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第二章 事件だらけのケモナー
ガマの商人
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事件が起こったのはやはり暑さが原因だったのだろう。
少しばかり暑さが和らいだころ、日課の散歩から戻ってきたときのことだった。
「どうか!おとりつぎを!」
「くどい!旦那様はお忙しいのだ!」
と、屋敷の前でカルドがみたことがない男と軽い口論をしていた。
何回かこういう現場を目撃したが、だいたいが一度はみたことがある人の押し問答で、エフデ関係のことでだった。
主に印刷所の所長さんとか、絵を描いてほしいと頼んでくる人とかが常連だ。
「誰だろうねー?」
着ている服とかは高そうだけど、貴族っぽくない。どちらかというと商人、しかもそこそこ稼いでそうだな。趣味は悪いが、質はよさそうだ。
「しょうにーん?」
商人な。それだと承認して光になれー!っていうから。
「ぴっかりーん?」
…ヅラっぽいけど触れないでおこうな。
「また来ているようですね…坊っちゃま。裏から入りましょう」
さっきまで、手を繋いでニコニコと機嫌がよかったのだけど、エセニアの機嫌が悪くなった。
普通に押し売りとか、エフデ関係でここまで不機嫌になることはないんだけど、あの人が何かしらやらかしたのか?
「ですが、執事長!あの冷風機には安全策がとられてません!ですから、我が商会で共同開発をしてより安全な物をですね」
「それがくどいといっている!安全策はきちんとしているといっている!…それに、あれは販売ではなく、譲渡したものだ。しかも、貴殿とは無関係の場所にな!」
商人の人は、はきはきと大きな声で話す人ばかりなのかな?離れている俺たちまで聞こえる。あ、ケルンの場合『身体強化』のスキル効果もあるとは思うが、そうじゃなくても聞こえるだろうな。
蛙みたいな首があるのかないのかわからないほど、たくましい商人だから、声量はあるとは思うけどな。
どうやら、開発した冷風機のことで、また商人が問い合わせにきているようだ。共同開発といいつつ、ほとんど出来上がっている品に開発もないだろう。
流通の拡大を売り文句にしてきた人もいたが、量産する予定は今のところない。父様も忙しくて屋敷に帰ってからも疲れたような表情をよく見せるようになっていた。
この前は司祭様を連れて、二人で書斎で話し込んでいたようだった。
「冷風機のおかげで書斎も涼しくて、仕事がはかどる。ありがとう、ケルン!さすがだぞ!」
と喜んでちょくちょく屋敷に涼みに戻ってくるようになったので、ケルンも喜んでいる。開発したものを使ってくれてお礼をいわれるだけでなく、大好きな父親が短時間でも一緒にいてくれるようになったので、冷風機はよい発明品になった。
ただ、安全策については確かに重要かもしれない。
元が『アイスソーン』の魔法が込められた魔石だ。『アイスソーン』は氷がとげのように地面から生えてくる初級魔法だ。そこまで大きなとげではないが、妨害に使われる魔法らしい。
そんな魔法の込められた氷の魔石をずっと触っていると低温やけどができてしまう。
孤児院や酪農農家さんには分解はしないようにいっておいたのだけど…暑さが原因なんだろうが、何件か盗難被害にあっていて、新しく寄贈しなおしたりもしている。
あの商人がいうとおり、できれば安全策を施した完成品を作りたいのだが、今のところいい案が浮かばない。
でも、なんであの商人が安全策のところをつつくのかな?まさか盗品を手にいれてばらしたのか?…その可能性が高いか。
少しカルドの声が大きくなって、注意を引いている間に、屋敷の裏手にある厨房側から入ることにした。
「坊っちゃま?なんで?こっち?」
厨房は夜の仕込みをしているのか、スープのいい匂いや、食材を切る音が聞こえていた。
ハンクは俺たちにすぐに気づいて、俺たちが表の玄関ではないことに疑問を感じたようだった。
ケルンと同じ黒髪だけど、前髪が伸びすぎて目が隠れている。前髪のすきまからわずかに見える、真っ黒なカラスみたいな瞳をまん丸にして、ハンクが厨房の裏口をみている。
「お客さんがねー、扉をねー、んーと…ふさー?してたの」
封鎖な。あの人には、ふさぁするほどの髪は残っていないだろう。
「またあの商人がきていたんです。坊っちゃまに近づけさせたくなかったので、こちらを使用した次第です」
エセニアがハンクに説明する。またというぐらいだから、やはり何度も来ているんだろうな。
「あのガマ?坊っちゃま、邪魔した?…ガマ油使える。あれは燃やす?」
ガマって蛙のことだよな?ハンクが知っているってことは、本当に何度もきているみたいだ。
ハンクが仕込みをやめて、玄関先を睨みつける。
よく研がれた包丁がキラリと輝いてるぜ。
いや、これは嫌な予感よりも、危険な予感が。おい、ケルン!話をそらせ!
「ハンクー!あのねー…僕ねー…おやつ食べたいなぁー?」
さっき食べたばかりだけど、お菓子ぐらい入るな。
ケルンのおねだりに、ハンクはすぐに包丁をおろして、いつのまにか皿にのせたクッキーをみせてくる。素早い動きと、なんと動物クッキーだ!くぅっ…かわいくてでも食べたいな!
「おやつ?お茶する?」
「それがいいですね。お部屋で奥様とお茶にしますか?」
ハンクとエセニアに誘われて断れるはずがない。二人とも機嫌がいいし、なにより、ケルンの気分がどんどん上がっているからな。
そろそろ母様も読書の時間を終えて、俺たちの帰りを待っているだろうし、お茶にしようか。
「うん!お茶するー!みんなもしよー?」
…なんか、まるでナンパされた感じだなって思う。
結局、お茶会を終えるまでカルドは商人と口論していた。お疲れ様。
少しばかり暑さが和らいだころ、日課の散歩から戻ってきたときのことだった。
「どうか!おとりつぎを!」
「くどい!旦那様はお忙しいのだ!」
と、屋敷の前でカルドがみたことがない男と軽い口論をしていた。
何回かこういう現場を目撃したが、だいたいが一度はみたことがある人の押し問答で、エフデ関係のことでだった。
主に印刷所の所長さんとか、絵を描いてほしいと頼んでくる人とかが常連だ。
「誰だろうねー?」
着ている服とかは高そうだけど、貴族っぽくない。どちらかというと商人、しかもそこそこ稼いでそうだな。趣味は悪いが、質はよさそうだ。
「しょうにーん?」
商人な。それだと承認して光になれー!っていうから。
「ぴっかりーん?」
…ヅラっぽいけど触れないでおこうな。
「また来ているようですね…坊っちゃま。裏から入りましょう」
さっきまで、手を繋いでニコニコと機嫌がよかったのだけど、エセニアの機嫌が悪くなった。
普通に押し売りとか、エフデ関係でここまで不機嫌になることはないんだけど、あの人が何かしらやらかしたのか?
「ですが、執事長!あの冷風機には安全策がとられてません!ですから、我が商会で共同開発をしてより安全な物をですね」
「それがくどいといっている!安全策はきちんとしているといっている!…それに、あれは販売ではなく、譲渡したものだ。しかも、貴殿とは無関係の場所にな!」
商人の人は、はきはきと大きな声で話す人ばかりなのかな?離れている俺たちまで聞こえる。あ、ケルンの場合『身体強化』のスキル効果もあるとは思うが、そうじゃなくても聞こえるだろうな。
蛙みたいな首があるのかないのかわからないほど、たくましい商人だから、声量はあるとは思うけどな。
どうやら、開発した冷風機のことで、また商人が問い合わせにきているようだ。共同開発といいつつ、ほとんど出来上がっている品に開発もないだろう。
流通の拡大を売り文句にしてきた人もいたが、量産する予定は今のところない。父様も忙しくて屋敷に帰ってからも疲れたような表情をよく見せるようになっていた。
この前は司祭様を連れて、二人で書斎で話し込んでいたようだった。
「冷風機のおかげで書斎も涼しくて、仕事がはかどる。ありがとう、ケルン!さすがだぞ!」
と喜んでちょくちょく屋敷に涼みに戻ってくるようになったので、ケルンも喜んでいる。開発したものを使ってくれてお礼をいわれるだけでなく、大好きな父親が短時間でも一緒にいてくれるようになったので、冷風機はよい発明品になった。
ただ、安全策については確かに重要かもしれない。
元が『アイスソーン』の魔法が込められた魔石だ。『アイスソーン』は氷がとげのように地面から生えてくる初級魔法だ。そこまで大きなとげではないが、妨害に使われる魔法らしい。
そんな魔法の込められた氷の魔石をずっと触っていると低温やけどができてしまう。
孤児院や酪農農家さんには分解はしないようにいっておいたのだけど…暑さが原因なんだろうが、何件か盗難被害にあっていて、新しく寄贈しなおしたりもしている。
あの商人がいうとおり、できれば安全策を施した完成品を作りたいのだが、今のところいい案が浮かばない。
でも、なんであの商人が安全策のところをつつくのかな?まさか盗品を手にいれてばらしたのか?…その可能性が高いか。
少しカルドの声が大きくなって、注意を引いている間に、屋敷の裏手にある厨房側から入ることにした。
「坊っちゃま?なんで?こっち?」
厨房は夜の仕込みをしているのか、スープのいい匂いや、食材を切る音が聞こえていた。
ハンクは俺たちにすぐに気づいて、俺たちが表の玄関ではないことに疑問を感じたようだった。
ケルンと同じ黒髪だけど、前髪が伸びすぎて目が隠れている。前髪のすきまからわずかに見える、真っ黒なカラスみたいな瞳をまん丸にして、ハンクが厨房の裏口をみている。
「お客さんがねー、扉をねー、んーと…ふさー?してたの」
封鎖な。あの人には、ふさぁするほどの髪は残っていないだろう。
「またあの商人がきていたんです。坊っちゃまに近づけさせたくなかったので、こちらを使用した次第です」
エセニアがハンクに説明する。またというぐらいだから、やはり何度も来ているんだろうな。
「あのガマ?坊っちゃま、邪魔した?…ガマ油使える。あれは燃やす?」
ガマって蛙のことだよな?ハンクが知っているってことは、本当に何度もきているみたいだ。
ハンクが仕込みをやめて、玄関先を睨みつける。
よく研がれた包丁がキラリと輝いてるぜ。
いや、これは嫌な予感よりも、危険な予感が。おい、ケルン!話をそらせ!
「ハンクー!あのねー…僕ねー…おやつ食べたいなぁー?」
さっき食べたばかりだけど、お菓子ぐらい入るな。
ケルンのおねだりに、ハンクはすぐに包丁をおろして、いつのまにか皿にのせたクッキーをみせてくる。素早い動きと、なんと動物クッキーだ!くぅっ…かわいくてでも食べたいな!
「おやつ?お茶する?」
「それがいいですね。お部屋で奥様とお茶にしますか?」
ハンクとエセニアに誘われて断れるはずがない。二人とも機嫌がいいし、なにより、ケルンの気分がどんどん上がっているからな。
そろそろ母様も読書の時間を終えて、俺たちの帰りを待っているだろうし、お茶にしようか。
「うん!お茶するー!みんなもしよー?」
…なんか、まるでナンパされた感じだなって思う。
結局、お茶会を終えるまでカルドは商人と口論していた。お疲れ様。
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