選ばれたのはケモナーでした

竹端景

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第一章 棒人間の神様とケモナー

神様は…え?

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 真っ白かと思ったら真っ黒に。ぐるぐると、まるで、昼夜を繰り返す空間。

 上かと思えば下で、下かと思えば上。そもそも、上下がない。触れるべき大地も、見上げる天すらなく、ただぐるぐると、まわる。

 洗濯機の中とでもいえば、いいのか?しかし、洗濯機というほど、一定の速さはなく、ただ、ぐるぐると、まわされる。時折、何かが、流れていく感覚も感じるのだが、深く考える前に、霧散していく。
 いつまでも続くのか。そもそも、終わりがあるのか。

 だが、突然、停止した。

 ぽんっという音をたて、青空と海辺のような空間が広がる。いや、その空間に弾き出されたのかもしれない。
 水平線の先を見ようにも、絵画のような、照り返しのない、海としか表現できない場所。

 ふと、自分が立っている場所に、目をやると、砂と思わしきものが、キラキラと光っていた。星々のように、一定に輝いている。とても、綺麗だった。

 だが、足があるはずの砂地すら丸見えだったことで、そんなことはどうでもよくなる。

「え?なに、これ、どういうこと?砂?ってか、足がないって、幽霊?」

 自分の状況を確認しようと、手を見ようと、動かす。動かしている感覚はあれど、あるはずの手は、足と同様に存在していない。
 感覚はあるのだ。けれども存在しない。
 どうしたものかと、混乱していると、水平線の先から、もの凄い速度で光の塊が近づいてきた。

 呆然と、その光を見ていると、光の中に、何かが、いる。確認しようにも、光が強すぎて確認できない。それでも、何か、人だと思うが、いる。

「幽霊ではない。正確には、魂だ」

 光の中の何者かが、バリトンのいい声で、疑問に答えてくる。
 どうも魂の姿らしい。

「魂…おー!これが、魂!ん?誰ですか?」

 感動というか、聞いたことしかない状態に自分がなっている。それに、ふむふむと納得してると声が聞こえる。
 起伏がない調子で、機械的でこそないものの、どのような人間かはわからない。そもそも何者かもわからないが、不思議と警戒心はわかない。それよりも、魂という状況に、意識は集中しているのだ。

「うむ。記憶が浄化されてなお、自我とある程度の知識を残せているか」

 そう呟くようにいいつつ、光を弱める何者か。人間には違いない。そう、人間なのだ。

 見つめた先には、棒人間が腕組みをして、浮いていた。

「棒人間…?」
「否、我はボージィンである」

 即答で否定されてしまった。棒神?棒人間の神様なのかな?

「それも、否。我は円と線を統べる神である」

 あれ?声出してたっけ?

「そもそも、お前には、口はない。体もない。むろん、目もない。あるのは、魂だけである。考えること、全て、我にはわかっている」

 なんと!では、さっきまで考えていたことも、筒抜けだったのか。とりあえず、えっと。

「じゃあ、棒神さま、こんな、俺?私?僕?某?…こんがらがってきた」

 様々な情報が、ないと言われた口から飛び出そうになる。俺で、私で、僕で、某で。天気は晴れで、月が二つで。
 二本の指が生えてて、翼を広げて、そうそう隣の竜の鱗が綺麗で、いや、竜はいない。いや、竜はいる。あれ?何で矛盾が?

「ふむ、今までの転生で得た知識はちゃんと覚えているようだが、知識の統一がまだ上手くできておらぬか…そうだな…性別などないからな…一番最初に出てきた一人称にすればよかろう。『我が認める』」
 
 棒神様ぼうじんさまがそういうと、『俺』という認識が輝いたように感じた。
 押しつぶされそうな波の中で、棒神様の一言がきいたのか、情報の取捨選択…いや、もっと簡単なもので、全て受け入れることにした。

「はい、えっと…俺に神様が用事っていうのは、あれですか?次の世に出る順番がきたとかですか?」

 色んな情報。空想が現実で、現実が空想。そのような感覚が、またぐるぐるとしてきたが、『俺』が認識したことにより、先ほどのような混乱はなかった。

 俺が知る限り、魂は、生まれ変わる。神様の審判だとか、地獄の審判だとか。

「知識としては、そうなるであろうが、実際のところ、神が関与する生まれ直しなど、そうそうあるわけではない」

 え?じゃあ、魂って何だろう?

「疑問に持つか。そもそも、魂になると、何も残らん。根源として、何度も使い、様々なものに移り変わる。世界を越えてな。今のお前のように、ある世では現実であったが、次の世では絵空事になるのもしかり。竜がいる世もあれば、いない世もあるのだ。幾度もの転生の中で、魂の段階で、自我が生じれば、ある程度のものに、生まれ直しをするだけだ」

 ああ、考えが読まれるんだっけ。自我…性格とか、性質とかかな?

「その通りである。馬鹿は死んでも治らないという。全てのものは、性質が変わることはない。神とて、例外はない」

 なるほど。確かに。腕を…たぶん、腕になるんだろうな。組んで話をする棒神様。ふと、思ったことを尋ねる。読まれる前に伝えることをしなければ、いくらなんでも失礼だろう。

「そもそも、棒神様って、円と線の?統べる?神様?それってなんですか?」

 口を動かしたわけでもないが、言葉にすれば、自分の声音がおかしいことに気づく。先ほどは気にしなかったが、冷静になって考えると、老若男女が重なった声のようなのだ。

 棒神様は、気にせず、俺の問いに答える。

「元々、無があり、無より、円と線が産まれた。始まりの点とも呼ばれる。つまり、我は無の一子にして、全ての円と線の神である」
「円と線とは?」
「例えば、世の中の全てに、円と線、どちらかは使われている。また、生み出すもの全ても同じである」

 確かに、人の体や、物体には、円と線が使われいる。どのようなものでも、線があるし、星や卵は楕円、つまりは円だ。
 この世の基本の神様ってことは…つまり。

「すっごく、偉い神様ってことですか?」
「うむ。無の次になるが」

 丸の部分、頭部?が揺れる。うなづいたのだろうか。

「無って、凄いのですか?」

 無とは何もないことだ。その神様が一番偉いのか?

「無とは、名も持たず、ただ、無であった。どのような偶然か、その無から点が産まれた。その点をみた無は、自我を持ち、無であることを弱めようとした。不変である神が変わろうとしたのだ。奇跡すら生ぬるい幸運の結果、点は線になり、円となって、我となった。我はありとあらゆる円と線を作り、他の神々を作った。無によって、全ては認められ、そして許されたのだ」

 そんなに、凄いのだろうか?何もないからこそ無であるはずなのに、無にも自我が生じるのか。なんていう矛盾なんだろう。

「その矛盾こそが全ての始まりだ。仮に無が我を認めなければ、この世のありとあらゆる全ては産まれていなかった。そして、全ては無へと帰る。お前の記憶、いうなれば、知識と併用された感情は無へと帰った」

 記憶…どこの誰で、何をしていたのか。思い出せない。代わりに、絵の描き方、調理、薬剤の調合、洗濯、その他、細々したことは、すぐに思い出せた。誰に教わっただとか、いつ、誰にしてあげたのかは、まったく出てこない。その部分だけが、すっかりそぎ落とされている。

「どうして、俺をここへ?凄い神様が、呼ぶような知識とかもってませんよ!」

 正直、何もない場所に連れて来られて、状況もわからない。偉い神様の話を聞いても俺とは関係がないはずだ。

「そうだな…その前にいくつか、質問をする。嘘偽りは通じぬ…とはいえ、嘘偽りをするような感情もないだろうが」

 まぁ、考えてることは、読まれるし、嘘は、後ろめたいことがあればついてしまうのだろうが、とくにそんなこともない。後ろめたく思う記憶がないんだからな。

「性質は変わらぬ。つまりは、性格は変わらぬのも同義。ただ、感情は、環境によりかわる。性質と知識のみの、お前には、ただ、本質のみを答えるだけであろう」

 ちょっと難しいこと言われているけど、質問されたら、答えられそうな範囲なら答えよう。
 深く考えずに浮かんだ言葉を…あ、心理学?テスト?っていうものみたく即答していけばいいのか。

「それでいい。では、問う。争いは好きか?」
「嫌いです。競うことは大事ですが、争いはしたくないです」

 競うことと、争いは別物だ。何かを比べるのも、優劣を決めるのもわかる。競うことで、より良い物や、思考が生まれると思う。だが、争いは、否定だ。自分の意見も変わってしまうし、誰も得しない。何も残らないし、意味がない。

「そうか。ならば、問う。植物、人工物、どちらが多い方が良い?」
「どちらもほどほどに。多少、植物が多い方がいいですが、植物だけでは、他の生き物は生きれません。人工物も、多すぎては同じです」

 里山の知識からも、いえるだろう。人の手が入らない山はよい環境にはならない。漁礁も、また同じだ。ある程度の共存が、お互いに必要なのだ。

 その後もいくつか質問をされた。

「さらに問う。動物は好きか?」

 淡々と答えていたがその言葉に電流が走ったような衝撃がきた。
 なぜだろう。感情がないはずなのに、沸き立つ、この想いは?知識なんだろうか…?

「好きです。何でもこいです」
「爬虫類、魚類、虫などは?」
「爬虫類は爬虫類のよさ、魚は魚のよさ、虫は…かっこいいじゃないですか」

 虫が苦手という人もいるのはわかっている。俺としては、強要はしない。だが、生き物独特の曲線美というものが、多く感じれるのは、昆虫などだろう。もちろん、毒虫などは見た目は綺麗でも、触ってはいけない。むしろ、綺麗なものだからと、触れたり、閉じ込めるのはよくない。自然の中での優雅さを持っているからこそ、彼らは輝くのだ。

 先達せんだつはいう『触れず愛でよ』『ノータッチ&ピース』

「ふむ、では…動物の中で…猫は好きか?」
「犬も好きです、猫も好きてす、むしろ、差別よくないです。」

 猫のつんってしたとこも、犬の構ってアピールも、亀の考えてないようで一生懸命なとこも、鳥のちょっと照れ屋なとこも、語りだしたら、何日かいるんですけど。

 みんなまとめて。

『モッふるモッふる』

 棒神様と心でしっかり握手したような気持ちになった。同志、同神?との出会いは嬉しい。
 
 でも、ちょっと悲しいのは、なんでだろうか。涙がでそうだ。目玉ないけど。

「ふむ。合格だ。どのように転生をしても、魂に刻まれた、変わらぬケモナーとして、認めよう」

 神様の世界でもケモナーってごうが…いや、号があるんですね。

「いや、待ってください。ケモナー自覚は、残念ながらありますが、凄く残念な感じが」
「我、ボージィンは、この者を『真なる者と認める』」

 待ってって、言ったよね!何か凄い輝きが指先?いや、腕先?から放たれた。すぅっと俺の中に、いや、俺自身という魂に刻まれたような気がするんだけど。
 あと真性のケモナーって!否定できないけど!

「我と志をともにする者よ。これよりお前に、話さねばならないことがある」

 文句をいうよりも先に、棒神様は重々しく告げた。思わず、背筋をのばしてしまうような、真剣な声音だ。俺に背中があるのか謎だが。気持ちとしては、背筋をのばした。

「我はたった一つの星しか管理を認められておらぬ」

 凄く偉い神様なのに?

「強すぎる故、また全てを統一する中で、公平に。されど、一つのみは、関与をせぬかわりに、我が認めている」

 あ、考えたこと読んでますね…管理するってそんなに規約がいるんですか?

「うむ、その方が早いからな。しばらく読ませてもらう。話を続けるぞ?星を管理するもの、その星の中で細分化されて管理するもの。銀河、次元、世界。その全てに我は関与しておるが、管理者は別におる。管理者なきそういった場は、無になる。終焉ではない。無へとなる。また、管理する神々も、己の立場を守るためには、管理をせねばならん」

 えっと…全部に棒神様はいるけど、サブ的立場で、メインの管理する立場が星一つしかないってこと?

「そうだ。そうせねばならん。全てを管理すれば、立場をなくす神も現れるだろう。かといって我も管理せねば己を失う。我が我でなくなれば…全ては無へと戻るだろう。故に、一つの星を管理することになったのだ。そこには、獣と人と、獣の一部を持つ人、ドワーフ、エルフ、竜人。おおよそ、この全ての世界、次元、理。我が関与する要素を含ませた」

 そうか。棒神様は、円と線。この世全ての形あるもの。目に見えないけど、存在しているものの神様だから、棒神様が消えたら、みんな無になるのか。

 しかし、一部獣人か。どのレベルなんだろうか。耳はいるだろう?手とか、足とか?しかし、まさか、同神でありながら、最高の獣人を忘れているようだ。そもそも、そんな浅いので、俺が。

「ちなみに、全てが獣の者もおる」

 なに、その楽園。たぎる。

「そう、楽園だ。無論、争いもあるが、その星の中で、一つの種族も絶滅させられるようなことはなく、自浄作用が効いておった。栄枯盛衰。まさに、円として。以前はな…だが、愚かにも、世界の理を捻じ曲げ、その星にはいなかった者共を呼び寄せたモノがおった。皮肉にも、我が特に愛でていた者たちを使ってな」

 愛でていた…?嫌な予感しかしない。それに、呼び寄せたっていうのは?

「招来、召喚…禁術により、異形、異族。今では、魔物、魔族と呼ばれる者共を呼び寄せたのだ」

 棒神様ならなんとかなったのでは?という疑問も、即答された。

「仮に、我が魔に滅びを与えれば、全てが滅びるだろう。だが、魔だけを滅することはできぬ。魔の神も、魔とされるモノも。何より…魔とは誰の定めとしての魔であろう?魔でないと己で決めれるであろうか?人はそれほどに、己をみているのだろか?神のように不変であればよい。だが、魔が差したなどと嘯く輩はどうなる?等しく魔を滅ぼせば、魔を生み出した我を含め、全てが無へと還るだろう。魔もまた、我より生まれたモノ。また、魔を持たぬものは、世の中にいない。円と線の滅びとは、そのようなものだ」

 そうか。その世界からは異形でも、本来の世界では普通なモノたちだったのか。

「善も悪も、全ては、円と線により成り立つ。我はそれを否定せぬ。己を否定することは、己を無に帰すことよ」
「じゃあ、魔にも神様がいるんですよね?その神様なら、なんとかしてくれるのでは?」

 俺の思い付きででた言葉に、思いっきりため息を吐かれた。肺と口がなくても、深いため息は吐けるようだ。

「無論、魔の神もそう思ったのだろう。何しろ、我の管理する星に、自らの眷属が送られたのだからな。だが、奴は愚かにも、魔を統治するモノを作り、抑えようとした」

 えっと…まさか、やんちゃしている子がいるから、じゃあ、リーダー決めてまとめさせちゃおうとか。

「そうだ。魔王を作ったのだ。自らの力をほんの少々渡してな」

 それってつまり…強化しちゃったってこと?それじゃ、まとまるどころか、酷くなるんじゃないの?

「魔が収まるどころか、余計な力をつけおった」

 本末転倒というか、何でわからなかったの!ドジっ子じゃなくて、ドジっ神なの!どこ狙いなの!ニッチって知ってますか!お腹いっぱいだよ!今はお腹ないけど!

「魔の神の浅はかさにも、困ったものだが、あれも我が子。灸をすえてやった。この手でな」

 にぎりこぶし姿が勇ましいです。見た目棒人間ですが。

「しかし、彼の神のやり方は浅はかであれど、着眼点は、悪くなかった。故に、我は我と同様な者を待っていた。その者ならば、よかろうと。時間すら超え、待っていた」

 棒神様の話からすると…同じような思考、いや性質ではないといけない?

「そうだ。我の力の極々一部、大河の中の砂一つの力とはいえ、同じ性質のものでなければ、器は溢れて壊れる」

 じゃあ、似たような、そうだ!ケモナーの神様とかに、力を渡したり、その神様を作ればいいのでは?

「神は不変であるゆえに、我が力を受けることはできぬ。また、新たに生まれさせることは、できぬ」

 なんでなんだ?他の生物はほいほい作られてたり、力を渡されているのに?

「神の創造とは、無の許す限りでしか行えない。また、無に還ることが可能でなけらばならぬ。それを捻じ曲げれば、歪みでしかなく、様々な魂が、代償を支払うことになるだろう」

 神様を一柱作るだけで、そんなことになるのか。色々と制限があるんだろうな。

「我が管理をする星は、我の力が強く作用する。我が力とは、円と線。全てのスキルと、魔力をお前に与えることが可能だ。幾度も転生を経て得た知識を持ってな」

 えっと、つまり、俺が棒神様の代わりに、魔のモノを退治するなり、大人しくさせろと?

「そうだな、大人しくか…うむ、それもありだ」

 いや、争いとか嫌っていったし、何より、魔物系も、その…余裕でもふるのも、愛でるのもいけるんですが。友好的なのなら。

「そうであるな…面白い。ただし、選ばねばならぬ。どちらも使えるのであれば、それはもはや、人で非ず。少なくない未来において、魂は歪み、または、無にすら還ることなく、永遠に滅び続けるであろう」

 永遠に滅び続ける…怖すぎる。

「我が管理する星。モフーナには、スキルの多さ、魔力、いうなれば、使える魔法の多さが有能である証となる」

 モフーナ…全力でもふってそうな名前だな…そうか、管理してるのは、棒神様だものな。

「何事も全力だ。まぁ、いい。一つ、おおよそ全てのスキルを使えるが、魔力はあまり強くなく、使い方次第では、一人で全てをなしえる」

 勇者タイプってやつだな。でも、孤独な感じがするのは気のせいかな?大きな力か。でも、魔力は少ないと。

「もう一つは、スキルは取れても5つ程度、それ以上は、どのようにしても一つして、身に付かぬ。多いと思うか?モフーナでは、どのようなモノでも、最低でも、十以上のスキルを得ることが可能である。人に限らずな。魔力は無限ではないが、かなり強い」

 かなりスキルが少ないな。平均の半分程度しかないのか。魔法使いタイプといっても、モフーナの魔法使いの持っているスキルの半分だけっていうのは、どうも気にかかる。

 魔法で、スキルのようなことができればいいけど、それも何か違うような気がしてならないんだよな。

「そうだ。魔法で同じようなことも可能であろうが、例えば、剣士がスキルを使い、魔法師が魔法の剣を使って戦えば、剣士のスキルが優位に立ち、剣士が勝つ。しかし、炎などの元素魔法は、スキルよりも優位に立ちやすいが、場所の影響も受けやすい」

 うーん。そうすると、スキルっていうのは、かなり、使い勝手がいいのか?魔法も、知識の中であるのだが、使える者がいた程度なので、自分が使ったような感じがしない。おそらく、生まれなおしても魔法とは無縁だったのだろう。

 代わりに、スキルというものは、なんとなく、わかりやすかった。

 楽器の演奏ができるまでに、反復練習をする。そうすれば、上手い下手は関係なく、演奏はできる。演奏スキルというものが手に入るわけだ。練習すれば、身につくものがスキルであるのだろう。

 ふと、棒神様が、何も言わないことに気づいた。考えたそばから、すぐさま答えてくれたのに、今は、腕を組んだまま動かず、沈黙を保っている。

 選ばないといけないのか。

 前者であれば、人の手をそこまで借りることはないだろう。魔力は少ないが、魔法使いの友達でも作ればいい。
 後者ならば、魔法使いとして、魔法が使える。スキルも友達を沢山作れば、上手くやれるだろう。

 何だ、簡単じゃないか。答えはもう出ていた。

「後者でお願いします」

 英雄になれなくていい。誰かの支えになればいい。何より、魔法を使う知識はない。ないなら、覚えればいい。

「うむ。自らの導きに従え。神の導きなど、あってないようなものだ。選別だ。スキルの希望を申してみよ」

 顔がないけど、にんまりと笑ったような棒神様。

「スキルは…よくわからないんですが、病気は怖いので病気になりにくいのと、あと、物作りに関係するものの二つでいいです」
「力を使うものでなくていいのか?」
「その、戦うのはわかっているんですが…できれば、それを避けて、仲良くできたらなぁーって」

 もふるのが目的ではない、とも言い切れないけど、仲良くできればそれでいいし、物作りは、趣味というか、知識がやたらと芸術系に偏っている為、せっかくの知識を生かしておきたかった。

「そうか…そのように思考したか。仲良くか。それがお前の道なのだろうな。ならば、身体強化と、造物の二つがよい。残りのスキルは、我が適当なものを後程与えるとしよう」

 神様にお任せっていうのは、どうかとも思ったが、急に使いたいものといわれても、浮かばないものだ。なら、文字通り神頼みしよう。

「身体強化は、そのままだ。身体を強化し、戦いにも使えるが、基本、病気知らずになる。珍しくはないどころか基本みな持っている。造物は、全ての物を作るというスキルであるが、自らの手によってという、制限がある。造物以上のものは、神の域になるのでな、我は認めぬ。が、お前が作るものならば、ある程度は認めよう。他にも何かあるか?産まれる場所も選べるぞ?」
「できれば、家族が仲の良い人達で、それから、似てるような性質のある人達がいいです。あ、物作りが許される環境だと、さらにいいです」
「そうだな…では、精霊に委ねるとしよう。精霊の判断によるが、良き所へ産まれるだろう」

 精霊様!知識の中にも精霊様の話はあるが、下手な神様よりもかなり身近な存在に思える。もちろん、そんなものはいないという知識の矛盾もあるのだが。

「精霊様にも、会えますか?」
 
 神様に会っているのに精霊様の方がドキドキしてしまう。見た目が動物要素あると思うからな。ドキドキしてしまうだろ。

「そのうち会えるであろう。では、その時まで、記憶を封印する。五歳の祝福前には、思い出すようにしておく。では、良い円と線がお前を祝福するだろう」

 祝福って?とか、まだ聞きたいことが山ほどあるのに、詳しくたずねる前に、星のような砂浜に、魂が引っ張られる。遠ざかる棒神様は、腕を曲げ、ゆらゆらと腕をゆらす。手を振ってる?と思った瞬間。

 また、ぐるぐると、まわる空間へと戻った。
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