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食料を増産する意義

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いつも通りの調練、いつも通りの畑仕事。
時折、害獣のゴブリンを首狩り。
淡々とした日々が続く。

そんな中、ブラジュ領の能吏であるスビンが、大きな体を窮屈そうに椅子に押し込めながら、竹簡とにらめっこをしている。
ここ、ブラジュ領は山に囲まれており竹が豊富にある。
生命力が高く、加工が容易な竹は、ブラジュ領においてなくてはならない資源だ。
竹は色々な用途に使われるが、主に、竹刀として使われており、武器を壊しやすいブラジュ人とは、とても相性が良い。
(最近、ケーヴァリンが、竹をたくさん採っている姿が目撃されているが、竹刀を大量に作っていると誰もが思っていた。)

しかし竹は、字を書きとめるにも都合がよく、紙と比べれば嵩張るものの、現代日本のように何でもかんでも書類にするほど、文章社会ではない。
竹簡で十分、事足りるのだ。

そうしてスビンは、竹簡から顔を上げ、奥の机で作業をしている領主に声をかける。

「お館様。」
「どうした?スビン」
「朗報です。去年、全領地の畑で御子息発案の農法に切り替え、さっそく今年成果が出そうでさあ。
多少の混乱も想定していましたが、技術移転がうまくいきやした。」
「それは重畳。ケビンも領内を飛び回っていたお陰かな。」
「へえ。これで誰もがご子息の発案であることが明白でしょう。」
「ふふん。まあ、そういうことだ」

農業というのは、自分たちが飢えるかどうかの命綱だ。
それを変えようというのであれば、「納得する材料」が必要だ。
そのために、区画を分けて成果が目に見えてわかるようにした。

(ってぇより、試した結果をわかりやすく比較するためでしょうが、それが功を奏したっつーわけだ。)

「それでも、全体として実りは、そこまで良かぁありやせん。」
「そうか、これで4年目か。最近は、どこも戦争をする余裕も無くなって久しいからな。」
「へえ。他人ところを襲うより、山狩りした方が早え。
それでも、去年大規模に山狩りした我らがちぃとばかし厳しい越冬だったんで、他はもっと悲惨ってとこでしょう。」
「そうか、食いあぶれた連中が多少こっちに来るくらいなら、どの村でも勝手に対処できるだろうけどな。」
「そういう食いあぶれた連中は、そもそも我らの領地には来やせん。死にてぇってんなら別ですが。」
「そうだな。他の領地でも山狩りが行われていると聞くが、どうだった?」
「やつら、ヴァルハの巨体による突進に対応に一苦労だとか。
巨大な牙に引き裂かれて死傷者が出ているみたいですぜ。
まあ、神力も無いんじゃブラジュでも厳しいってんだから、当然でしょうよ。
とはいえ、こういっちゃあなんですが、口減らしになるんで、どこの領地もやらざるを得ねえっつぅことだそうで。」
「そうか、そんなに食糧事情が悪いのか」

いくらなんでも、4年も不作が続くなど、異常だ。
天候が日照りだったり、夏でも寒すぎたりなど、理由はちょっとずつ違うが、こうも毎年実りが良くないと、さすがに「山狩り」だけでなく、豊かなところから奪おうとするかもしれない。
(そろそろ、我らの領民もゴブリンどもじゃあ満足できず、血沸き肉躍る戦争が恋しくなってきたころだろう。
今年はどこか攻めてみたいが、、、)

「で、我らと戦えそうな領地はどこかあるのか?」
「そう仰ると思って、探っておきやした。
が、残念ながらどこも食糧確保に大忙しで、我らとの戦争どころじゃないでしょう。
まあ、そりゃあ、攻め込めば応戦してくるでしょうが、そんなことしたら畑が荒らされることで餓死者が増え、しばらく立ち直れやせん。
長い目で見れば、ここは攻め込まないのが得策でございやす。」
「うーむ。つまらんな。。。
そうだ!
ここはあえて周辺勢力を食糧支援して、腹を満たしてもらい、機を見て攻め込むのはどうだろう?」
「いい案だと思いやすが、支援ができるまでの余裕が、我らにあるわけではありやせん。
ここは辛抱ですぜ。大将。」
「そうか…。となれば、もう少し食糧増産に力を入れんとな!」

長年の抗争により、ブラジュを襲おうというモノ好きがめっきり減ってしまったため、平和が続くブラジュ領だった。

「それと、お館様。そろそろご子息が『着剣の儀』をする頃じゃありやせんか?」
「そうか。ケイブもすでに9歳だったな。早いものだ。」
「へえ。この間も御子息をお見かけいたしやしたが、ずいぶん成長が早えもんでさあ。
ゴブリンとはいえ、早くも首をあげたとか。」
「ああ、頼もしいことだ。これでブラジュ家も安泰だろう。」
「へえ。」

着剣の儀。
これこそ、ブラジュ領の秘伝にして、ブラジュの伝統と切っても切り離せない重大な儀式である。
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