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黄昏
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夕暮れ。
大地にぬくもりと生命力を惜しみなく降り注いだ太陽が地平線に沈みかけ、一日の終わりを告げる時間だ。
しかし、その日の夕暮れは、一足先に夜を運んできたかのように、空が黒かった。
本来なら、空は赤く染まっていなければおかしい。
ただ、よく見ると、それは黒い生き物の群れであることがわかる。
カラスだ。
空一面にカラスが飛び交っているのだ。
狙う獲物は、地上に無数に転がっているご馳走。
かつて人だったものの残骸だ。
ここはブラジュ領西側の山間の谷。
戦場「だった」場所。
戦いを終えたばかりのこの地には、生きている人間もいた。
当然、戦闘の勝利者だ。
「ほう、ここがケイブが戦ったあたりの戦場か。」
「ああ、御大将。この様子じゃ、報告は間違いではなかったみたいですね。」
「そうだな。わが子ながら、大したもんだと思わんか?アギン。」
「ええ。これが初陣だってんだから、恐れ入る。」
―――末恐ろしい。
見渡す限りの敵兵の死体の山。
ここにはブラジュ人の死体が、ほとんど、いや一切無いのではないか?
いくら力が強く、傷の治りが早くて致命傷を負いずらいブラジュ人と言っても、5倍近い敵兵を相手に、こうも一方的な戦いはできない。
今回のブラジュ人の死傷者は50人ほどだが、そのほとんどが本隊の損害だ。
これも驚異的な損害の少なさだが、今回のケイブの戦いぶりと比べられては、霞むというものだ。
「いったい、どうやったらこんな真似ができるんでしょうかね?
報告によると、こいつらイネア軍は、横陣を敷いて待ち構えていたっていうじゃないですか。」
「ああ、それでこの戦果だ。俄かに信じられなかったから、こうして確かめに来たんだろう?アギン。」
「ええ、そうですよ、御大将。
別に嘘だとは思っちゃいませんでしたが、見間違いということもあり得る。
…いえ、あり得「ました」。」
「そうだな。見間違いじゃないのだから、疑惑は過去形になるな。」
これを成し遂げた、ケイブはここにいない。
敵軍を追い散らしてからというもの、やることがあるということで、伝令だけを寄越してきた。
とはいっても、日暮れまでには戻るらしい。
それくらいなら、独断専行の範囲には入らない。
だからこうして、ケイブの帰りを待ちつつ、耳を疑うような戦果を実際の目で確かめに来たのだ。
「まあ、いったんケイブの話は保留にしましょう。御大将、改めて現在のわが軍の状況を整理します。」
「ああ、始めてくれ。」
「敵は東側地域と西側地域から進行をしており、今、西に集結しつつある3000の敵兵を殲滅しました。
我らの被害兵力は50。しばらくは療養が必要のため、今回の戦役では復帰できません。
また、捕らえた敵兵を尋問したところ、タリン領2000人が、まだここに集結していなかったようで、数日中に到着するとのこと。」
「ということはだ、我々は東側5千の敵兵を相手にしなければならないが、まだ無傷の2000人がこの西部地域にも残っている。そういうことか。」
「はい。そういうことです。二千人は流石に捨て置けません。一気に殲滅してしまいましょう。」
「そうするしかないな。それで、捕えた敵兵はどうした?」
「残らず「首」にしました。」
「それでいい。」
「あと、領地に残してきたスビンが、食料とか諸々の物資をこっちに寄越してきました。まったく、タイミングはバッチリですね」
「ああ、あいつに兵站をやらせれば右に出る者はいない。」
そうして、報告を済ませてすぐ。
夕日を背にしながら、100人ほどの集団がこちらへ向かってくるのが見えた。
どの兵も手に大荷物を抱えており、中には荷車を引いているものも少なくない。
先頭には、周りと比べて身長の低い子供がいる。
―――やれやれ、息子には30人の隊を預けたはずなのに、いつのまにか大所帯になってやがる。
何があったかは知らないが、あの様子を見れば、隊を掌握しているのがよくわかる。
(さて、何から聞こうか?)
一つの大仕事をやり遂げ、いたずらっぽくにっこりと笑いかける息子を前に、自然と笑みがこぼれる父親であった。
大地にぬくもりと生命力を惜しみなく降り注いだ太陽が地平線に沈みかけ、一日の終わりを告げる時間だ。
しかし、その日の夕暮れは、一足先に夜を運んできたかのように、空が黒かった。
本来なら、空は赤く染まっていなければおかしい。
ただ、よく見ると、それは黒い生き物の群れであることがわかる。
カラスだ。
空一面にカラスが飛び交っているのだ。
狙う獲物は、地上に無数に転がっているご馳走。
かつて人だったものの残骸だ。
ここはブラジュ領西側の山間の谷。
戦場「だった」場所。
戦いを終えたばかりのこの地には、生きている人間もいた。
当然、戦闘の勝利者だ。
「ほう、ここがケイブが戦ったあたりの戦場か。」
「ああ、御大将。この様子じゃ、報告は間違いではなかったみたいですね。」
「そうだな。わが子ながら、大したもんだと思わんか?アギン。」
「ええ。これが初陣だってんだから、恐れ入る。」
―――末恐ろしい。
見渡す限りの敵兵の死体の山。
ここにはブラジュ人の死体が、ほとんど、いや一切無いのではないか?
いくら力が強く、傷の治りが早くて致命傷を負いずらいブラジュ人と言っても、5倍近い敵兵を相手に、こうも一方的な戦いはできない。
今回のブラジュ人の死傷者は50人ほどだが、そのほとんどが本隊の損害だ。
これも驚異的な損害の少なさだが、今回のケイブの戦いぶりと比べられては、霞むというものだ。
「いったい、どうやったらこんな真似ができるんでしょうかね?
報告によると、こいつらイネア軍は、横陣を敷いて待ち構えていたっていうじゃないですか。」
「ああ、それでこの戦果だ。俄かに信じられなかったから、こうして確かめに来たんだろう?アギン。」
「ええ、そうですよ、御大将。
別に嘘だとは思っちゃいませんでしたが、見間違いということもあり得る。
…いえ、あり得「ました」。」
「そうだな。見間違いじゃないのだから、疑惑は過去形になるな。」
これを成し遂げた、ケイブはここにいない。
敵軍を追い散らしてからというもの、やることがあるということで、伝令だけを寄越してきた。
とはいっても、日暮れまでには戻るらしい。
それくらいなら、独断専行の範囲には入らない。
だからこうして、ケイブの帰りを待ちつつ、耳を疑うような戦果を実際の目で確かめに来たのだ。
「まあ、いったんケイブの話は保留にしましょう。御大将、改めて現在のわが軍の状況を整理します。」
「ああ、始めてくれ。」
「敵は東側地域と西側地域から進行をしており、今、西に集結しつつある3000の敵兵を殲滅しました。
我らの被害兵力は50。しばらくは療養が必要のため、今回の戦役では復帰できません。
また、捕らえた敵兵を尋問したところ、タリン領2000人が、まだここに集結していなかったようで、数日中に到着するとのこと。」
「ということはだ、我々は東側5千の敵兵を相手にしなければならないが、まだ無傷の2000人がこの西部地域にも残っている。そういうことか。」
「はい。そういうことです。二千人は流石に捨て置けません。一気に殲滅してしまいましょう。」
「そうするしかないな。それで、捕えた敵兵はどうした?」
「残らず「首」にしました。」
「それでいい。」
「あと、領地に残してきたスビンが、食料とか諸々の物資をこっちに寄越してきました。まったく、タイミングはバッチリですね」
「ああ、あいつに兵站をやらせれば右に出る者はいない。」
そうして、報告を済ませてすぐ。
夕日を背にしながら、100人ほどの集団がこちらへ向かってくるのが見えた。
どの兵も手に大荷物を抱えており、中には荷車を引いているものも少なくない。
先頭には、周りと比べて身長の低い子供がいる。
―――やれやれ、息子には30人の隊を預けたはずなのに、いつのまにか大所帯になってやがる。
何があったかは知らないが、あの様子を見れば、隊を掌握しているのがよくわかる。
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