選ばれたのはケモナーでした

竹端景

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第一章 棒人間の神様とケモナー

見上げた空は遠かった

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 空が青い。
 所々に浮かんでいる雲を数えると、まぶたが重くなりそうだ。
 芝生は、ふかふかで、気持ちよく、夏が終わり、涼しく、秋の風を感じる。まさに昼寝日和だ。

 うん、体が重くて動かないのがなければ、最高だったな。

 視界は鮮明ではあるが、頭の中が重い。比喩ではなく、頭の中に質量を持った、何かがあるような感覚だ。
 そうだな。試験勉強?それか短時間に集中して無理やり勉強をしたあとのような疲労感だ。

 それは本当に、なんというか、申し訳ないが原因は自分にある。
 、急に意識が遠のいたかと思えば、情報が波となって押し寄せ、意識を失ったようだ。それでも、ほんの数秒もなく、意識は戻っているのは幸いなことだ。

 うっかり怪我もできない。
 この体はまだ子供…幼児なんだから。

 立ち上がろうかと、体を動かそうとするが、自分の意志では動かない。けれど、ワンクッションをはさんだかのような感覚のあとで、手が動いて目の前で動かせた。
 その違和感の原因を考える前に、遠くから、女性の叫び声が聞こえたと思ったら、抱きかかえられた。

「坊ちゃま!どうされたのですか!私がわかりますか!?」

 二十代に手が届くか届かないかぐらいの、女性らしさのありあまる体に抱きかかえられ、俺は、歓喜と疑問と、妙な納得に包まれた。
 この美女はよく知っている人だ。

「んー。大丈夫だよー!空を見上げてたら、転んじゃってびっくりしたのー!僕ってばさんだねー」

 おっちょこちょいな。口がまわらない。そうか、はおっちょこちょいか。

「そだよー」
「坊ちゃま?ああ!やはりどこか打たれたのですね!」
「んぇ?ちがうよー?」

 虚空にむけて返事をする俺に目を白黒させている。
 いや、俺と会話していることに驚いているのだろう。

 甲高い、それも幼い声をさせながら、その美女。本来、人間としては、いささか奇妙な、犬耳の女性を落ち着かせるように、笑いかける。

 犬耳。それも柴犬の耳。なぜ、断言できるかというと、知識の中と照らし合わせ、なおかつ、俺が、間違えようがない。そう俺なら断言できる。

 ケモ耳鑑定なら、任せていただこう。

「今すぐ、お屋敷に戻りましょう!ザクス先生をお呼びして…ああ!旦那様をお呼びしましょう!」

 ザクス先生っていうのは、うちの主治医で、それこそ産まれてから、いや、出産の現場からか。ずっとお世話になってるおじいさまな先生だ。残念ながら、彼はただの人だった。フクロウのお医者さんとかなら、胸が苦しくなるところだが。

「うん。うちには戻るけど、エセニアは心配しすぎだよー。僕、元気だよー。父様は、お仕事あるから、呼んじゃダメー」

 犬耳美女こと、エセニアは、落ち着くことを忘れてしまったのか、俺の言葉が聞こえてないのか、青白い顔で、俺を背負う。

「坊ちゃまに何かあったら、私は生きていけません!さあ、坊ちゃま、お屋敷に戻りますよ!」
「おー!エセニアは、力持ちさんだねー!大好きー!」

 きゃっきゃっとはしゃぐ俺の言葉に、走りながらも、多少落ち着いた顔で、エセニアは言葉を返す。

「私も、ケルン坊ちゃまが大好きですよ」

 ケルン。そう、それが俺の名前。ケルン・ディエル・フェスマルク。
 ただの子供ではない。
 魂にこれまで生きて刻まれた知識を持つ、四歳児だ。
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