選ばれたのはケモナーでした

竹端景

文字の大きさ
3 / 229
第一章 棒人間の神様とケモナー

見上げた空は遠かった

しおりを挟む
 空が青い。
 所々に浮かんでいる雲を数えると、まぶたが重くなりそうだ。
 芝生は、ふかふかで、気持ちよく、夏が終わり、涼しく、秋の風を感じる。まさに昼寝日和だ。

 うん、体が重くて動かないのがなければ、最高だったな。

 視界は鮮明ではあるが、頭の中が重い。比喩ではなく、頭の中に質量を持った、何かがあるような感覚だ。
 そうだな。試験勉強?それか短時間に集中して無理やり勉強をしたあとのような疲労感だ。

 それは本当に、なんというか、申し訳ないが原因は自分にある。
 、急に意識が遠のいたかと思えば、情報が波となって押し寄せ、意識を失ったようだ。それでも、ほんの数秒もなく、意識は戻っているのは幸いなことだ。

 うっかり怪我もできない。
 この体はまだ子供…幼児なんだから。

 立ち上がろうかと、体を動かそうとするが、自分の意志では動かない。けれど、ワンクッションをはさんだかのような感覚のあとで、手が動いて目の前で動かせた。
 その違和感の原因を考える前に、遠くから、女性の叫び声が聞こえたと思ったら、抱きかかえられた。

「坊ちゃま!どうされたのですか!私がわかりますか!?」

 二十代に手が届くか届かないかぐらいの、女性らしさのありあまる体に抱きかかえられ、俺は、歓喜と疑問と、妙な納得に包まれた。
 この美女はよく知っている人だ。

「んー。大丈夫だよー!空を見上げてたら、転んじゃってびっくりしたのー!僕ってばさんだねー」

 おっちょこちょいな。口がまわらない。そうか、はおっちょこちょいか。

「そだよー」
「坊ちゃま?ああ!やはりどこか打たれたのですね!」
「んぇ?ちがうよー?」

 虚空にむけて返事をする俺に目を白黒させている。
 いや、俺と会話していることに驚いているのだろう。

 甲高い、それも幼い声をさせながら、その美女。本来、人間としては、いささか奇妙な、犬耳の女性を落ち着かせるように、笑いかける。

 犬耳。それも柴犬の耳。なぜ、断言できるかというと、知識の中と照らし合わせ、なおかつ、俺が、間違えようがない。そう俺なら断言できる。

 ケモ耳鑑定なら、任せていただこう。

「今すぐ、お屋敷に戻りましょう!ザクス先生をお呼びして…ああ!旦那様をお呼びしましょう!」

 ザクス先生っていうのは、うちの主治医で、それこそ産まれてから、いや、出産の現場からか。ずっとお世話になってるおじいさまな先生だ。残念ながら、彼はただの人だった。フクロウのお医者さんとかなら、胸が苦しくなるところだが。

「うん。うちには戻るけど、エセニアは心配しすぎだよー。僕、元気だよー。父様は、お仕事あるから、呼んじゃダメー」

 犬耳美女こと、エセニアは、落ち着くことを忘れてしまったのか、俺の言葉が聞こえてないのか、青白い顔で、俺を背負う。

「坊ちゃまに何かあったら、私は生きていけません!さあ、坊ちゃま、お屋敷に戻りますよ!」
「おー!エセニアは、力持ちさんだねー!大好きー!」

 きゃっきゃっとはしゃぐ俺の言葉に、走りながらも、多少落ち着いた顔で、エセニアは言葉を返す。

「私も、ケルン坊ちゃまが大好きですよ」

 ケルン。そう、それが俺の名前。ケルン・ディエル・フェスマルク。
 ただの子供ではない。
 魂にこれまで生きて刻まれた知識を持つ、四歳児だ。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

【完結】長男は悪役で次男はヒーローで、私はへっぽこ姫だけど死亡フラグは折って頑張ります!

くま
ファンタジー
2022年4月書籍化いたしました! イラストレータはれんたさん。とても可愛いらしく仕上げて貰えて感謝感激です(*≧∀≦*) ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 池に溺れてしまったこの国のお姫様、エメラルド。 あれ?ここって前世で読んだ小説の世界!? 長男の王子は悪役!?次男の王子はヒーロー!? 二人共あの小説のキャラクターじゃん! そして私は……誰だ!!?え?すぐ死ぬキャラ!?何それ!兄様達はチート過ぎるくらい魔力が強いのに、私はなんてこった!! へっぽこじゃん!?! しかも家族仲、兄弟仲が……悪いよ!? 悪役だろうが、ヒーローだろうがみんな仲良くが一番!そして私はへっぽこでも生き抜いてみせる!! とあるへっぽこ姫が家族と仲良くなる作戦を頑張りつつ、みんなに溺愛されまくるお話です。 ※基本家族愛中心です。主人公も幼い年齢からスタートなので、恋愛編はまだ先かなと。 それでもよろしければエメラルド達の成長を温かく見守ってください! ※途中なんか残酷シーンあるあるかもなので、、、苦手でしたらごめんなさい ※不定期更新なります! 現在キャラクター達のイメージ図を描いてます。随時更新するようにします。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

町工場の専務が異世界に転生しました。辺境伯の嫡男として生きて行きます!

トリガー
ファンタジー
町工場の専務が女神の力で異世界に転生します。剣や魔法を使い成長していく異世界ファンタジー

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

処理中です...