選ばれたのはケモナーでした

竹端景

文字の大きさ
6 / 229
第一章 棒人間の神様とケモナー

我が家へ

しおりを挟む
 当面、ケルンと俺は独立した存在として認識しあうように、それとなくケルンに提案しておくと、よくわかっていないが、妖精さんとでも思ってもらおう。

 「んー?」 
 
 よくわかってないが、まぁそんなもんか。フォローはそのつどしていく。
 問題はなくなったと気を抜いていると、あっという間に目的地についてしまっていた。

 解放されている門を抜けるとそこには見慣れた建物があった。
 左右対称の噴水に、ふかふかの芝生。まさにお屋敷といえる場所。
 どこにだしても恥ずかしくない、自慢の家。ここが我が家だ。ただ、先祖伝来の屋敷を父親たちが自分たちで建て直した話をきいている。貴族と使用人が直せる程度なんだから普通の貴族の屋敷はもっとでかいだろうな。

 ケルンが産まれて増えたものもある。もし、転んでも怪我をしないようにと、ケルンが歩く道は、ふかふかの芝生が植えられている。だから、倒れても怪我どころか、痛み一つない。普通の芝生よりも羽毛布団うもうふとんのような、しかもかなり高級な布団のような芝生だ。
 芝生のないところは、基本、エセニアの背中に乗って、移動する。もしくは、庭師の背中に乗るのも多い。

 過保護すぎる。いくらなんでも、これは酷い。
 
 俺が有する知識の結論は、バカ息子製造環境にいると出た。もしくは子豚ちゃん製造過程、いや製造家庭か。
 
 運動と情操教育のためにも、身近な子供がいれんばいいが、貴族社会はそういうところが厳しいようだ。

 救いといえば、同年代の友人は、悲しいことに、一人もいないが、太っていない。ちょっと、小柄な気もするが、四歳児だ。希望があるさ、きっと身長だって高くなる。フラグなんかではないぞ。
 とにかく、俺がしっかりしなくては、ならないだろう。棒神様ぼうじんさまにいわれたことを成すためにも、この環境に甘えきってはいけない。

 魔物や魔族と、なるべく仲良くして、モフろう。確か、そんな方向だったはず。たぶん。

「坊ちゃま、すぐにザクス先生をお連れしますからね!」
「大丈夫なのに、ねー?」

 青ざめたエセニアには悪いが健康そのものだ。

「念の為にもです!」

 エセニアはそういって、かしでできた、玄関の重厚な大扉を片手で開けた。

 玄関を開けると、中央には、階段、右手には食堂や、少し離れて使用人たちの個室や休憩場がある。左手には、来客用の部屋と、旧館に繋がる廊下も確か存在していた。
 旧館の方は、大人たちの仕事場として、危険であるからと、ケルンは行っていない。そのため、俺も概要はよく知らない。

 ひときわめにつく、中央階段には、父様と母様、そして、ケルンの三人が仲良く並んだ肖像画がかけられている。

 ちなみに、作者は俺だ。正確には俺という知識の解放がされる前、二カ月ほど前に、ケルンが描いた肖像画だ。

 幼児が描いた絵と侮ってはいけない。
 スキルの有無が影響しているのがわかるほどの出来栄えなのだ。

 スキルがあれば年齢を問わない。それほど、この世界ではスキルに重さを置くようになっているのだ。

 絵も少々特殊だ。普通の油彩画、油絵などは、テレピンなどの光沢で、光が反射する。だが、この絵は、光の当たっていないところも、ぼんやりと光っている。髪や、椅子、カーテンなど。絵の中で明暗や、光ることで、まるで絵の中に風がふいているようだ。 

 きらりと所々光る絵の秘密は、絵の具にある。鉱石の粉を絵具に使うというのは、どこの世界でも変わらない。だが、魔力のある世界には、魔石という魔力がこもった石が多くある。用途によって、様々なものに使える。
 こすれば、火がつくマッチ代わりなものから、砕けば雷が出る攻撃的なものまで。比較的、どのような世界にもあり、俺の知識にも勿論、含まれている。

 しかし、魔石というのは、どこの世界でも、ぴんきりで高い。その上、この世界では、絵の具に使うような使用方法はまずしない。ただ、普通の鉱石よりも綺麗な仕上がりになるのは知られていないわけではない。
 重宝しているが、自給自足かつ、そこまでお金がないだろう我が家で、最低ランクの魔石でも、絵を描き続けるのは、正直、無理なはず。

 そこで、父親におねだりをした。魔法使いの父親なら、鉱石に魔力を注ぎ、疑似魔石を作れるのではないのかと。
 その狙いは大当たりした。
 知識の俺が目を覚ます前に、ケルンは、漏れ出ていた知識から、その着想にいたったようだ。

 さすが俺。賢い。思わずケルンもニコニコだ。

 その疑似魔石によって描くことで、奥行きと、まるで、そこに立っているかのような精巧な絵が描ける。
 明暗をつけて輪郭をだすのではなく、動いている時のように、見え方が変わるよう、同じ色でも発色を変えるようにしたのだ。

 呼吸で、肩がゆれる表現を視界に錯覚させるために、明度の違う魔石を作ってもらった。
 『ライト』という基礎魔法をこめてもらった疑似魔石をいくつか用意した。
 弱い魔力で、発光する青い魔石と、強い魔力で発光する青い魔石。元が同じ鉱石であるから、色は同じでも、重ねて使えば、立体視できる絵画の完成である。

 写真より、立体的な3Dに近いだろうか。風の表現もできるので、個人的には、お気に入りの絵の具に、渾身の力をこめて描いた。

 造物スキルの影響と、俺の知識によってなのか、つくづくなかなかのできだと、自分でも思う。
 これが本当の自画自賛。
 おい、ケルン、首をかしげるな。つらくなる。

 さて、俺たちの両親の姿はこの絵をみればすぐにわかるだろう。

 若い頃は、モテただろうと思えるほど、整った顔をした、白髪まじりの金髪に、自然と目が吸い込まれる深い青い目に、優しそうに微笑む、六十代とみえる男性。

 今でも、振り返って、思わず立ち止まるような美女。黒い黒曜石のような髪と陶磁器のような真っ白い肌、夕日を思い出させる赤い瞳は、ややつり目がちな印象をあたえるが、口元の微笑みで、優しそうにしかみえない三十代くらいの女性。

 その間で、にっこり笑う、二人の子供であると、一目でわかるほど、よく似ている黒い髪に、青い瞳の子供。

 題名『とうさまとかあさまとぼく』

 右下に、この国の公用文字である、スメイン文字でサインしてある。ローマ字を上下をさかさまにしたような文字で、『FD』というサイン。名前をそのままに描くのはよくないからと、ケルンの母親が名付けた。

「執事長様!メイド長様!」

 いつもなら手洗いとうがいをしてから、おやつなのだが、今日はそうもいかない。

 屋敷に入るなり、エセニアは大きな声を張り上げた。執事長もメイド長も、エセニアの身内であるが、仕事中は、役職で呼び合うようにしている。
 ただ、残念ながら、執事は執事長だけだ。見習いの執事は何人かくるのだが、長くは続かない。メイドも同じだ。まぁ、次の主が、落ちこぼれという俺であるから、早々に見切りをつけるのだろう。

「エセニア!大きな声をだして…坊ちゃまに何があったのですか!?」

 メイド長で、エセニアの母親であるフィオナが、足音を立てて走ってくる。いつもは、完璧なメイドとして、足音一つたてないが、よほど慌てているのか、途中から足音をたててこちらに向かってくる。
 四十代ほどの熟練メイドが、犬耳をぴんっと立て、臨戦態勢だ。

 呼んでも来ないところをみると、一人しかいない執事長のカルドは、同じく一人しかいない料理番、料理長のハンクと町へ買い出しに行ってていないのだろう。ハンクは、無口、不愛想で、普通の人でありながら、野良猫のような人で、買い物は、苦手だ。

 しかし、俺は知っている。ああみえて、ハンクは、優しくてテレ屋な、気のいい兄ちゃんであると。まだ、二十歳そこそこで、料理の腕もかなりいい。できれば、料理勝負がしたいものだ。

 俺が知っている料理も実際に作らないと宝の持ち腐れ、いや技術が身につかない。
 包丁を握らしてくれたならな。さすがに、四歳では無理なのか。五歳なら、大丈夫ではないだろうか。今度、頼んでみよう。
 でも、ハンクは料理だけであとは苦手らしい。

 我が家の家事や来客の対応は、獣人の親子三人で行っている。
 冷静沈着な、狼系ダンディ執事と、柴犬熟女。二人の娘がエセニアで、彼女の他に、獣人ではない、息子が三人いる。
 現在、二人は王都、一人は少し離れた都市にいる。この三人ともかなり濃い性格をしていて、カルドの遺伝子はスキルぐらいにしか、出てないんではないかと疑問しかわかない。性格は遺伝しなかったようだ。

 棒神様ぼうじんさまが詳しく教えてくれなかったのだが、獣人の子供が、必ずしも獣人として産まれる、というわけではないのだ。逆に普通の人同士でも獣人が、産まれる。詳しくは、今度の勉強で教わるので、俺も理解していない。

「メイド長様!坊ちゃまが、急に倒れられたのです!すぐに、ゼクス先生をお呼びしてください!」

 慌てん坊だな。急に倒れてないだろう。確か、綺麗な蝶をみて、どうやら、それが、棒神様のいってた封印をといた影響で、俺はケルンと統合…するはずが、独立している現状になってしまっている。

「まぁ!貴女がついていて、なんということ!坊ちゃま?私がおわかりになられますか?」

 エセニアの背中をおりるなり、フィオナに、全身をチェックされる。今日は、泥団子作ってないから、洋服汚れてないよー。なんて、ケルンの感情というか、思いが浮かぶが、まずは、質問に答えるのが先だろう。

「フィオナだよ?あのね、エセニアが、心配しすぎなんだよー、僕、元気だよ!」

 わたわたと慌てる母娘を、どうにか落ち着かせようと、元気いっぱいに振舞っていると、軽やかな笑い声が聞こえてきた。

「何の騒ぎかと思えば、私の可愛い坊や。痛いとこはないかしら?」

 中央階段から、真紅のドレスを着た、年齢不詳の美女。母様が、ゆったりとおりてきた。
 ケルンが産まれる前に、大きな事故にあったそうで、詳しくは知らないが、その事が原因なのか、母様は、体調を崩すことも多く、よくこの時間は休んでいた。
 しかし、これはすでに過去のことで、今は健康そのものだ。ケルンが産まれてから、体調を崩すことはなくなったのだが、染みついた生活習慣なのか、この時間帯は、ケルンの散歩に時々ついてくるか、散歩から戻るまで、部屋で休んでいる。今日は、ゆっくりする日だった。

母様かあさま!うん!大丈夫だよ!」

 大好きな母様に、会えて、ケルンのテンションが上がって、母様にかけよっていく。それに、心配そうにしゃがんで、おでこを合わせる母様の瞳の中に、わずかばかりの焦りを感じたから、余計に元気よく返事をした。
 心配性なんだよな。

「でもね、王都で怖い病気が流行っているから、お父様にみてもらいしょうね」
父様とうさま?やったー!」

 ん?病気なら、ゼクス先生で、いいんじゃないか?という疑問を持つが、ケルンの父様に会える!っていう喜びが優先される。

 母様は、右手の銀のブレスレットについている、青い色の石へと、唇を寄せた。

『コール』

 その瞬間に、ふわっと風を感じた。魔法だ。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

神のミスで転生したけど、幼女化しちゃった! 神具【調薬釜】で、異世界ライフを楽しもう!

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
旧題:神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜  ※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!  電子書籍は、2026/3/9に発売です!  書籍は2026/3/11に発売(予約受付中)です!メロンブックス様より、特典の描き下ろしSSペーパーがあります。詳しくは、メロンブックス様へお願い致します。  イラストは、にとろん様です。よろしくお願い致します!  ファンタジー小説大賞に投票して頂いた皆様には、大変感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...