育機関を立ててもよい。
また、経済や政治、東洋哲学や西洋哲学、組織論や軍事学、地政学なんかは、きっと役に立つだろう。
いつか、これらの学問をここブラジュ領でも奨励し、「大学」を作る。
いや、Universityと言った方が正確かもしれない
。
まあ、その微妙な違いなどあまり大差ない。
とにかく、まずは「軍事」に必要なこととして、組織論や地政学なんかを研究する組織から始めたいな。
この日、一人の少年の決意は、ブラジュ人の軍事力の向上にも貢献することになる。
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